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・・・
ミフユは少年の手を引き、ホテル街を離れて人通りの少ない路地に入る。
そこで立ち止まると、困惑気味に見上げてくる彼に雷を落とした。
「アンタ、何考えてんの!!」
びくりと体を縮めた少年の肩を掴んで、目を見つめる。
「あんなのとホテルなんか入ったら、酷い目に遭うかもしれないでしょ」
彼はそれが分からないほど子供には見えなかった。
「誰かに命令されたの?」
訊ねると、ぷるぷると首を振る。
「じゃあ、お金が欲しかった?」
これにも首を振って、彼は「あの」とまだ声変わりの途中のような高い声で口を挟んだ。
「ほっといてもらってよかったんですけど。僕、自分がしたくてやってたので」
「したくて……って」
立ち去りかけた彼の手を掴むと、鬱陶しそうに腕を振られた。
「なんですか? 大声出してもいいんですよ」
「出せるなら出しなさいよ、警察が来たら『援交未遂のがきんちょがいました』ってチクってやるからね!」
ぐっと唇を噛み締める少年に、ミフユは厳しい声で詰める。
「あんな変態オヤジ、相手にしなさんな!
写真撮るだのなんだの言ってたでしょうが? そういうの一生残るのよ」
「そんなのお兄さんになんの関係もないじゃん、ほっといて」
「小遣いがほしいならまっとうなバイトを――」
「うるさいな!!」
今度こそ勢いよく腕を振りほどいた少年は、端整な顔に怒りの表情を浮かべて、険しい目でミフユを睨み上げていた。
「お金なんかどうでもいいよ!」
「どうでもいいって」
目を瞠るミフユに、彼は――悔しいような、悲しいような顔をする。
「僕を抱いてくれるなら、どんな男でもよかったんだ」
小遣い目的ではない。
『どんな"男"でも』――。
よく見てみると、少年の髪は男にしてはやや長く、手入れが行き届いているように感じられた。
華奢な手は胸の前できつく握り締められている。
それだけではなんの意味もなさないが、他にもいくつか引っかかる部分があって、察するところがあった。
はっとしたミフユは、すぐに思考を切り換えて訊ねる。
「なんで、そんな自分を傷付けるような真似するの」
「あなたには関係ないことだ」
「話をそらさない。
こんなことしたって、アンタ幸せにはなれないよ!」
ひゅ、と大きく息を呑んだ少年は、一度俯いて――
――少し顔を上げたときには、大粒の涙を零していた。
「ちょ、ちょっと」
ミフユはつい戸惑ってしまい、おろおろと立ち往生する。
少年はそんなミフユには構わずに、声を荒らげた。
「あんたなんかに分かるもんか」
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