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 たまに人が傍を通り抜けては、『何事か』という顔をして去っていく。  みな遠巻きに見るだけで直接話しかけてはこないので、こういうあたり都会にいてよかったと思ったりもするが、ぽろぽろと涙を落とす子供にミフユはたじたじだった。  「僕は……っあんな変なおじさんでも、よかったのに」  声を震わせながら、彼は大粒の涙を零し続ける。  「誰でもよかったんだ。ほんとうの僕を愛してくれるなら。  さっきの人は、僕を女として認めてくれた」  「交換条件で学ランを着ろって言うような男が、本当にアンタを女として見ているの?」  ぐ、と涙をこらえようとして、失敗して泣きじゃくりながら、彼は首を振った。  「わた、僕は、ずっとずっと、女の子になりたかったの。  でも、こんなこと誰にも言えない……っどうしていいか、分からなくて」  ミフユの脳裏に、伊吹の顔が浮かんだ。  それから、初めて同性と寝た日の、あの彼のどこか気抜けした表情を。  ――気心知れた相手よりも、その場しのぎの相手のほうが言いやすいこともある。  「こんなことしたって馬鹿見るだけだって、わかってる」  少年は――少女は、手の甲で涙をぬぐいながら叫んだ。  「でも!! 女の子になりたかった……! 一時の誤魔化しでしかなくても!  なんで私、男の子なの? どうしてこんな体に生まれてきたの!?」  ミフユの中で、ずっとわだかまっていたものがある。  箪笥に押し込まれたワンピース。  あれを着て、可愛く飾り立てて、母親の前で踊っていた自分。  今さらあの服を着たいわけじゃないけれど、あれを着て幸せだったという事実は自分の中に残り続けている。  そんな、男でも女でもない自分。  間違っていやしないかと……引っかかり続けていた。  細かい部分は違えど、何者でもない自分に苦しむ少女の気持ちは少し理解できた。  「……顔上げなさいよ」  涙に濡れた白い頬に、手を伸ばす。  赤く熱を帯びた眦を擦ると、親指に湿った感触が伝わった。  「そんなに女になりたいなら、なればいい。まともな仕事に就いてね」  「え……」  「今すぐは無理でも。  アタシ、この近くのゲイバーで働いてるの。  接客は駄目だけど、裏方の仕事くらいあげるようにママと交渉してもいいし。それで費用稼いで、手術って手もある」  涙が止まって、驚いた目がミフユを凝視する。  「いくらでも道はあるのよ。だから、ヤケになりなさんな」  素朴なパーカーに覆われた、華奢な体を抱き寄せて、小さな頭をめいっぱい撫でてやった。  「大丈夫。  世の中、男と女だけでできてるわけじゃないのよ。いろんな個性が混じりあって成り立ってる。  常識外れだって、それがアンタの個性なの。  『男と女が同居してるアタシ』を愛してあげなさいな」  白いワンピースが浮かぶ。  ミフユは、自分自身に言い聞かせるようにしながら彼女の頭を撫でていた。  「それが、アンタなのよ。他の誰でもない、あなた自身……」  仲間の存在を腕の中に感じる。  自分の胸を借りてしゃくりあげ、しがみついてくる小柄な身体。  「本当の『アタシ』を嘘で塗り固めて、見失っちゃだめ。本当のあなたをさらけだすの。  そしたら、アタシがアンタを認める。他の誰が受け入れなくても」

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