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 「そんな馬鹿な!」  李が目を剥き、驚きで硬直した隙を突いて、ミフユは右足を思いきり蹴り上げる。  靴の先が李の股の間にめり込んで、頭上から「ひんっ」と高い声が降ってきた。   「~~っ!」  声にならない絶叫を上げて蹲る首領の姿に、後ろに控えていた黒服たちが慄く。  慌ててカバーに入ってくる彼らに向かって、ミフユは起き上がりざまに突進して一発ずつ鳩尾に拳を突き入れた。  「ごほっ」「ぐっ」  一撃では倒れなかったが、皆の動きが止まる。その間に後ろに退()いて距離をとろうとすると、誰かと背中がぶつかった。  「――っ伊吹!」  「相変わらずバケモンだな、美冬」  面白そうに笑っている伊吹の前には、やや息を荒らげている水無月。加えて、他に数人の彩極組構成員が転がっていた。  李に手一杯で気付かなかったが、伊吹が他の敵も引き受けてくれていたらしい。  「アンタも似たようなもんでしょ」  唇を緩めるミフユに、伊吹が笑みを深めた。  「じゃあ言い方を変える。『オオトリ』は変わらずバケモンだ」  薬のせいか呼吸は荒いが、拳についた擦り傷のほかには怪我もなく、ピンピンしている。  「……あったりまえじゃん、アタシと伊吹ちゃんなんだから」  関係がこじれていたことなんて忘れて、ミフユは相棒と昔のように並べている事実に歓喜した。  「フザケてる野郎だ、レディボーイ……!」  「!」  そこへ、李がよろめきながら立ち上がり、血走った目で睨み上げてくる。ただしまだ腰に力が入りきらず、ふらふらとよろめく。  「あら、潰す勢いで行ったのにしぶといのね」  「貴様のチン×こそ、女男らしく、ズタズタに切り刻んでやるヨ……!」  刃が欠けた柳葉刀を掲げて、李がゆらりと進む。その後ろから他の黒服たちも追随してきたが――。  「姐さん!!」  三度(みたび)非常口のドアが開き、男たちが大勢駆け込んできた。  「――狗ちゃん!」  先頭には狗山がいる。今度は鳳凰組陣営の援軍だ。  「すんません、遅くなりました!――兄貴っ」  彼らはミフユの後ろに目を向けると、一様に目を輝かせて叫んだ。伊吹は微笑を浮かべながらそちらを一瞥する。  「おう、手間ぁ掛けさせたな。彩極のやつらは抑えたのか?」  これには狗山の隣にいた坊主頭が代表して「滞りなく」と答え。  「組長(オヤジ)の許可が降りて、組の大半の人員を割いてます」  「そうか。じゃ、迷惑かけられついでにもうちょっとだけ付き合え」  「はい!」  これで他の黒服たちは狗山らが請け負うことになり、ミフユと伊吹はそれぞれ、李と水無月に一対一で向き合う形になった。

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