165 / 191
4−35
「羽虫がわらわらと……!」
李が歯噛みする。
形勢は一気に入れ替わり、ミフユたちが優勢となった。
こうなればもはや李たちの計画はほとんど頓挫したと言っていい。
だが李は未だ退く様子がなく、刀を振り上げて駆け出した。
「ワタシたちは【禁じられた果 実】で大陸を制覇するのヨ! こんな汚ェ街のゴミ虫どもに邪魔はさせないネ!」
李は巨躯を撓らせ、低く腰を落とす。
腹部を狙い、一縷の無駄もない動きで繰り出された蹴りを、ミフユは相手の向こう脛を蹴り返すことで食い止めた。そしてすぐさま振りかぶられた刀を、その手元を掴んで抑えつける。
「ぐっ……!」
即座に膝を上げ、李の手首にめりこませて骨を砕く。李は呻き声を上げて刀を取り落とした。
「ひとつ、アンタに言っておきたいことがあったんだわ」
武器を取り落として慌てる男の脇腹に、もう一発蹴りを入れる。
「レディボーイレディボーイうっさいけど、アタシは違うからっ! ずっと間違って区分されて、ムカついてたのよっ!!」
「ぐおおおっ!」
李が吹っ飛んでいった隙に後ろを窺うと、伊吹も水無月を押していた。
「僕の――遥斗の輝かしい成功をっ! お前らごときに邪魔させな――」
「うるせぇ!」
水無月は伊吹に思いきり顎を蹴り上げられて、ひっくり返った。
それでもすぐに跳ね起きて修羅の形相で立ち向かってくる姿は、男がいかに『遥斗』という虚栄に執着しているのかを如実に表していて、いっそ滑稽にすら見える。
「くそ!」
起き上がった水無月の手には、ナイフが握られていた。
叫び声を上げながら向かってきた相手を伊吹は正面から迎え、
「ぐぁっ!」
水無月の手から凶器をはたき落とした。その腕を掴んで、目の前まで引き寄せる。
「お前みてえのがいると、男の面汚しなんだよ」
そのまま顔面にパンチを入れて、水無月を昏倒させた。
一度静寂が辺りを制したが、ミフユは伊吹とコンマ一秒視線を合わせた瞬間、彼の背後に目を向けた。
――水無月が懐に手を入れている。
(銃か)
EDENで影武者を撃ったのと同じ物だろうか。
「死ねぇええ!」
水無月が嗤う。
「ずっと隠し持ってたってわけね――」
銃声が鳴ると警察沙汰になる。それを避けるために使わずにいたが、もうなりふり構っていられないということだろうか。
だがいち早く水無月の行動を読んだミフユは、引き金が引かれる前に走り出して、水無月の腕をとり天井へ向けた。
発砲音とともに押し出された弾は的を外して、斜め上に軌道を作っていく。反射した弾が誰かに当たることもなく、掲げられた銃は地面に落ちた。
「どこまでもコスい野郎だことっ!」
水無月の腹に蹴りを入れて、床に組み伏せる。
銃を取り上げて水無月を抑えたミフユの後ろで、李の哄笑が響いた。
「最後に勝つのはワタシヨ!」
振り向いたミフユの先に、拳銃を握る李の姿があった。照準はこちらに向けられている。
ともだちにシェアしよう!