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 (――そっちもかよ!)  水無月を抑えるので手一杯のミフユは動き出せず、引き攣った笑みを浮かべるばかりだった。  代わりに伊吹が踏み出して、相手との間合いを一息に詰める。  「ココがテング(・・・)の納めどきヨ!」  しかし、そうしている間にも拳銃の撃鉄が下ろされ、李の指が引き金にかかる。――間に合わない。  (いっそ水無月を盾に……なんて、非人道的すぎるわよね~!)  魔が差すミフユ、ケタケタと笑う李の前で――伊吹の進路が横に逸れた。  その足元には、彼を拘束していたパイプ椅子がある。  伊吹はにやりと笑って、それを思いきり蹴り上げた。  「こないだの借りを返してやんよ――利息は一日三割(ヒサン)でな」  椅子は重量をものともせず李めがけて飛んでいき、銃を握る手に当たった。  「んぎっ!?」  何が起こったのか把握できず目を剥く李の上に、助走をつけて跳ね上がった伊吹が降ってくる。  「うるぁああああ」  怒鳴る伊吹が右拳を固めて、振りかぶる。  「納めるのはてめぇの年貢だったな、この天狗野郎!!」  しっかりと脇の締まった伊吹のストレートが、李の鼻っ柱に綺麗に収まった。  「がっ……」  李の体は大の字になって宙を舞う。そして、壁に背中から叩きつけられて沈んだ。  事の顛末を見届けた水無月は、どたばたと暴れ狂って憤慨した。  「くそっ! くそが!!」  「もー、じっとしてなさいよ。往生際悪いわね」  「離せ!」  仰向けに転がされ、ミフユに手を抑えられている水無月は、恨みがましい目を向けてくる。  「許さない……必ず報復してやる……! 僕の邪魔をした償いは、お前の命を持って」  すぐ間近で銃声が響き、水無月が「ひっ」と息を呑む。  水無月がそろそろと視線を下ろしていった先には、自身の股間があり――そのすぐ真下の床に焦げ目ができていた。  「勘違いしてんじゃねえぞ」  「へ……?」  奪った銃を握り、その先を水無月の股ぐらにぐりぐりと押しつけたミフユは、もう自分の本性を愛嬌などで取り繕いはしなかった。  続けざまにガンガンと銃をぶっ放すと、水無月は下半身をタコのようにのたうたせて悲鳴を上げた。  「ここで死ぬか?」  「なっ……」  ミフユは銃で水無月の急所を押し潰しながら、茶金の前髪を引っ張り上げる。  前髪だけで体の上半分を支えさせられ、痛みに呻く水無月に額をすりつけるようにして凄んだ。  「おれの可愛い妹分に汚ねえ仕事手伝わせやがって……『許さない』はこっちの台詞だボケ、てめえの流したクスリでヤク中にされた奴もいんだよ」  「い゛っ、痛っ!!」  股間に鉄の塊が食い込んで悲鳴を上げる水無月に、ミフユはさらに二度銃を叩きつけるようにした。  「これはアキちゃんの分」  「ひっ!」  「で、もう一発はモリリンちゃんの分」  「ぎゃっ――」  失神しかけた水無月の頬を、銃を握った手の甲でぶつ。  「寝んな、聞け」  「い、痛いぃ……」

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