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 「おめーは生きて帰るんじゃねえ、おれに“生きて帰らせてもらう”んだ。別に殺ったっていいけど、それじゃアキに顔向けできないから。  一丁前に恨みごと言うまえにあいつに感謝しとけよ」  「その代わり」と再び銃口を股間に向ける。すっかり青ざめた顔でぜえぜえと息を吐く水無月に、ミフユはきっぱりと告げた。  「次はない。  妙なマネしたら、おれはお前を地の果てまで追って殺す」  「ひぃ……」  がっくりと項垂れた水無月の首根っこを掴んで立ち上がる。  持っていた銃を、指紋を拭って適当にその辺に放ると、あたりを見渡した。  李が率いていたマフィア、彩極組の構成員はみな沈黙し、その場に立っているのは鳳凰組の人間のみになっていた。  「――丸くなりやがったと思ってたが、勘違いだったな」  「伊吹ちゃん」  微笑を浮かべる伊吹に笑って返すと、奥からミフユたちを呼ぶ声があった。  「兄貴、姐さん! ブツの保管場所が分かりました!」  上の階を制圧したという組員の手には、USBメモリが握られていた。  「これに【禁じられた果実】の流通ルートや取引先の情報が入ってました。  薬の大半は港近くの倉庫に保管されていて、これから中国に輸出される手筈だったようです」  「そうか。  じゃ、これからその証拠を持って組対の刑事にタレ込めば、水無月一派は潰れる。警察連中にも恩を売れるってことだな。でかしたぞ」  伊吹が言うと、組員は顔を綻ばせて頷いた。  「はい。もう顔なじみの刑事に連絡してますから、すぐ来ると思います」  これで一通りのカタはついた。  床に散らばったマフィアや彩極組の人間を拘束しながら、皆撤収していく。  ミフユらも複数の組員に水無月を引き渡したところで、伊吹がよろめいた。  「伊吹!」  咄嗟に支えたミフユの手にじんわりと熱が伝わってくる。その体はいつかのときと同じように、熱く火照っていた。  「あ、兄貴!?」  どよめく組員たちに向かって、ミフユはさっと手を上げる。  「また薬盛られたのよ! すぐ病院に」  バタバタし始めた組員に囲まれつつ、伊吹の肩に腕を回す。  「意識はある? 伊吹ちゃん」  声をかけるが、返事はない。  (だって、二回目だもの……)  そもそも覚醒剤の類は、たった一度の乱用で命を落とすこともある危険な代物だ。芸能界でしょっちゅう逮捕者が出たり、時には学生でも手の届くものだから甘く見がちだが。  しかも、水無月にどれだけの量を打たれたのか分からない。  「兄貴は大丈夫なんスか……?」  伊吹を抱えてビルを出つつ、舎弟が不安そうに尋ねてくる。  ミフユはその男の肩を軽く殴った。  「ヤクザが情けない顔すんな」  「す、スンマセン!」  下手に気休めの言葉をかけると、全員がひよった雰囲気になりかねない。  だからあえて「平気だ」とも「分からない」とも答えなかったが、たぶんこの場で一番気が気じゃないのはミフユだった。  伊吹とは、出会うたびにとびきり嫌な事件が起こって、最後には決別する。  (それがアタシたちの運命だってんなら、しょうがないでしょうよ)  けれど。  (でもさ、伊吹ちゃんが死んじゃうのは違うでしょ)  自分が不幸になるのは既定路線だとしても、彼は違う。  待機していた車に伊吹を担ぎこみ、病院へと向かいながら、ミフユはいるかも分からない神様に啖呵を切っていた。  (まだ伝えたいこともあるんだから。 ……もしものことがあったら、天国でも地獄でもカチコミかけるからな) 《三度目の別れ》を悲劇で終わらせるわけには、いかない。

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