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・・・
ぽつぽつと落ちていく点滴を眺めていると、下から名前を呼ばれた。
「……如月」
はっと息を呑んだミフユは、そろそろと視線を下げる。
すると、ベッドの上で眠っていたはずの伊吹と目が合った。
「なんつー顔してんだ」
彼が笑った瞬間、鼻につんと一気に熱が集まるのを感じながら、伊吹に飛び着いた。
ベッドの枠に体が当たってがしゃんと音をたてる。
「伊吹ちゃん」
そう呼んだ声は震えていた。
「大丈夫? どこもおかしいところない?」
「ああ。少し頭が痛ぇけど。それくらいだ」
ミフユは形容しがたい感動を覚えながら、肩に額を押しつける。
伊吹が昏睡状態になってからずっと緊張していた体が急速に緩んでいき、ぐたりと脱力した。
「アタシ、病院って嫌いだわ」
ぐりぐりと額で伊吹の肩を抉りながらぼやく。
「もっと言うと、こういう個人の病室って特にイヤ」
ぐすぐすと涙ぐみながら愚痴ると、すぐ耳元で彼が苦笑するのが分かった。
伊吹はこうしてまた笑ってくれたけれど、ミフユの母はこの部屋に入ったきり二度と普通の世界に戻っては来なかった。
伊吹もあと数歩で同じ道を辿っていたのではないかと思うと、泣き止もうにも泣き止めない。
「心配させて悪かった」
背中に回した腕に力をこめたミフユに、殊勝な言葉が降ってくる。
「ちょっと、本当に大丈夫なの。潮らしすぎるわよ」
仰天してがばりと体を離したミフユは、呆れる伊吹の頬をぺちぺち叩き、その顔を両手で支えて上から見下ろし下から見上げ、異常がないか検分する。
しばらくはされるがままになっていた伊吹だが、やがて痺れを切らしてミフユの顎に掌底を喰らわせた。
「うざってえ」
「げふぅっ」
それでもなお「平気なの」「どこも辛くない?」「お医者さん呼ぶ?」と畳みかけるミフユに首を振って、伊吹は体を引き離した。
それから、ふと窓に目をやる。
外は明るく、よく晴れた空に冬の太陽が輝いていた。
「ここに来てどれくらい経つ?」
鼻を啜りつつ、ようやく落ち着きを取り戻し始めたミフユは指折り数えて答える。
「三日と半日かな。
伊吹ちゃん、あの夜に病院に担ぎ込まれてから丸三日寝てたのよ。今日が四日目の朝。もうすぐお昼」
「……結構経ってるな」
棚に置かれていたティッシュを引いてずびっと鼻をかんだミフユは、恨めしげな視線を送った。
「そうよ。アタシがどんなにやきもきさせられたかお分かり!? もう、お店もモモちゃんたちに任せて休んじゃって」
「悪かったって」
「まぁたらしくないこと言う!」
謝罪したのに憤慨され、困ったように笑う伊吹にミフユも顔を緩めた。
「……おかえり。無茶しやがって」
「おう。――相棒置いておちおち死んだりしねえよ」
微苦笑を浮かべたミフユは、もう一度伊吹を強く抱き締めた。
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