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・・・  ほとんど照明の落とされた店の片隅で、ミフユはウイスキーのグラスを伊吹に向けた。  「まずは、事件解決おめでとうってことで」  伊吹もグラスを掲げて、ミフユの分にぶつけてくる。  そして軽い音をたてて離れていくと、ミフユは中身を一口呷った。  「こんな風に二人でゆっくり飲むの、何年ぶりかなぁ」  再会してからも一緒に飲む機会はあったが、そのときは客と店員の立場だったりEDENに潜入しているときだったりで、どこか一線引いた状況だった。  こうして肩を突き合わせて飲むのは数年ぶりだ。  「組にいた頃はいつも飲んでたのにね」  「……そうだな」  頷く伊吹に向かって微笑を浮かべる。  「仕事でもプライベートでもそれだけ一緒にいたからね。懐かしいなあ」  それからとくに会話が弾むこともなく、穏やかに時間が流れていく。  話したいことは、大鳥の屋敷やあの池で語り尽くしていた。  そんな今ミフユの頭の中を占めているのは――  (綺麗だな)  何度となく見つめてきた横顔を飽きもせず眺めて、笑みを深める。 ――伊吹が自分のものになってくれたという喜びだけだった。  「明日は? 予定はないの」  「ああ、大晦日と元旦くらいは休めるようにして――っおい」  すっと腕を伸ばして手の甲で形の良い頬を撫でると、酒を飲んでいた伊吹がぴたりと動きを止めた。  「お前」  「なぁに? わざわざ休みを作ってから店に来てくれたのって、そういう(・・・・)意味じゃないの?」  伊吹の耳が朱に染まっていく。まさか酔いが回ったわけじゃないだろう。  「今からうちに来る? 年が明けるまでゆっくりしていけばいいよ」  グラスを持っていた伊吹の手を上からそっと握り、カウンターに置かせる。  こちらを見つめてくる顔は不機嫌そうに見えたが、赤くなっている頬を見て照れているだけなのだと分かった。  そしてそんな様子を見ていると、腹のあたりがむず痒くなる。  (あー……久しぶりかもな、この感覚。なんていうか)  男として、煽られる。  「そんな顔して……誘ってる?」  ミフユはだらしなく緩みそうになる口元を叱咤しながら、伊吹の顎に指をのせた。  払いのけられることもなかったので、そのまま唇を寄せて軽く食むだけの口付けを落とした。  「ん、ぅ」  「……はは、ちょっと伊吹ちゃん。中学生じゃあるまいし」  たかがそれだけのキスで真っ赤になって目を瞑っている彼に笑うと、むっと睨まれた。  「てめーだって顔赤ぇくせに」  「えっ?」  指摘されて、ぱっと自分の頬を触ると、確かに燃えるように熱かった。  「中坊みたいな表情(かお)してんのはどっちだよ」  「あは……」  乾いた笑いを零して、ミフユは相好を崩す。  「そりゃそうなるでしょ。  だって、おれにとってはこれが初めてみたいなもんだし……今まで伊吹ちゃん以外に好きな人なんていなかったんだから」  「な」

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