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毎日はな六④
墓地はトウキョウの外れの、トウキョウとは思えない辺鄙な土地にある。墓地までサイトウは車を走らせた。はな六は助手席で、物珍しそうに窓に貼り付いて外の景色をキョロキョロと見回した。
「そんなに珍しいかよ、車が」
「だって、車に乗せてもらうのはいつも夜だし。“あのはな六”だった頃は、身体が小さすぎて、チャイルドシートに固定されたから、窓の外ってよく見えなかったんだよ。それにしても、結構田舎なんだねぇ」
「そうだろう。じきに着くぜ」
サイトウは初めて見たときの“あのはな六”を思い出した。“あのはな六”が、サイトウの所持していたセクサロイドに魂を移植して“このはな六”になった日、サイトウは“あのはな六”に直接会わず、指定整備工場のすぐ目の前の通りで、素知らぬふりで“あのはな六”とすれ違った。
一ヶ月にわたるネット上のやり取りで、サイトウは“あのはな六”のひととなりを大体把握していたが、一目くらい現実の“あのはな六”を見ておくのも悪くはないかなと思い立って、“このはな六”引き取り予定時間よりも少し早めに、指定整備工場に出向いたのだ。
“あのはな六”は小さな身体で、文字通り大手を振って歩いていた。というのも、地面に着きそうなくらい長い腕をぶんぶんと前後に振りながら、歩いていたのだ。腕に較べてあまりにも短い脚は、懸命の大股で上げ下ろしされていた。歩みに合わせて、起きあがりこぼしのようなコロリンコロリンという音をさせていた。その音は電子音で、実際の足音はコロコロというよりもチョッ、チョッといった感じだった。
コロリンコロリン、チョッ、チョッ。コロリン、コロリン、チョッチョッ。
そんな間抜けな足音を響かせながら、小さな身体は独り、堂々たる行進ぶりで、サイトウの方へ歩いてきた。VR空間で使用しているアバターと寸分たがわぬ姿。ただし、製造されてから一度も塗装を塗り替えたことがないのか、メタリックブルーの頭頂部は退色著しかった。
ああいう色、手持ちの塗料で作れるかな? などと、つい職業柄、考えてしまったサイトウだった。もしもそれがサイトウのセクサロイドに魂を受け渡すアンドロイドではなくて、ただの客か客のペットとしてサイトウの店を訪れたなら……。サイトウは自動車専門の鈑金屋であり塗装工だが、まぁやってやれないことはねぇな、とすれ違いざまに思った。
ネット上のやり取りでは、ハキハキとしていて理知的というか、屁理屈屋っぽい印象だったが、実際はあんなにコロッとして小さなアンドロイドだとは。だが、“あのはな六”はもうすぐこれまでの人生を全て捨てて、新しいはな六に生まれ変わるので、見た目の小ささなどもはや関係なかった。
とにかく、サイトウが“新しいはな六”に求めるのは、後で文句を言わないことだけだった。サイトウのものになりにくると決めたのは“あのはな六”自身なのだ。そこはちゃんと守ってくれなくては困る。
ほんの少し、サイトウは心配した。“あのはな六”もまた、昔サイトウが好いた女の子のように、本当はサイトウと暮らしたりなどしたくはなかったのにと言い出すのではないかと。しかし、生まれ変わった“このはな”は、一旦は自立してみたいと出ていったものの、必ず戻って来ると信じて待っていたら、ちゃんとサイトウの元に帰ってきた。
“このはな六”が目覚めた夕方を、サイトウはよく覚えている。一目見てサイトウは“このはな六”を気に入った。二年もの間を、毎日幸せなセックスをして共に暮らしてきたセクサロイドの脱け殻。魂を得て“機械仕掛けの人間”になったそれは、美しく優しげな寝顔から一転して、とても気の強そうな、まさに“はな六”って感じの男の子だった。たった一手で六目の地を華麗に仕留めてしまう“はな六”だ。サイトウは眠れるセクサロイドをずっと、商品名のレッカ・レッカではなく“お前”と呼び続けていたが、それからは“はな六”と呼ぶことにした。目の前のこの男の子に、それ以上に似合う名はないと思ったのだ。
さっそくサイトウははな六に裸を見せて、いつもの夕方のようにセックスをしようとした。だがはな六は、気絶するほど酷く怯えた。何しろ、はな六の魂はクマともタヌキともつかないぽんぽこりんなちびっ子アンドロイドとして二十年も生きてきた。そのせいで、人間が夜ごと裸でする遊戯のことなど知らなかったし、人間の裸を見たことすらなかったのだ。身体がセクサロイドになったとしても、魂が身体に追い付かなければ、セックスは出来ないものらしい。
何度優しく誘っても、はな六は頑なにセックスを拒否し続けた。しかしはな六のセクサロイドとしての本能は、セックスと人肌を欲しているのは明らかだった。夜眠るとき、はな六は自分の布団を持ってなかったので、畳の上に直に寝るといってきかなかった。だが深夜になると、いつの間にか、サイトウの布団の中に潜り込んでいた。そんなはな六を、サイトウはこっそりと触った。頭や背中を撫でてもはな六は目覚めなかった。調子に乗って、サイトウははな六の服の中に手を滑らせて、肌を直に触った。
『ん……ふ……』
はな六は心地よさそうに身を捩った。意識の無いままサイトウにすり寄ってきた。サイトウは下着の中にも手を入れた。握ればすっぽり掌に納まってしまうほど小さな性器は、既にとろとろと蜜を溢れさせていた。性器全体に蜜を塗り広げ、扱いてやると、それはサイトウの手の中でピンと硬くなった。
『ん……』
眠ったまま、はな六はもぞもぞと仰向けになり、脚を大きく開いた。それは脱け殻だった頃の“お前”の反応だと、サイトウは嬉しくなり、さっそくはな六の上に跨がった。だが、一物を入り口に押し当て、いざ貫こうとした瞬間、はな六は目覚め、近所迷惑な大声で泣きわめき、寝室の中を逃げ惑い、そして部屋の隅に丸くなって、ぶるぶると震えながら咽び泣いた。
そんなとりつく島もない状態だったくせに、はな六はセクサロイドの本能なのか“お客様に夜の楽しみを提供する仕事”への意欲を見せた。生活の糧を稼ぐ為の仕事をはな六に紹介するというのは、かねてからの約束だった。サイトウは渋々、マサユキの経営する派遣型売り専を紹介した。するとはな六は、いともあっさりセックスと“お客様に夜の楽しみを提供する仕事”を気に入り、難なく初仕事をこなして帰ってきた。
サイトウが“このはな六”と初めてセックスをしたのは、はな六が初仕事を終えて帰ってきた朝のことだった。例によって、はな六はいつの間にかサイトウの布団に潜り込んでいて、しかもサイトウの背中にぴったりと身を寄せて眠っていた。
背後から胸に回されていた腕を、そっと振りほどき、サイトウははな六に向き合った。二年間見慣れた“お前”の幸せそうな寝顔によく似ていた。だが、チュッと口付けると、
『んふ……』
ふにゃりと唇を弛ませるのは、“お前”の反応ではなくて、“あのはな六”の魂を得た“お前”の、つまり“このはな六”ならではの反応だった。
一物に血が滾る。サイトウは夢中ではな六の唇を吸った。するとはな六は眠ったまま手探りでサイトウを求めた。はな六はサイトウの身体を見つけると、先ほどのようにサイトウの背中に腕を回し、ぎゅっと抱き着いてきて、サイトウの腰に片脚を絡めた。サイトウの下腹に、はな六の、小さいが熱くて硬い“お飾り”が、布越しに当たった。サイトウは素早くはな六を組み敷いた。はな六の下を脱がせ、震える指先で入り口を探った。そこは粘液で既に滑っていて、サイトウを迎えるようにぽっかりと口を開けていた。数回、指で掻き回しただけで、サイトウはいきり立つ一物を、はな六の中に押し込んだ。
『んんっ……!』
はな六は苦しそうに呻いたものの、まだ目覚めてはいなかった。はな六の半開きになった唇をむしゃぶりながら、欲望おもむくままにサイトウは無茶苦茶に腰を打ちつけた。やがてはな六はもぞもぞと動き始めた。逃げられないように、サイトウははな六の両手首を掴み上げ、畳に押さえつけた。快感が頂点目指してせりあがるときの不快感を我慢出来ずに、逃げ出そうとしているのだろう、と思ったからだ。最初はしんどいかもしれないが、少し我慢すればきっと良くなるはずだから、と、サイトウははな六の手首をしっかりと押さえつけた。
『んぁ、あ……ぁ、ぁ……』
はな六は喘ぎ始めた。すると自分の声で眠りから覚めたようで、ぱちりとつぶらな目を開けた。
『は……あ……、ぁあ! サイトぅ……なに、してるの……っん!』
『何って、セックスだよ。オメェと俺、セックスしてんだよ』
サイトウは腰を動かしながら言った。はな六の反応を見て、動き方を調節する。抜けるギリギリまでには引いて、奥まで突き上げる動きが、どうやらより感じるらしかった。
『あ……あ……やだ……っ……や、だ……』
『何が嫌? こんなに気持ち良さそうにしてんじゃねぇか』
『だってぇ……、んっ! おれ……サイトウと、セックスしたいなんて、言って、ないよぉ……っ、ぁあん!』
『じゃあ、事後承諾ってことで。いいだろ、こんなによがってるし、それにこれは“お前”と俺が毎日してきたことだ。だからオメェにも良いはずだよ』
『んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、……あぁ、サイトウ、サイトウ! 手、離して!!』
思わず手を解くと、はな六はサイトウの背中に手を回し、ぎゅっと抱きついてきた。そしてサイトウの肩に顔を埋め、泣きながら何度も射精した。全部出し終えて仰向けに倒れたはな六を、サイトウは四つん這いにさせて後ろから突いた。はな六はさすがセクサロイドなだけあって、射精したばかりだというのにすぐにまた喘ぎ始めた。そしてサイトウがいよいよ達しようとした時だった。
『あぅ……サイトウ……気持ちわ……くぷっ』
サイトウがはな六の中に精をぶち撒けたのと同時に、はな六は嘔吐し始めた。
『ぉえ、んっぷ……げぇっ……おぇっ』
『はな六、大丈夫か?』
サイトウははな六の吐物を手で受け止めた。初めは唾液のような粘液を吐いていたが、やがて吐き出されるものは水にかわった。
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