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第2話
週末になると、信者たちは教会へ集まる。歌を歌ったり、祈りを捧げたり、聖書を読んだりして過ごすのだ。この集会は、体調不良と家族旅行以外の理由では原則休むことを許されていない。
しかし俺は半年ほど前から、この集会に参加しなくなった。「参加しなくても良い理由」ができたからである。
今や俺は、信者たちにとっての羨望の対象だ。選ばれし者、神に愛された者、一番乗りで幸せを手にした者……そんな身の程に合わない扱いを受けるようになったのは、二ヶ月ほど前からだったと記憶している。ついには、俺自身を神の依代として崇め始める者さえ現れる始末だ。そんな信者を少し不気味に感じながらも、心の奥底にあるのは優越感だった。幸せは、誰かと競い合って手にするものではない。聖書にもそう記されている。しかしそれ以外に幸せを見つける方法が解らなかった。多分、一見すると優越感に見えるものが、本当は幸せと呼ぶべきものなのだろう。
そうやって、「幸せになりたい」という極めて漠然とした願望に、そろそろ区切りをつけないと、俺の気がおかしくなりそうだった。
教会の奥に聳え立つ山へ一歩踏み出す。一応歩道は整備してあるものの、それはけもの道と呼ぶのに相応しい。そもそも人が歩くことを想定していないのだろう。この地面を踏むのは俺と、あと一人。
十分ほど歩いた先に、開けた土地がある。そこには大きな屋敷が建っていて、隣には小規模の寺がある。
「……こんにちは、針川悠 です、会長、本日もよろしくお願い致します……」
門の前に立ち止まって心の準備をする。スマホで時間を確認する。約束の時間の一分前。ちょうど良い。
深呼吸をひとつ落として、インターホンへ人差し指を運んだ。
ガザゴソ。それから、会長のお声。練習していたセリフが全て吹き飛んでしまう。しかし会長は優しく、いいから入りなさい、と囁いてくださった。
まだ俺の体と心は緊張していた。
もう何度目かなんて、数え切れないのに。
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