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至宝

「こちらがお前の婚約者の高柳 至宝(たかやなぎ しほう)君だ」 初めてスーツを着せてもらって、初めて訪れたキラキラとした空間に、お城みたいだと興奮して居た。 そして、父と一緒に入った部屋には、僕と同じようにスーツを着た男の子と両親らしき2人に挟まれてソファに座って居た。 挨拶をした後にソファに座ると、父から婚約者だと紹介されたのだ。 僕は目の前にいる子が絵本から飛び出して来たお姫様みたいだと思った。 ストレートの黒髪は腰あたりまで長く、切り揃えられた前髪から覗く二重でパッチリ開いた目には少し茶色の瞳があった。 当時5歳の俺には、これが政略結婚だとか知る由もなく。 ただただ純粋に、この子とずーっと一緒にいたいなと思っていた。 そんな可愛い夢は中学にも入れば消え去りました。 小学校は別の学校に通って居たが、至宝の家から社交の場にもなるので婚約者として同じ中学に通い学んでほしいと打診があったからだ。 婚約者として恥ずかしくないようにマナー教育なども真剣に受け、勉強にも運動にも手を抜かず頑張って居たんだ。 いざ同じ学校に通い始めて知った。 至宝は俺に対して何も思って居なかった。 常に自分と釣り合う方達をそばに置き、俺は居ないものとして扱われた。 目も合わされず、声をかけることすら拒絶する態度に最初は戸惑ったさ。 入学初日に同じクラスで喜んでいた俺は、おはようと至宝に声をかけた。 至宝は俺を見ることなく、邪魔と言って教室に入って行き自分の席に着いた。 至宝の取り巻きたちに邪魔だと俺は突き飛ばされ、気安く声をかけるなと吐き捨てられた。 それでも1か月は声をかけようとしてみたが、彼の目に俺が映ることもなく無視された。 そこで俺は悟った。 俺は至宝にとって邪魔でしかないんだと。 俺が幼少期から受けた婚約者としての教育は無駄に終わったのだと。 3分だけ思った。 じゃあ、これからは俺の好きなようにして良いじゃんと! 至宝にためにと思って居たが、別に俺の人生においては無駄なものではない。 知識も経験も至宝の為と思って頑張ったが、これからは俺のための物だ。 この学校に通う必要は無いのでは無いかと考えたが、ここはレベルの高い進学高なので大学まであるのだ。 目標は変わったが、吹っ切れた俺は、勉強にも運動にも手を抜かず頑張った。 最初に至宝に関わったために、友達は出来なかった。 見事にぼっちだった。それでも寂しくはなかった。 俺は中学の間に、ネットゲームにハマりにハマってそこで友達ができたからだ。 どんなにくそな学校生活でも、みんなでゲームしてる時間が俺の生きている意味なのだと思えるくらい楽しい。 そのままこの学校で進学をしようか、この学校にこだわる意味があるのか悩んでいるときに、ネトゲ友達のオノピーさんに、海外ならスキップで大学とか行けるのにねと教えられたときの衝撃たるや。 中2の俺は寝る間も惜しんで調べに調べた。 そんなある日、至宝の取り巻きの1人に呼び出された。 空き教室で語られたのは、彼と至宝の甘い甘い初体験だった。 「至宝の童貞貰っちゃった」ンフフとにこやかに取り巻きは去っていった。 どうやって自室に戻ったかは覚えてなかった。 制服のまま、シャワーを浴びて頭を冷やした。 「そんなもん・・・いらねぇよ・・・ずっ・・・。」 唇を噛み締めて静かに泣いた。 アホみたいにレポートを書きまくって、スキップ試験にも吐きそうになるくらい頑張って乗り越えた。 その結果。 ついに俺は、海外の大学の入学許可証を手に入れた!! 入学許可証を父親に見せたときは、家族会議にもなったが。 「嫌いな人間と結婚をするより、自分で選んだ人と一緒になった方が自分の幸せになり、仕事にもハリが出るでしょうし、会社の利益につながると思う。俺を嫌いなのだから至宝に俺は必要ない。至宝自身が選んだと人と結婚させてほしい」と訴えた。 わかったと、至宝の父と父親が折れてくれて、俺の海外行きは決まったのだ。 2か月も経ったのに海外の生活を、俺はなかなか慣れずに居た。 不慣れな環境よりも日本人でスキップ入学した俺を最初は遠巻きに見られ、動物園の動物の様にみられて居たせいもあるのだろう。 その日は、朝から体の怠さもあったのだが、2限しか無いからと無理をして大学に行ったのだ。 授業も終わり気が抜けてしまった俺は少しだけ、机に突っ伏し寝てしまった。 気がつけば知らない天井があった。 「こ・・・どこ?」うまく声も出ず、熱に浮かされた体は怠くて動かすこともままならない。 「お、気付いた〜ここは俺の家だよ〜君ね、39度も熱あるんだよ〜。病院連れて行って、俺んちにつれてかえったの〜」お姉口調で喋りながら俺のおでこに手を当てて、覗いてくる。 彫りのすごく深い目鼻立ちで金髪とグレーの瞳を持ったイケメンは、確か何度か同じ授業を受けて居た気がする。 至宝と同じように人の中心に居るのが当たり前という感じがして覚えて居た。 同時に係わりたくないとも、思った。 「ご・・ごめっ・・・。」謝ろうにも声が出せずに咽せてしまう。 「あぁ〜ちょっとこれ飲んで、もう少し寝ましょうね。」 俺の背中をさすりながら、ゼリー飲料を飲ませてくれる。 俺はまた寝てしまったようだった。 「おー!元気になったねー!」 俺の頭を両手で撫で回して鳥の巣のように乱すのは、熱を出した俺を3日3晩看病してくれたレオンだ。 1週間ぶりに大学に来れた俺に一番に声を掛けてくれたのは嬉しいが、この髪をどうしたいんだ。 ありがとう、助かったとお礼を伝え、一緒にクッキーを渡した。 「美味しいそう!良いの?これは良いことをした甲斐がありますねぇ」と嬉しそうにその場で食べ出したレオン。 「なになに?いただき!」横からレオンのクッキーを取り、なかなかうまいねこれと指についたクッキーカスを舐めとっているのは、リックだ。 レオンに肘打ちを鳩尾にくらって痛そうにしながら涙目になってるリックが面白くて、つい笑ってしまった。 これをきっかけに、レオンとリックと仲良くなりやっと大学生活も海外生活にも慣れて行った。 レオンの家は代々弁護士をしているらしく、レオンも目指しているらしい。 リックとは幼馴染で、恋人同士。毎日、2人の甘い空気を吸いながら俺は砂を吐きそうになっている。 2人見つめあって、可愛いよと目を親指なぞり、唇をなぞっていく。少し潤んだ目で見つめ返し、愛していると返す。 「はい!そこ!教授来るから2人の世界から帰ってきなさい!」 大きく手を叩いて2人を引き剥がすのが、俺たちのお決まりとなり名物になりつつある。 そんな事もしつつ、勉強も頑張り1年が経った。 2年になり、今年も頑張ろう気合いをいれ事務のマッドさんに今年もよろしくと声をかけて、今年取る予定の教科の受付をしてもらう。 そこから教室までは中庭と食堂エリアを抜けないと行けないのだが、中庭すぐ横のカフェに人だかりができて中々進めない。 テラスでまたレオンとリックが乳繰り合っているのかと思い、引き剥がしにいくことに。 二人に会うのは1か月ぶりなので、めちゃ浮かれながら人だかりをかき分けて中に入っていく。 「え?」 鳩が豆を喰らったとか、すごい的確な表現だと思うよ。 テラスのテーブルに辿り着いた俺の腕を引き寄せたのは、居るはずのない至宝だったから。 びっくりし過ぎて、目も乾きそうなくらい見開いて、口も開いたままポカーンだ。 「やっと捕まえた。」 そのまま腕を引いて反対の手で俺の後頭部を押さえてキスを、しかもディープなのしてきたのだ。 どれくらいされて居たのかわからないけど、やっと至宝から放された時は、息も絶え絶えになってからだった。 「何すんだよ!」 思いっきり、至宝の左頬を引っ叩いて走り去った俺は悪くない。 大学の門から出るくらいには、ほんの少し落ち着いて歩き出した。 全力疾走を終えた呼吸が少しづつ整い出したら、今度は至宝が居たこと、至宝にキスをされたとこを思い出した。 涙止まらないし、嗚咽はひどいし、鼻水も垂れ流して、子供のようにワンワン泣いている悲惨な俺に声を掛てくる猛者はいない。 漸く自宅に着き、鍵を開けてドアを開けて一歩、足を入れた瞬間に背中を押されて一緒に至宝が入ってきた。 俺にしがみつくように至宝が抱きしめてくる。 抱きしめられたくなくて、至宝の胸を両手で叩いて、全身を捩って拘束する腕から逃げようともがくけど、離れてくれない。 「うわぁぁぁぁぁ!離せ!!くんな!何でいんだよ!!浮気野郎なんかいらねぇんだよ!!2度と近づくな!!お前なんか!きr」 喚き散らかしている俺の口を口で塞いで、抱き締める腕の力も入れて来るから痛いし、苦しい。 頭を振って唇を離すが、追いかけて塞がれる。 喋っていた為に開いていた俺の口の中に舌を入れ縦横無尽にかき回してくる。 足が震えてその場に崩れ落ちると、至宝も一緒に床に膝をつく。 それでも俺を抱きしめたままで、俺が力を抜いて抵抗する気が無くなったのが分かったのか口を離した。 「ひっ、くっお前なんか、帰れ・・・、ずっ・・・ひっく・・・お前なんか、きr」 泣いて、左手でポスポスと力が入ってない拳で至宝の胸を叩いて、鼻水擦り付けて、嫌いって言おうとする度にキスされて言わしてくれない。 「やめろ・・・なんなんだよ・・・ずっ・・・浮気・・・する奴は要らな「俺はしてない!!」 俺を全力で抱きしめ、俺が驚いて涙が止まるくらいでかい声で至宝が叫んだ。 「お、俺は・・うわ、きなんて・・・してない。」 震える小さな声で静かに涙を流し、腕の力を少し緩めて俺を覗き込んでくる。 眉間にシワを寄せ俺と同じように涙を流し、鼻水も垂れ流しているのにイケメンはどんな顔でもブサイクにならないんだなぁと、場違いなことを考えていた。 手を伸ばし至宝の頬に触れ、親指で目元をなぞり涙を拭ってやる。俺の掌に頬を寄せて、許をこうように話し始めた。 「婚約は名ばかりのもので、家の為に犠牲になるのかって、勉強も何もかも嫌になって、中学で久しぶりに陽介を見たら、俺は婚約者だと言わんばかりに来るから、めちゃくちゃイラついて。そしたらすぐに陽介が俺の事を見なくなって、やったねって、煩わしい婚約者とか気にしなくて済むって思ってたのに、陽介は本当に俺の婚約者とか関係なしに何でも全力でやってて、俺の家の会社の企業会食パーティーでも、俺の婚約者として現れるのに、俺を一切見なくて。各国の参加者に当たり前のようにその国々の文化に合わせた挨拶してて。ダンスも俺とは踊らずに誘われたまま楽しそうに踊ってるし。俺の為にこんなに頑張ってくれてたこと知って、陽介が愛おしく思うようになったけど、どうして良いかわかんなくなって。俺のだって、俺の陽介だって言いたいのに言えなくなってて。陽介に釣り合うように、見返してやろうって、俺にまた惚れてもらおうと思って頑張って、高校入ったら俺と一緒に色々してもらおうってそこで惚れさすんだって考えてたのに、陽介が居なくて。お、親父に聞いても教えてくれなくて。そしたら、小土間が、俺とセックスしたってほのめかしたって。嘘を信じて逃げるような陽介なんか忘れろって、至宝だって邪魔者扱いしてたんだから良かったねって言ってきて。・・・ちょっと・・・慰謝料払って・・・・・。」 「はぁ!?お前、あの取り巻き野郎に何したんだよ!!」 俺に対する思いはわかってちょっと、いや、かなり嬉しくて笑顔になって泣き笑いしながら聞いてたけどさ。 「いや、あの・・・ちょっとだけ・・・手が・・・・出た。」 気まずそうに、目が泳いでるけど、それだけじゃないだろう。 「ちょっと・・・足も出たけど・・・・。」 「慰謝料いくら払ったんだよ?あいつだってそこそこ良いとこの三男坊じゃん。」 至宝の家に比べれば家格は下がるが、俺と同等かちょい下くらいだぞ。 三男坊とはいえ、お家同士のつながりを持つ為に婚約者くらい居たはずだよな。 「怪我させたから慰謝料払ったけど、陽介に余計な事言って、婚約破棄にまで追い込んだから家潰しといた。」 「はあああああああああ!?何してんの!?一応曲がりなりにも、名家だぞ!?どうりで至宝の家の傘下に入る訳だわ。」 俺との婚約破棄の慰謝料として、文句も言わずに傘下に下ったと。 対等で居るはずの間柄で居た名家が、業績も悪くないのに何で入ったのかと思ったけどそんな訳が有ったのかよ。 何をニヤついてんだこの馬鹿男は。頬っぺた引っ張ってやる。 「ひしゃい、いしゃい。」 喜んでどうする。 「で、何でここに居るんだよ?あ、まつ毛ついてる。」 体を起こしてまつ毛をとってやる。 素直に目を閉じて待ってる至宝可愛い。 靴脱いで、俺を横抱きにしてそのままリビングのソファに座って。 「っておい。さらっと何してんだ。」 思わず、一発しばいた俺は悪くない。 「足痛かったから。まだまだ話さないと誤解されたままだから。」 俺にキスして頬擦りしてくるこいつは誰なんだ? 「はぁ〜陽介がいる〜やっと捕まえたぁ〜。」 本当に俺を邪魔者扱いして居た至宝さんですか?よく似た人ですか?いやもう、意味がわからない。 「小土間が!俺とセックスしたとか言ったみたいだけど、俺は誰ともしてないからな!!お、俺は・・ど、どうていだ・・・からな・・・。」 俺は、からめっちゃ声ちっちゃくなってますけど? セックスは言えて童貞を言うのは恥ずかしいのかよ。 「うわぁ。耳まで真っ赤じゃん。」 え?何こいつ可愛いんですけど。散々、キスしてきといて、ディープなのやってきといて、この反応はずるいと思います! 「そこはわかったけど、俺を好きになったってのもわかった。けど、何で至宝が大学に居たの?意味がわからないんだが?」 しれっとけつを揉んできた手を捻って外した俺は悪くない。 悔しそうに睨むな。 「俺も同じように大学、入ったから。あそこに人いっぱい居たから、見つけれるかなぁって思ってたら」 「あーそこにのこのこと俺が現れたわけね。で、何で公衆の面前でキスしたの?俺明日から授業あんだけど?結構前からずっと電話なってるけど、怖くて確認する気が起きないんだが?」 大学構内では音が出ないようにマナーモードにしてあるスマホがずっとポケットの中でヴィンヴィン震えては止まってを繰り返してる。 「やっと会えたと思ったら嬉しくてつい・・・・。」 横向いて手で口元隠してるけど、にやけ顔隠せてないぞ、後、耳赤いの見えてんぞ。 はぁ〜溜息吐いたら、肩がビクってなって気まずそうに見てくるのやめい。 可愛いな全く。 「あ〜やっぱり電話とメールいっぱいだわ」 レオンとリックからは鬼電が入ってるし、メールも鬼のように。 ちょうどレオンから電話だ。 「もしもしレオン?」 誰そいつ?って睨んでくるんじゃない。 『もしもし!!やっとでたよ〜目の前で熱烈な光景が繰り広げられるから驚いちゃったわ〜そしたら急に走って逃げちゃうし。思わず、相手の子を捕まえちゃったわよ〜。キレイに投げ飛ばされちゃったけど。陽介を追いかけて行っちゃって、俺陽介の家を知らなかったから、ごめんね。何かされてなかったら良いと思ったんだけど、あと少しで連絡取れなかったら警察に連絡しようってリックと言ってたのよ〜。』 「まって!本当に大丈夫!!こいつ俺の婚約者だから心配ないよ!ちょっと喧嘩しただけだから、本当に警察とか要らないから!!マジで大丈夫だから!!」 『婚約者なの!?もしかしてシホウって子?』 「え?そうだけど、何で知ってんの?」 『最初に高熱出したことあったでしょ?熱でうなされてる時に、ずっとシホウ、シホウって呼んでたのよ〜。だから、シホウって子と何かあって外国まで来て学生しているのかなぁってリックと話ししてたの。まぁ、その子がシホウって子ならちゃんと話しなさいよ!で、また大学で話聞かせてちょうだい。』 「うん。うん。ずっ。ありがとう。」 「うわぁ〜何も聞かずにずっと見守ってくれてたのかぁ。レオンとリック、よく心配そうに大丈夫か?って聞いててくれてたけど、うわぁ〜めっちゃ見守ってくれてたのかぁめちゃくちゃ嬉しい。」 さり気なく、ティッシュで涙拭いたり鼻水拭いてくれてる至宝を見ると、笑ってるけど怖い。 目が笑ってない。 冷や汗まで背中を伝い始めたぞ。 「良いお友達みたいだね。レオンとリック?ちゃんと挨拶しないとダメだよね。婚約者としてさ。」 鋭い目で射抜いてくるな!!イケメンの目力強いの怖いんだぞ!! 「こ、婚約者じゃもう無いからな!!警察呼ぶって言うからそう言ったまでだ!」 俺を抱きしめてた手の力抜けて、捨て犬のような顔して項垂れてる。 「俺は、婚約者だ・・・。俺は破棄なんて認めてない・・・。うっ・・・。陽介は俺のだ・・・。」 今度は俺がティッシュで至宝の顔を拭いてやる。 「泣くなよ〜どうしろって言うんだよ〜。」 俺を抱きしめて肩にグリグリと頭を押し付けてくる至宝が可愛いとか思ってる時点で、俺の初恋はまだ終わって無いんだよなぁ。 「婚約者に戻ってください。お願いします。なんでもするから。お願いします。」 はぁ〜この大型ワンコと化した至宝も嫌いじゃない俺は、許してしまうんだろうなぁ。

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