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そんなこんなで。
「お疲れ様でした〜あああああああ疲れたあああああ!!」
夜9時に残ってる人間なんて居るわけもなく自分におつかれ言ってフロアから出る。
花の金曜日に残業する俺を誰かねぎらえ。スマホを見ても元カレから連絡が来るわけもなく、こちらから連絡入れる気もなく、仕事に追われてもう半年が経つ。
「いつまで引きずってんだか。」この寒さが人恋しさに拍車をかけるんだな。
コートの首元を押さえて、マフラーを買おうとしてやめた先週の俺を殴りたい。まだコートだけで過ごせるから要らないとか、アホすぎる。何だよこの寒さ。
ゲイバーでも行ってみるかな。
いつまでもアイツを引きずってる自分に虚しさを感じて、色々調べてたんだよな。
昔の恋は、新しい恋で上書きするんだ!!
「よし!ゲイバー行こう!!」志も高く右手の拳を高く掲げて、気合入った!!
「俺も連れて行け。」左手を掴まれて後ろを振り向かされた俺は、あしが縺れてそのまま胸にダイブしてしまった。
「は?なにしてんだよ!!離せ!」元カレに抱きしめられている意味が分からなくてパニックになって身を捩るが離される気がしないと言うか、腕に力入れてきて痛いくらいで、抵抗する力も日頃の運動不足か?速攻でなくなったわ。
「いつまで経っても連絡して来ないから、会いにきたんだ。」ちょっと何言ってるのか理解できません。てかいつから居たんだよ。触れ合った頬が氷のようでめっちゃ冷えてんじゃん。
「なんで俺が・・・・しなきゃいけないんだよ。あー仕事の話か?前のやつなら俺は代理で行っただけだからな。そう言うことで、離してください。もう二度と関わることもございませんので、さようなら。」
「嫌だ。頼む。捨てないでくれ。」
グズグズ泣きながら、俺を抱きしめて離さない元カレが落ち着くのを待ってみる。けど、俺から抱きしめ返す気持ちは。
抱き締めて離さないでくれって心の中泣き叫んでたけど、無視して。
そのまましばらく、突っ立ったままの俺に抱き締めていた元カレは、何も反応しない俺に心が折れたのか何も言わずに項垂れながら去っていった。
これで良いんだよな。俺にはもう、泣いているアイツの背中をさする事も、涙を拭う手も心を寄せる事も持ち合わせていないんだ。
俺もまだ断ち切れていない。新しい出会いを迎える気もなくなって、大人しく家に帰ってアイツの熱をまた思い出して寝た。
ピンポーン、ピンポーン。
ピンポーン、ピンポーン。
ピンポーン、ピンポーン。
「だあああああ!!!うるっせぇな!!せっかくの休みの日に誰だよ!!」
時計を見ると昼13時を過ぎた所だ。こっちはやっと寝ついたのが朝方だってのに。
「はぁ〜い」スウェットで寝癖のまま確認もせずにドアを開けた。
「あ・・・・。すまん。寝てたのか。」
「は・・・・・。」
「ケーキ買ってきたんだけど・・・・。」
「何してんの?」
少し腫れて赤くなった目をした元カレがケーキ持って家に来たんだけど。何なのこいつ。
「話をさせて欲しい。聞いて欲しいんだ。頼む。・・・・・中に入れて欲しい。」
そんなに悲しそうな顔すんなよ。俺が悪いことをしている見たいじゃんか。
「あらぁ〜お久しぶりねぇ〜元気そうね。お友達?初めまして〜お隣のものです〜ちょっと通させてねぇ〜。」
「お久しぶりです。すいません。通せんぼしてしまって。」
タイミング悪くお隣さんのおばちゃんが出て来て、その流れで元カレを家に入れてしまった。
「こっち来て座れよ。茶くらい出すわ。」
無言でついて来てソファーに座らせて、コーヒーしか無いので、あいつ様にミルクだけ入れたコーヒーと俺用にブラックを入れる。
お互いに無言でコーヒーを飲む音と、時計の音だけが室内に響いている。
コップをテーブルに置いて、俺のそばに寄って来た元カレは、土下座をして俺に謝罪をして来た。
「大変、申し訳ありませんでした。あの頃の俺は貴方にもっと俺を見て欲しくて、もっと俺に興味を持って欲しくて、他のやつと一緒に居たら、嫉妬してくれるんじゃ無いかと、ちょっかいかけてました。怒って、俺にすがってくれるんじゃ無いかと、思っていました。けど、何しても・・・・ずっ・・・・応えてくれなくて・・・情けなくなって、悔しくて、あの一回だけあいつを抱きました。もうじわげ、ありまじぇんでじだ・・・・。」
「え・・・・なにそれ、そんな事のために?俺は!!お前と一緒に!一緒に居たら!!不釣り合いだと思って、我が儘も言わないように、会いたいとも言えずに!!ずっと我慢して・・・。寂しくても我慢して・・・。お前が!!あいつといる所見た奴らがお似合いだなって!!聞かされるたびに、俺じゃダメなんだって思い知らされて!!ホテル行ってるとも、デートしてただとも聞かされて!!挙げ句の果てには、アンアン言ってるの見さされて・・・・。なにが、気持ちいい、もっと奥にだよ・・・。俺のなのに!!お前は!!俺のだったのに!!簡単に!!他の男抱きやがって!何が捨てないでだよ!!勝手に俺を試して、勝手に気に食わないからって捨てたんだろうが!!うわあぁぁぁぁぁ」
「ごめんなさい!!本当にごめんなさい!!自分勝手に裏切って、本当にすいませんでした!!」
子供みたいにワンワン大泣きして、落ち着いて来るまでに20分くらいかかってた。元カレはその間ずっと土下座したままで、手が白くなるくらい握り拳作って泣いてた。手の下の床に血が付いてて、慌てて元カレの手を広げてさせたら、爪が食い込んで血が出てた。それにびっくりして、涙なんて一瞬で止まったわ。
「つか、なんで家知ってんだよ。」
ソファーに座らせて、手当てして、顔見たら憔悴しきった顔で、唇も噛んでいたようでそれも手当てした。
「ご両親に付き合ってるって言って結婚したいって息子さんくださいってお願いに行ってて・・・・・。最初は拒否られてたんだけど、半年間通い詰めてたら、やっと許してもらえて・・・・・不幸にしたら殺すって、お兄さんに言われて。サプライズでプロポーズしたいって言ったら住所教えてくれた。」
もうポカーンだ。驚き過ぎて、どこから突っ込んで良いのか・・・・。
「何してんの?は・・・!?結婚!?!?親父も兄貴も知ってるって何それ!?!?!?俺聞いてないんだけど!?半年も通ったって仕事は!?ほんと、バカじゃないの!!」
「仕事はこっちの営業所を立ち上げて移動して、お前の会社家族で経営してるって知ったからご両親に仕事抜きで時間作ってもらって話聞いてもらってた。」
「営業所をつくったの!?なんで?」
「何でってお前を手に入れるために、手段選んでいられなかった。せっかくの会えたチャンスを逃したくなくて。」
「本当にバカじゃん・・っ・・ばかじゃん。」
もう言葉になんて出来なくて、また涙が溢れた。なんだよ。ただただ俺の事が好き過ぎてどうしたら良いのか分かんなくて暴走した馬鹿野郎じゃん。なんだよ。営業所をつくったって。本当に大馬鹿やろうじゃん。
「俺と結婚してください。もう2度とかな、っ、がなじまじぇる、ごどわしません!!だから!!一緒にいてくだざい。おねがいじまぶ!!」
「泣きながら言ってるから何言ってんのかわかんえぇわ!!ほんと、何なの?ダサダサじゃん。せっかくのイケメンが台無しじゃん。」
「うぐっ・・・ひぐっ・・・そばに、一生そばに、いてください!!お願いだから!!結婚してください!!」
何この必死さ。もうこれで落ちないやつなんて居ないだろ。俺がちょろいだけかぁ〜?あーダメだ。離れられない。
「絶対に!ぜーーーーーったいに浮気すんなよ!!他に目がいったら即離婚だからな!!俺はすぐ嫉妬するからな!!毎日スマホもみるからな!!最悪、監禁するからな!!離してやらないぞ?良いのか!!」
っていった時のあいつの顔よ。
まぁ、教えないけどね。
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