「痛いよ〜出したいよ〜もうお腹切って欲しいよ〜」 「切ったら跡残るよ？嫌だって言ってたじゃんね？俺もそばにいるよ」 「そこ違う〜もっと下〜お尻に近いところをさすって〜」 「ここ？この辺かな？」 「もっと強く〜痛いよ〜」 お互いに汗をかきながら、俺は陣痛に耐え、大治は俺の腰をさすっている。 朝方に始まった陣痛。 大治に抱き上げられたままタクシーに乗り込み陣痛室へ。 陣痛きてるのに、もっと柔なくならないとダメだし、もっと下に下がらないと産めないと言われ、耐える事に。 男オメガなので、帝王切開を勧められたけど、産めるなら自力で産みたいという俺の願いを聞いてくれた産婦人科の先生マジでありがとう。 出来ればもっと強気にアホな選択をした俺を、止めて欲しかった。 数分おきなのか、時間の感覚も曖昧になる程の長い時間、打ち寄せる波の様に痛みが押し寄せては引いてを繰り返す。 途中寝てしまう俺を気にかけて、起きたらストローや口で水分を取らせてくれる大治にも感謝しかない。 だけどありがとうは後で言うから、何度でも言うから。 「もっと強く腰さすって〜！」 人間痛みが長時間続くとさ、吐くよ。 ベッドに食べたおにぎりも、ジュースも吐いた。 吐いて汚れた俺を気にせずにタオルで拭いてくれて、着替えもしてくれた。 途中に大治のお母さんも来てくれてた。 お父さんは俺をチラッと覗いて、お母さん置いていくからなと帰っていった。 大治とお母さんと交代で俺の腰をさすって、食べさせてくれたり、水分を取らせてくれたり。 夕方になり漸く、ようやく！！分娩室に連れて行ってくれた。 車椅子出してくれたけど、大治がお姫様抱っこで連れて行ってくれた。 俺の顔を覗き込んで、俺いるよ。そばにいるよ。あと少し頑張って。手を握ってくれて、感謝なのか、痛みのせいなのかわからない涙を流しながら、うんうんって頷くことしかできない。 「はい！いきんでー！」 助産婦さんの掛け声で、いきむ事３回。 「無事に生まれましたよ〜元気な男の子です」 軽く拭いて胸の上の乗せられた我が子は、まだふやけてて所々に血のようなものがついてる。 「おまえも疲れたねぇ、起きたら元気に泣くのかな？ね、赤ん坊って猿だね。」 スゥスゥと寝息を立てて眠る我が子は可愛くて、反応がない大治を見上げれば、静かに号泣。 すごいね、涙って滝の様に流れるんだよ。 鼻水も涙も大量に流しながら、声にならない声で、ありがとう、お疲れ様、って労ってくれて俺にキスをくれた。 俺の中から胎盤も無事に出て、息子もきれいにして、2人とも処置が終わった頃には、21時になっていた。 産まれてすぐに母子同室で、親子で部屋に戻るとお父さんも来てくれていた。 「いや〜ん、可愛い♪」 「髪は春音君だけど、目鼻立ちは、大治だな」 「ちょっとパパ、写真撮って」 「うーん、この角度か？ここだな。これでどうかな？」 「きゃーバッチリよ。さすがパパ」 上のやり取りは、俺たちじゃないよ。 大治のお母さんとお父さん。 「はやくも孫バカだなぁ」 「ンフフ、嬉しいね」 ベッドで上体を起こしている俺の横で、呆れながらも嬉しそうな大治。 夫夫で息子の誕生を喜んでくれる義両親。 息子が運んでくれたこの光景を噛み締めながら幸せだなぁと感じた。 「名前さ、色々と考えたけどさ。俺の音と大治の大で幸せの音が大きく広がる様に、音大でおとひろか、もしくは、大音でひろねってどう？」 「良いなそれ！ひろね！大音にしよう！」 「ひろねきゅーん！パパとお父さんがくれたよ〜良い名前だね〜良かったねぇ〜」 「ひろね、幸せの音が大きく広がる。良いな。」 「春音君センス良いよ！大治なんて大事すぎる宝物って意味で、大治だからね！」 初めて知った大治は「そんな理由かよ…会社を大きく治めていける様にとか、なんとか言ってなかったか？」とぶつぶつ言っていた。 お父さんとお母さんは写真撮影に満足して、頑張ったね、お疲れ様と俺を労ってから帰って行った。 静かになった部屋に家族３人。 寝ている我が子を覗き込み、大治と2人で顔を見合わせ、キスをした。 「本当に宝物をありがとう。よく頑張ってくれた。これからは2人を幸せにするために俺が頑張るから」 「ばーか、俺と一緒に家族３人で幸せになるんだよ。大治もお疲れ様。いっぱいありがとう。」 一瞬、ポカーンとしたけど、クシャッと泣きながら笑って俺を優しく抱きしめてくれた。 俺の肩に頭を乗せて泣き顔を隠すけど丸わかりだぞ。 大治の髪をくしゃくしゃに撫で回して、今日は家に帰る予定の大治を部屋から送り出した。 退院する1週間の間に、大治の実家の敷地内に建てた新居に引っ越しが終わっているとか、小さい公園が出来ているとか、俺はまだ知らない。 男の俺から母乳が出て、息子にやきもちを焼きた大治が暴走して、俺が家出騒動を起こす事もまだ知らない。