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大治と春音

「まーてごらあああああ!!!ひーろーねーーー!」 「いやあああああ!幼稚園行きたくなあああああああい!」 「あと3回で終わりだろうがあああああ!」 卒園式を控えた近頃、なぜか幼稚園に行きたくないと逃走をはかる息子。 毎朝、全力で走り回る息子を追いかけるのが日課になっている。 年明けるまでは、俺が寂しく感じるほどに笑顔で登園していたと言うのに。 2月のバレンタインを過ぎたあたりからは、渋々といった感じで通ってはいた。 3月になった途端、この逃走劇。 「ほーい、つっかまえたー!」 大治に抱き上げられて大人しくなった間に、制服を着せて幼稚園バッグを車に載せて、そのまま大治の運転で幼稚園にドナドナされる。 大音には内緒で、幼稚園の様子を見にいく事にした俺。 だけじゃないよね、もちろん。 大治も義両親も。 曾祖父さんもついていくと言ったので、丁重にお断りした。 先生に連れられて行ったのは、用具入れの倉庫のあたり。 木陰に隠れている大音を見つけたけど、隣にいる子は誰だ? 大音よりも少し小さい子が、大音に抱きしめられて寄りかかって、大人しく2人で座っている。 んんんんん!?これはもしや? 大治はほーっと感心している様子。 こそーっと近づいて。 「わっ!」 「「わあああああ!!!!」」 驚かそうとは思った。うん。ほんのいたずら心だったんです。 幼児2人の声量舐めてた。危なく俺の鼓膜が死ぬところだった。 「ごめんね、驚かしちゃった。パパですよ〜」 ニコッと顔を見せてやれば、泣きながら怒ってポカポカ叩かれた。 「ちょ、ごめんて、まじ、痛い、いたいっつってんだろうが!」 本気で怒った大音に叩かれ続けて、流石に顔とこめかみに当たって俺もイラついてしまった。 「はいはい、やめようね」 ゾクっとした。 大治がパンパンと手を叩き俺たちの注意を引いて、俺と大音を止めようとしてくれたのは良い。 優しい声とは真逆の怒りの入った笑顔。 そしてそのアルファの威圧はあかん。 直ぐに消えたけど、怖い怖い。 大音は俺から離れ、お友達を俺たちから隠す様に抱きしめに行った。 その様子を確信めいた思いで見つめるニコニコの俺と、うんうんと頷いている大治を交互に見て、気まずそうにお友達を紹介してくれた。 お友達の名前は北 綾(きた あや)君。 「あやちゃんはね、僕のなの、僕もあやちゃんの。だから!だから……」 「小学校が離れちゃうのが嫌なの?」 「うん……、幼稚園に行かなければ、まだ卒園しなくて良いと思ったの……。」 片時も離れようとせず、綾君を離そうとしない。 この子達は運命の番かぁ。 まだ性別検査もしてないのに、わかるものなのかな? 発情期を迎えている体なら、互いにフェロモンで認識したりできるしな。 一目惚れの初恋って事もあるかも知れないし、様子を見たいな。 どうしたものか。 通話が終わって、大治が戻ってきた。 大音と綾君を教室に送り、俺たちは義両親の待つ園長室へ向かった。 綾君は半年前に幼稚園に通い始めた事。 まるで番のように大音が世話をして、綾君と常に一緒だった事。 それから…… 「小学校に入る前に、性別検査をされたご両親は……その……」 気まずそうに、俺とお母さんを見て、溜息ながらに教えてくれたのは、綾君がオメガと知って両親の関心が無くなったのだと教えてくれた。 アルファ主義家庭に産まれたオメガの綾君。 アルファならば私立のエスカレーター式の学校に入る予定だった。 その学校に行く為には性別検査は必須。 アルファ専用、オメガ専用の講師と教室が有るからだ。 「人んちの教育方針はどうでも良いや。大治、綾君をうちで預かる事出来ないかな?うちの息子でも良いし。あの二人を離したくないよ。」 顎に手を添えて何かを思案している様子の大治が口を開くよりも、お父さんが話し始めた。 「綾君は北 信彦さんの息子さんかな?預かるとかは難しいかもしれないが、婚約者としてなら大丈夫だよ。ちょうど良い仕事が有るから」 とか、ウィンクを飛ばすお父さん。 もうほんとカッコいい。 マジリスペクトっす! はい!ごめんなさい!お父さんを見つめてごめんなさい!え?違うって? 横に座る大治から殺気を感じたので、恐る恐る見ると苦虫を食った見たいな顔して、お父さんを睨んでいたのだ。 「誰も悲しまず傷つかないからそれが良いよ。ただ……俺も同じ考えが浮かんだからそれをどうしようかと考えている間に言われた。」 あーお父さんに先を越されて悔しかったのかーデカい子供だな、おい! 「じゃあ、大人の事情部分は大治に任せるからね!よろしくね!大音と綾君のお世話は任せて!」 任せる…春音から、頼まれた…と何やら呟いている大治は置いといて、お母さんと俺は教室に向かい二人の様子を見ることに。 「もう番ですよね、二人は」 「そうね。二人寄り添って、守ろうとする大音と、ちゃんと大音に守られる事に安心して身を任せてる綾君。これは離すことは出来ないわ」 卒園式に向けた歌を練習する間も、どうしても離れなければならない時以外は、本当に離れない。 「俺も最初はこんな感じだったなぁ。大治と離れたくなくて、大治に纏わりつく他の人達が鬱陶しくて、俺の物に近づくな!って大声で言いふらして威嚇したかったな」 出会った当時を思い出し、ふふふと笑ってしまった。 お母さんもそうでした?と振り返ったら、お母さんではなく、顔を真っ赤にして片手で口元を隠す大治がいた。 まさか入れ替わっているとは思わず、んにゃ!?とアホみたいな声出してしまった。 恥ずかしくて、この場から逃げ出したいのに、許される訳もなく。 大音のお迎えをお母さん達に任せて、大治に家に連れ帰られた俺。 「そんな事思ってたなんて!俺は知らなかった!」 「んんっ!あっもう、待って、あーいく、いくっ!!」 「いけ!もう俺、今日は止まれそうに無いから!」 興奮が振り切れた大治に朝まで貪られ、しかも、そのまま発情期に突入して1週間丸々、ベッドの住人になりました。 なんやかんやあったみたいだけど、無事に綾君は大音の婚約者となり我が家で暮らしている。 小学校入学式の日、綾君の制服を着せている時に気づいた。 綾君の頸に小さい噛み跡がある事。 大音に聞くと、「僕の者だからね、虫除けは大事だよ」って、6歳児の言うセリフじゃない……。 俺は卒倒して、大治は良くやったと褒めてる。 綾君は嬉し恥ずかしいって感じでモジモジしてるし。 賑やかになって幸せを感じている俺が、8ヶ月後に双子を産む事になる事を俺は知らない。 普段大人しい綾君が大音の束縛にキレて、1週間、義両親の家に家出して大音が泣きながら土下座をする事になる事を俺は知らない。

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