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はまったのは…
「ちょうど良いからさ、付き合っているフリしてくんない?」
自分がモテるのは知っている。
告白も恋人が居てもされるし、嫌がらせも受けて居たしな。
男子校に進学して、寮生活なら色恋のうざったさから逃げられると思っていたのに、思惑が外れた。
女性しか付き合う気がないのに、男どもからの告白やアプローチに本当に疲れ切っていた。
同室の奴は煩くないし、大人しい。
たまに静か過ぎて居るのかわからない時がある。
なので、恋人のフリを頼むことにしたんだ。
「良いけど……俺で良いの?」
「うん、奏(かなで)で良い」
「わかった」
そう言って奏は引き受けてくれた。
とりあえず、どうしたら良い?と言うので、明日から昼食を一緒に食べることにした。
教室に奏を迎えに行き、食堂に入るとさっそくチワワ君が俺に抱きついてきた。
「俺は奏と付き合って居るからやめろよ!」
勢いよく引き剥がしてチワワ君を睨みつけておいた。
チワワ君は「嘘だ…」と尻餅をついたままつぶやいていたけど、知らぬフリをして奏とテーブルの席についた。
奏はあの子大丈夫かな?と心配していたけど、気にする必要はないさと頭を撫でてやった。
これがきっかけで俺に告白をしてくる奴は居なくなった。
煩わしい視線や何か言いたげな奴はいるけど気にしければなんともない。
「奏がどこ行ったか知らない?」
それから数日後、奏を放課後迎えに行けば、教室に居なかった。
そこにいた奴に聞けば知らないと言う。
「ねぇ、苳也(とうや)君。あ、あのさ、」
モジモジしながら話し掛けてくるコイツは誰だったかな?
「奏君、いろんな人と付き合って居る知ってる?」
奏は俺以外にも誰とでも寝る奴だと、6時間目も授業に出ずに誰かと居るとコイツは言う。
「だから、ね、奏君なんてやめて僕と付き合わない?」
頬を赤く染めてそんなことを言ってくるコイツを殴りそうになった。
かろうじて残っていた理性で、教室の扉をぶん殴って。
「奏の居場所をさっさと吐けよ」
自分でも面白いくらい低いドスの効いた声が出た。
目の前のコイツは青白い顔して第二準備室だと言った。
もしかしてと思ったら、鍵も持ってやがった。
急いで第二準備室に向かえば、ボロボロになった奏が5人の野郎どもに押さえつけられていた。
奏も相当抵抗したのだろう。
挿入られる寸前だったようで、俺を見て気が抜けたのだろう。
「とうや…」と消えそうな声で俺を呼んだまま気を失った。
俺の中にこれ程まで熱くなった事は今まで無かったと思う。
そこにいた全員を殴って蹴って、気絶させてやっと奏に目がいった。
奏を病院に連れて行き、警察に被害届も出した。
「親父、俺の大事なものに手を出されたから報復する。そっちにも話が行くと思うからよろしくお願いします。」
「ふはっ、苳也の大事な者ねぇ。まぁ、夏休みにでも顔を見せに来い。後は任せろ」
始まりは付き合うフリだったはず。
煩くないし、うるさくないただそれだけだったはずなのに。
奏の飯が美味いのが悪い。
一緒に居て居心地が良いのが悪い。
頭が良いから、話題にも困らないのが悪い。
目立たないように掃除していつも綺麗にしているのが悪い。
洗濯物をついでだからとアイロンまでかけてしまっているのが悪い。
見た目はどこにでも居る普通のやつなのに。
こんな奏を手放せるわけが無い。
はまったのは、俺だった。
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