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勝ち組人生のはじまり_4

 半端者は、十八の年まで性別がはっきりしない。その特異性に悩まされ続けた俺の青春は、アルファが確定した翌日から一転した。  ばさばさと音を立てて落ちていく、淡い色の封筒たち。下駄箱に手紙とかいつの時代のラブコメかと目を疑ったが、綺麗な字で『門脇亮介さま』と書かれているのは確かに俺の名前だ。  周囲の注目を浴びているのは分かっていたが、ここは落ち着かねばとあえてゆっくりと落ちた手紙を拾っていく。ついでに一枚ずつ宛名を見ると、すべてに俺の名前が記されていた。間違いなく、俺宛の手紙。 「おはよう、亮ちゃん。何やってんの」  いきなり肩を叩かれて飛び上がりそうになるのを、なんとか堪えて振り返る。学校で俺に声をかける人間は少ないが、いつもなら気配だけで分かる翔平に肩を叩かれるまで気付けなかった。 「おはよう。翔、ちょっといいか」 「え、もうホームルーム始まるけど」 「いいから、ちょっと」  戸惑う翔平の手を強引に掴むと、そのまま俺たちの隠れ家である屋上へと向かう。  いや、俺たちのというのは語弊があるか。基本立入禁止のその場所に出入りできるのは、この学校の経営者が榊一族であるからに他ならない。俺が特等席である屋上でのんびりできるのは、翔平が連れて来てくれている間だけだ。  まあそこらへんの格差社会はさておき、つまり授業中の屋上に来られる人間は皆無なのである。授業など聞く必要のない翔平がひとコマさぼった所で、責める人間などこの学校にはいないのだ。 「もー、亮ちゃんは強引なんだから。あ、チョコ食べる?」 「食べる。まあこれを見てくれ」  ちょうど日陰になる位置に並んで座ると、甘いもの好きの翔平が鞄から菓子を取り出す。ピンク色のチョコレート菓子をひとつ口に放り込むと、俺は束にして持っていた手紙をまとめて翔平に手渡した。 「わぁ、なにこれラブレターじゃない。亮ちゃんモテモテだね」 「こんなもの貰ったの生まれて初めてだよ。今どき手紙で渡す奴なんているんだな。まずそっちに驚いた」 「そりゃあ連絡先知らない相手にコンタクトとるなら、直接か手紙になるんじゃない。とくに亮ちゃんって、俺以外に友だち居ないから近寄りがたいしさ」 「と、友だちくらい居る」 「そうなの。いつも学年違う俺のところに来るから、他に友だち居ないのかと心配してたんだ。良かった」 「……はは」  可愛い顔をして辛辣な翔平の突っ込みに笑うしかない。  確かに俺には翔平以外の友だちなんて居ないも同然だ。それは半端者は相手にしないアルファ達のせいでもあり、僅かながらに居た仲間たちにすら疑心暗鬼に接して来た己自身の行動の結果でもある。 「仕方ないだろ。俺はオメガの連中とは金輪際、付き合うつもりはないんだから」  翔平には分からないだろうが、オメガへの強い拒否感は半端者の間では暗黙の了解だ。  自分の両親と祖母を否定するのは心苦しいが、人の三大本能的欲求しか持っていない人種と関わり合うメリットなど皆無なのである。 「とにかくアルファになれたからには、俺は今後の人生からオメガを廃すと決めていたんだ。当然、友だちもアルファ、番は最高のアルファの女。これ以外に選択肢なんてない!」

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