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運命とか気持ち悪い_1

 最低最悪の一夜が明けた朝。俺はあえて思考を働かせず機械的にタクシーで自宅に戻ると、着ていた借り物の服を洗濯機に放り込み、風呂に入って丁寧に身体を洗った。  さっぱりとした所で、ソファーに座ってまずはスマートフォンの電源を切ってしまう。午後から出勤予定にしてはいるが、今日は土曜日なので自由はききやすい。  まずは落ち着いて整理しよう。問題の昨夜、俺は連日の激務で疲れが溜まっていた。まだまだ大丈夫と思っていたが、おそらく疲労によってランナーズハイのような状態に陥っていたのだろう。  そして幼馴染みとの久しぶりの再会。最初こそ緊張していたが、俺のガードを緩ませることにかけては昔から最強を誇る翔平との酒盛りに、かなりの量を飲んでしまったと自覚している。  俺は酔うと明るくなる質で、つい飲み過ぎるのが欠点だ。ついでに言うと、べろべろに酔っていても記憶はしっかり残るタイプでもある。  つまり、はっきりばっちりその後の顛末も覚えている訳だが、ここは酒のせいで忘れている路線を取ることにしよう。酒の上での間違いは、お互いに知らんふりをするのが一番良い。  同性が恋愛対象ではない俺にとって、男とセックスしてしまった事実なんて、くしゃくしゃに丸めて焼却炉に直接放り込みに行くレベルの抹消すべき案件だ。  なんだか思い出したくもないような内容を二人で口走っていた気もするが、翔平だって酔っ払ったノリで言ったことを追求などされたくはないだろう。やってしまったのは事実だが、二人で知らんふりをすれば無かったことにはできる。  酒に酔っただけでは説明がつかない事がいくつもあったが、俺はあえて見ないふりをした。  それが後々に、もっとひどい事態を引き寄せるだなんて、そのときは想像もしていなかったのである。 「門脇、やっと来たか」  何食わぬ顔で午後出勤をした俺を出迎えたのは、いつになく焦り顔の坂田検事だった。こっちこっちと背中を押してくる先輩に、本能的に危機を感じて足を踏ん張って抵抗する。 「なんですか、やめてくださいよ、一人で歩けますから」 「いやいやいや、そんな遠慮するなって。ほら、昨日は俺が無茶振りした仕事で疲れただろう。コーヒーいれてやるからさ、応接室で少し休めよ」 「いやいやいやいや、下っ端の俺が出勤早々に応接室で寛ぐってあり得ないでしょう。あ、なんか忘れ物したかも、うん忘れ物したな。すみません、ちょっと取りに戻ります」 「うぉいッ、先輩に言うことは素直に聞けよ」 「亮ちゃん!」  廊下で繰り広げていた決死の攻防戦に被せるようにして、やけに場違いなはしゃいだ声に名前を呼ばれる。まじかよ。なんで昨日の今日、どころか今朝の今でまたコイツの顔を見る羽目になるんだ。  ダークトーンのスーツが多い検察庁の人間の中で、明らかに浮いている光沢のあるグレーのスリーピーススーツ。全体的に淡いトーンでまとめられたコーディネートに、思わずどこの新郎だよと突っ込みをいれたくなる。 「ごめん、今日もお仕事だったんだね。あ、気分とか悪くない、身体も大丈夫かな?」 「おぉいッ、ちょ、おまっ、なんでここが」 「え、いや、そりゃ亮ちゃんの職場くらい最初から調べて知ってるし。昨日のパーティーで会えたのは偶然だったけど、行ってよかったよ。あれ、もしかしなくてもこれって、運命の再会ってやつなのかな?」

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