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タイムマシンを探しに行こう_1

 秋の日は沈むのが早い。  午後三時に差し掛かると夕暮れに染まりだす空を見ながら、自販機に並んだ商品の中からブラックコーヒーを選んでスイッチを押す。こちらもすっかり、ホットが美味い季節になったものだ。 「お、っと、門脇くんも休憩か。お疲れさま」  角にある休憩スペースにやって来た坂田検事が、俺が居たことに気づいて明らかに顔を硬らせる。翔平が職場に押しかけてから一ヶ月ほど経つが、先輩も同僚もみんなこの調子でやり辛いことこの上ない。  まったく後先を考えずに傍迷惑なことをしてくれたものだ。俺の今後の出世に響いたらどうしてくれると考えて、もうとっくに影響しまくっているのかと口に含んだコーヒーが不味くなる。 「どうぞ、席は空いてますから」 「は、ははは、ありがとう。それじゃあ、お邪魔しまーす」  長椅子の端の方に遠慮がちに腰を下ろすと、坂田検事は手にしていた小さな袋から見慣れた発泡トレーを取り出した。とたんにやけに嫌な匂いがむっと鼻をつく。 「なんですか、それ」 「え、ああこれ、タコ焼きだよ。昼飯食いそびれたから腹が減ってさ。最近できた店だけど中々美味いんだ、ひとつ味見してみるか?」 「いえ……けっこうです」  ほらと白い発泡トレーの蓋が開けられると、まだ湯気を立てている食べ物の匂いがより一層キツくなった。タコ焼きの匂いを不快に感じたことなどなかったのに、やけにムカムカしたものが胃からこみ上げてくる。 「そういえばさ、あれから職場にいらっしゃることはないけど、榊様とは上手くいってるみたいだな」  匂いを遮ろうと口元を押さえた左手の指輪を見て、坂田検事が表現に苦しむ笑顔でこちらを見る。  上手くいくも何もない。勝手に人の職場で婚約発言をしていった王子さまは、最低一日一回は連絡をしないと鬼のようにコールをしてくるし、朝昼晩と最低三回はどうでもいいメッセージを送ってくる。  ちなみに少しでも内容に触れた返信をすると嬉々として継続される会話の切りどころが難しくなるので、最近では『そうか』『良かったな』などの簡潔な一文しか返さないようにしていた。  そして休日となると、必ず当日の朝早くからチャイムを鳴らされ、一日中連れ回される羽目になる。あのパーティー以来、なんとか夜の方だけはお断りさせて頂いているが、いつまでもこのままとはいかないだろう。  彼奴だって仕事で鬼のように忙しい筈なのに、どうしてここまで俺に構ってくるのか分からない。たった一ヶ月で、俺の精神的ストレスはマックスを遥かに超えていた。 「先輩、今夜飲みにでも行きませんか。俺が奢りますから」 「え、ぇえ、それはそのぉ」 「少しくらい可愛い後輩の悩み相談に乗ってください。断るなら、彼奴に坂田検事に虐められたって言い付けますよ」 「おまッ、どっちにしろ俺めちゃくちゃ貧乏クジじゃねぇか!」  酷いッと涙目で愚痴りながらも、根は面倒見の良い坂田検事は適当な店を見繕って予約をしてくれた。  ちゃんと了解を得ておくこと、一軒目二時間で終了、アルコールは注文しない、などと条件を出されたが、とりあえずその場では頷いて、俺は翔平に連絡をしないまま坂田検事と居酒屋のドアを潜ったのだった。

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