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タイムマシンを探しに行こう_2

 適当に入ったチェーン店の居酒屋は、週半ばということもあって適度に席が空いていた。 「この辺りにするか」 「え、落ち着かなくないですか」 「だからいいんじゃないか」  混雑時に仕方なく座るような、四方をテーブルに囲まれた席をあえて選ぶと、坂田検事はノンアルコールビールを二つと通りかかった店員に注文する。  まあどちらにしても目的はストレス発散なのだから、席などどうでもいい。先輩の奢りなら高い店に行きたいが、今日の財布は自分なのでそこも関係ない。 「で、どうですか、坂田検事的に最近の俺の部内での評価は。ここは包み隠さず、どんっと教えてください」 「いきなりそれ聞いちゃうの?」 「自分で言うのもなんですが、俺ついこの間まではそう悪くなかったと思うんですよ。そりゃアルファのエリート女子からの受けは今ひとつでしたけど、出世次第ではって感じだったでしょう」 「まあねぇ。こうなったから教えてやるけどさ、お前わりと地検の才女たちにも評判良かったよ。あの人らプライド高いから態度には出してなかったけど、お前ってほら、親父さんオメガでしょ。アルファモテする顔してるんだわ」  初耳のその情報に、思わずがくりと俯いてしまう。誘ってもつれない返事しかくれなかった女性陣に実は評判が良かったとしても、その理由が父親似の顔のお陰とはどうなんだ。  それに顔は好みだというのなら、一度くらい食事に付き合ってくれても良かったんじゃないのか。くそ面倒なアルファの女性陣に、イラッとしてしまっても俺は悪くない。 「ご注文以上でよろしいですかぁ」 「熱燗ひとつ」 「コラァ、お酒はダメって言ったでしょッ。すみません、枝豆と冷奴に、刺身盛り合わせと唐揚げね」  適当に摘みを頼んで店員を追い払うと、坂田検事は辺りを伺うように視線を走らせる。そんなに心配しなくても、翔平が押しかけてこないよう内緒にしてきたから大丈夫だ。 「はぁ、なんだかショックです。そんな話をするってことは、今はもう望みがないってことなんでしょう」 「いやそこはさ、相手が相手だもん。榊の人間が目をつけた相手に手を出す強者なんて、次長検事レベルでないと無理ゲーだよ」 「刺身盛り合わせでーす」  覇気のない声で置かれた冷凍の刺身が、いまの俺の気持ちにぴったりでため息が出る。  ひとつ取って口に運ぶと、解凍しきれなかったらしい歯触りがしてますます落ち込む。どうせ金をだすのなら、せめて料理くらい美味しい店を選ぶべきだった。 「俺もひとつ聞きたいんだけどさ、お相手のどこに不服があるっての。門脇はアルファと結婚したかったんだろう。まさに理想的どころか、玉の輿じゃねぇか」 「俺が結婚したいのは、あくまでアルファの女性です。そこ重要ですから。俺はファミリーカーやマイホームのコマーシャルに出てくるような理想の家族を持ちた……ッッ?!」 「唐揚げでーす」  湯気を立てる鶏肉が近づいたとたん、胃の奥からぐっと吐き気がこみ上げた。 なんだこれは、アルコールも口にしていないのに、いきなりぐるぐると回り出した胃に軽くパニックになる。 「す、すみません。ちょっと」  喉の奥に感じる酸っぱい味に本気で危機感を覚えると、一目散にトイレに駆け込むため俺は走り出していた。

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