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タイムマシンを探しに行こう_6
震える指で『妊娠』とキーワードを打ち込むと、初っ端から言葉の意味ではなく妊娠初期症状についての説明が上がってきた。
ですよね、妊娠の意味を知らない人間が、インターネットを使って検索したりしないよね。わかるー。
などと現実逃避をしている場合ではない。はっと我にかえると、恐る恐る妊娠初期とあるリンク先をタップして記事に目を通してみる。
そこに書かれている症状はまさに、数ヶ月前に俺が体験した原因不明の体調不良とぴたりと一致している。妊娠。にんしん。つまり、赤ちゃん出来たのってやつか。そうか、俺もついに父親に……。
「じゃねぇよ、どういうことだ、なんで俺がッ」
八つ当たりでベッドにスマートフォンをなげつけると、膝を抱えてフローリングの上で丸くなる。
すぐでとも医者には言われたが、はいそうですかと産科に行けるわけがないだろう。だって俺はオメガでも女でもない、アルファの男なのだ。
その俺が、妊娠。それも中期の可能性が高いだなんて、誤診に決まっている。あの藪医者、間違うにしても限度があるだろう。
「くそ、くそ、くそ、くそッ」
最後の悪あがきのようにそばに転がっていたティッシュケースから中身を取り出しては周囲にぶちまけいく。
まさかと思うまでもない。アルファの男が妊娠などあり得ないはずだが、心当たりがあるとすれば俺には一人しかない。
なんで翔平とやったりなんかしたんだ。今すぐにでも時が戻るなら、あの日の自分を百発ぶん殴りたい。むしろ殺してやりたい。
微かに腹の奥で何かが動く感覚がする。腹の調子でも悪いのかと思っていたこれが、翔平の子どもが動いている胎動だったなんて、そんなミラクルを誰が信じるだろう。
「とりあえず、どうしよう」
反射的に触れた腹は、どこにも膨らみなど感じられなかった。
自慢ではないが、昔から武道を嗜んできたせいもあり、この年まで肉体の鍛錬を怠ったことなどない。贅肉どころか薄いながらもきちんと割れた腹筋の下に、本当に胎児が存在しているのだろうか。
いずれにしても、内科の医師は気軽に早目の受診をなどと言っていたが、ことはそう簡単ではないのだ。
現代では結婚までは全ての性で認められているが、生物学的制約のある妊娠はそうはいかない。男性で妊娠出産ができるのはオメガだけ。つまり俺が行かなければならないのは、あれだけ関わることを避け続けてきたオメガ専用の産科なのだ。
逃げたい。このまま知らんふりを決め込んで日常に戻ってしまいたい。だが本当に既に中期に入っている可能性があるのなら、一刻も早く病院で真実と向き合わなければならない。
結局その晩、俺はフローリングで体育座りをしたまま朝を迎えた。流石に有給まで取らず定時上がりをさせてもらったのが金曜だから、今は土曜日の朝のはず。電話しておきますねと笑顔の医師がとった予約は、たしか今日の昼前だ。
「っっ、くそ」
最後の悪態をついて、最も頼りたくなかった人間の番号を数年ぶりに呼び出す。早朝にもかかわらず、すぐにコールは止んで懐かしい声が電話口に出た。
『もしもし亮介か。どうした、珍しいな』
「おはよう、父さん。朝から悪いんけど、おりいって相談したいことがあるんだ」
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