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第6話

「これ、全部同じか?」  鍋に浮き上がった餃子をすくい上げる威軍の横で、捧げるように皿を持つ志津真が不思議そうに聞いた。餃子の包み方が微妙に違うのだ。よく見ていると3種類はありそうだ。  どれも丸い麺を半分に折った半月形が基本だが、襞の付け方が違っていた。日本風に片方に襞を寄せたもの、中国式に襞の少ないもの、襞と言うよりは細かく織り込んだもの。形が違うということは、中の餡も違うのかと志津真は期待していた。 「全部同じ味だと、あなたは飽きてしまうでしょう?中身は3種類ありますよ」  志津真のことなら何でも理解している優秀な恋人は、20個ずつ3種類、計60個もの餃子を1人で包んだらしい。  この1つ1つが愛する志津真を喜ばせるのだと思うと、込み上げる想いが抑えきれず、1人黙々と続ける作業も苦にならなかった。とは言え、そのことを志津真に打ち明けるつもりは無い。 「これが『三鮮』で、豚肉にニラとタマゴとエビが入ってます。こっちが、豚肉にセロリとネギ、これは、豚肉、もやし、ニラ」  食卓に着き、大皿に盛られた茹でたての熱い餃子を、黒酢を入れた志津真の取り皿に入れながら、威軍は説明した。  その説明も耳に入っているのか、気もそぞろな様子で、志津真は少年のように瞳を輝かせて、湯気を上げる恋人の手作り餃子を見詰めていた。 (お預けを喰らった子犬じゃあるまいし…)  食に関しては正直な志津真は、これまで食べた中で最上の水餃子を目の前にして、本気で待望している。そんな志津真に苦笑するが、自分が作った物をこれほどに楽しみにしているのだと思うと、威軍には彼への愛しさが余計に募る。 「さあ、どうぞ」「はい、いただきますっ!」  恋人を喜ばせたい、その一心で威軍が用意した手料理を差し出すと、いつもは丁寧にする礼もそこそこに、志津真は急いで貪り始めた。 「わ~、やっぱりサイコーやな!」  満足そうに次々食べる姿が、威軍には嬉しくて、以前の幸福感と同じものが沸き上がった。 「ウェイ、お前も食えや」 「はい」  楽しそうに箸をもった威軍に、またも志津真は余計な事を言って揶揄った。 「しっかり食って、体力つけとかんと。今夜はたっぷり楽しませてもらうんやからな」 「セクハラですよ、それ」  昼間の職場での出来事を思い出し、威軍は毅然と言った。 「ハラスメント(嫌がらせ)やないやろ?本人(おまえ)が望んでることなんやから」  言葉はふざけているが、この上なく優しく、誠実な眼差しで志津真が言った。好きな相手が喜ぶことだけをしてやりたい、志津真の目はそう言っていた。 「程度によります」  真面目にそう答え、威軍は志津真の誘惑を無視して、自作の三鮮餃子をパクリと口に入れた。 「あ、それ、俺の好きなやつ…」  お気に入りの三鮮餃子が減ってしまい、ムッとする志津真に、しゃあしゃあと威軍が言い返した。 「あなたの『好きなやつ』って、餃子ですか?それとも、この私ですか?」  あまりにも澄ました顔で言った高尚なジョークに、さすがの関西人も一瞬笑いに変えられずに、きょとんとした。  まさか「人造人」にこんな冗談が言えるとは…。  いや、志津真の側にいることで、冗談の1つも言えるようになったと言うことか。  そのことに気付いて、志津真は苦笑する。 「ウェイ…。お前、やっぱり日本語上手すぎや、な」  そうして、恋人たちはクスクスと笑いながら、和やかに食事を進めた。  手作りの水餃子と一緒に、冷えた日本製の缶ビールを2本開けた。  沈着冷静で、白皙の美青年といった風情の「人造人」郎威軍も、志津真の前では、ほんの少しだけ酔うことがある。  仕事の接待上の飲酒では、アルコール度数の高い白酒(バイジュウ)だろうがウォッカだろうが、どれほど勧められても顔色一つ変えることは無い。  そんな威軍であるのに、缶ビール1本程度でほんのりと頬を染め、とろりと瞳を潤ませ、欲情が抑えられないのか物欲しげで濃艶な表情になる。  そして、志津真をそそる色香を全身から漂わせるのだった。

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