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第5話
男性は泣き続ける僕を立たせ、抱き抱えるようにしてトイレから出ると、公園の中にあるベンチに腰掛けさせてくれた。
隣に座って、僕の背中を静かにさすり続けてくれる。
ようやく落ち着いてくると、公園の明かりによってその男性が制服を着た僕の学校の生徒だと言う事に気がついた。
「もう、大丈夫なのか?」
見知らぬ年上の男性だとばかり思っていた僕は、その人が自分の学校の生徒だと分かると恥ずかしくて顔を上げることもできないでいた。
それでもようやく頷く僕に、
「木島、本当に大丈夫なのか?」
自分の名前を呼ばれ、驚いて顔を上げるとそこに、心配そうにしている見知った顔があった
「辰巳…君?」
「ああ、やっぱり俺だって気がついてなかったか。」
「わからなかった…って、あ…ありがとう。助けてくれて…」
クラスメイトの顔を見て、恥ずかしさよりも安心感が心を占めていく。
ただ、クラスメイトとはいえ、今この時まで喋った事もなかったのだが…。
「うちの学校の生徒が一人の時を狙って、ああ言うのが時々出没すんだよ。近くにこんな公園もあるしな。まぁ、今回は俺が気がついたから良かったけれど、今度からは気を付けろよ!」
そう言って、ベンチから立ち上がる。
「うん、本当にありがとう。」
見上げた辰巳はクラスの中でもかなり浮いている存在で、不良と呼ばれる類の人種だ。
顔は可愛く、背もそんなに高くはない。どちらかといえば華奢な体つきだが、喧嘩となるととんでもなく強いらしいという事を、前にクラスのやつから聞いた事がある。
「あの形だろう?相手は油断すんだよ。」
「じゃあ、一度手合わせしてみろよ?うまくすればヤれるんじゃね?」
「俺はパスだわ。前にどこかで喧嘩してんの見たけど、油断とかじゃなくて、あいつマジでつえーよ。ヤるなんてムリムリ!」
そんな話を聞いていたので、優しくさすられた背中の温かさを思い出すと、不思議な気持ちになった。
「しかし、木島ってガタイもそこそこいいのに、あんまり強くないんだな。」
「僕のは見た目だけだよ。動きが鈍いって、親からはまだか、まだかっていつも言われていたくらいだから。」
「ふぅん、そうなんだ?俺はどちらかと言うとせっかちな方だから、もっとゆっくりとか、もっと落ち着いてとか言われてたな。」
「なんか分かる気がする。」
ふふっと笑う僕をじっと見ると、
「もう、大丈夫そうだな?」
そう言って、ぐっと伸びをする。
「寮にかえっぞ。もう時間やべーけどな。」
そう言って手を差し出す。その手に僕の手を重ねると、ふわっと辰巳が握って立たせてくれた。
その感触に僕の胸がどきっと高鳴った。
「え?あ、ごめん、時間?って、ああ、門限?!」
その事を隠すように焦った僕の言葉に、辰巳が笑い出した。
「何焦ってんだよ?大丈夫、俺がうまく言ってやるから…って、さすがにそのシャツはやべーか。」
そう言われて自分のシャツを見ると、明らかに何かがあったと思わせる破れっぷりに青ざめる。
「どうし…よう。みんなにバレちゃう…」
未遂とは言え、レイプされそうになったなんて知られれば、この先の学校生活はその噂と好奇の目に晒される日々が待っている。そして、その事よりも両親にばれることの方にゾッとした。
ベンチに崩れ落ちるように再び座ると、膝の間に顔を埋めた。
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