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第15話
「別に疑うのは自由だけど、俺じゃない。大体、店でしょっちゅう会ってんのに家までこそこそ行って写真撮って見せるとかそんな回りくどいことしねーよ、俺だったら」
「……まあ、そうだろうな」
「確かに回りくどいことしなくても店で言いたいこと言ってるし。そもそもムラサキさんはそこまで俺に関心持ってないでしょ」
面倒そうに頭を掻くムラサキさんの答えに、肩から力を抜くレン。
そしてその可能性を元から考えなかった理由を口にする俺に、なぜか静かな視線が集まる。ただ文句は口にされなかったから、代わりに俺が言葉を続けた。
どうせだから引っかかっている部分をストレートに聞いてしまおう。そろそろ開店準備をしなければいけないんだから。
「ムラサキさん、ずばり目的は?」
「は?」
「いや、言い換える。俺を家に置いてくれることに対してのムラサキさんのメリットは? 親切心だけじゃお世話になれないし、正直ちょっと恐い。だって面倒な男のことで俺が困ったってムラサキさんには関係ないでしょ? なのになんでそんな厄介なこと引き受けようとするんです?」
「……」
そこのところが不明瞭なのが、その親切を素直に受け入れられない理由だ。
飲む時にからかうのにちょうどいい店員、ぐらいの俺に対してどうしてそんな風に手を差し伸べてくれるのか。その理由をずばり教えてくれと詰め寄る俺に、ムラサキさんはなぜか黙った。
そして視線をあっちに逸らし、そっちに逸らし、苦悶して唸って考え込んで、ウーロン茶を呷り最後に髪をぐしゃぐしゃと掻き回す。
こちらから聞いたことではあるけれど、そこまで話すのをためらわれる理由があるのかと若干ビビってしまった。
なんにせよ、そこまでなにかを隠している相手のお世話になることはさすがにできないだろうと俺が切り出すより早く、ムラサキさんは意を決したように取り出したスマホを操作しだした。そしてなにかを表示させてこちらへと向けてくる。
「なにこれ、マンガ?」
表示されているのはどうやらマンガの表紙のようだ。
誘うような表情をした、長い髪の美女……いや、体格からして男だろう一人の人物がグラスを片手にこちらへと視線を投げかけている絵。
女性が好みそうな繊細なタッチで描かれた男は、少女マンガで主人公が恋するお兄さんという感じだ。それにしては表情がやや
色っぽすぎるけれど。
そこに被るように『白猫さんは今日も淫ら』と大きく書かれているのがタイトルだろうか。
「淫ら……ん、エロい話? というか、なんでこれを?」
「おい、ちょっと待て」
なんでここでこれを見せられているのか、その理由に気づいたのはテーブル越しに同じように画面を覗き込んでいたレンだった。
「ここ、ムラサキって」
指さされたのは画面の一番下。
普通は作者の名前が書いてあるそこに、『ムラサキ』と入っている。思わず顔を見たムラサキさんは気まずそうに俺たちから視線を逸らせていて、それが今考えていることの正しさを物語っているようだ。
つまりこの名前は偶然ではなく、今ここで見せられたのが俺の問いの答えということ。
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