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第27話

 それからの四、五日はなかなか平和に過ぎた。  店に行かない上に家でもない場所で過ごす毎日は退屈なほどなにもなく、すべての家事を終わらせてもなお時間はあり、たまの買い物もムラサキさんと一緒の日用品の買い出しくらい。  レンに連絡(この言葉でしばらく笑い転げていたくらいには暇)したところ店にも特に変わりはないようだし、俺が過剰に恐がりすぎたんじゃないかと結論付けて帰ろうとしたけれどムラサキさんに襟首掴んで止められてしまった。  ついでにレンにも電話で止められた。なにかあってからでは遅いからと。  そういうわけで特にすることもなく柔らかなラグの上で丸まって寝転んでいると、まるで本当の猫になった気分だ。  暇をつぶせるものも趣味もない俺は、やることと言えばムラサキさんが持っているマンガを読むくらいで、それだって寝転がって読んでいたらすぐに眠くなってしまう。  作業中のムラサキさんは邪魔したくないし、でもやることもないし、このままじゃ一日中ここで寝ているようだ。このまま食っちゃ寝を続けていたら、自慢の体のラインが崩れそう。  それに、さすがにずっとこうしているわけにもいかない。 「ムラサキさん、俺ちょっと店行ってくる」  今にも眠りそうな体を起こしてパソコンに向かっているムラサキさんに声を投げると、一拍分沈黙があった後くるりとイスが回転した。  顔はこちらを向いているけれど厚い前髪のせいでどんな目元をしているかはどうにもわかりづらいから、あの前髪はそろそろ切ってやりたい。 「……は? いや、危ないだろ」 「服はムラサキさんの借りるし、帽子もメガネも買ってきたし、ちゃんと変装するから。遠回りもする」  たぶん、そこまでしなくても平気だろうけど。  そもそも直接なんかされたわけじゃないし、俺が大げさに騒ぎすぎただけなんだよと言う俺に、ムラサキさんは唇をへの字に曲げた。わかりやすく不満そうだ。 「じゃあ俺も行く」 「大丈夫だってば。ムラサキさん、まだお仕事中でしょ? 俺がいると気になるだろうし、それにほら、レンと話したいこともあるから」  心配してくれるのはとてもありがたい。でも正直なところ若干心配しすぎじゃないかなという思いもあるし、ムラサキさんの仕事の邪魔しているのも気になっていたところだ。  だから俺が店に行くことでムラサキさんは少しでも自分だけの時間ができるだろうし、居場所がわかっていればそれほど心配することもないだろう。  そういうわけなんで、とさっさと用意を整えた格好でもう一度了解を求めれば、しぶしぶ頷いてくれた。適当そうに見えて、意外と義理堅い人だ。  でもまあ、見ないようにしていたって俺がここにいたらエロエロなシーンも描きづらいだろうし、なにより俺は俺でこっそりとやりたいことがあるのだ。 「じゃあえっと……またあとで?」 「……後で行く」  まるで初めてのおつかいに行く子供相手のように、イスに座ったままとはいえ見送ってくれるムラサキさんに手を上げて応えて家を出た。  寄り道分を入れ、遠回りするとしてもだいぶ早く着くことだろう。ただレンと話したいというのも嘘じゃないし、少し時間が欲しかったからちょうどいいかもしれない。  久しぶりの一人歩きを少しおかしく思いながら駅までの道も駅からの道も遠回りして、ついでに寄り道もして、久々の気がする「ラクダのオアシス」にやってきた。  エレベーターに乗って五階まで行き階段で下りる。  手間と時間をかけてやっと辿り着いたその場所の思った以上の感慨深さに、一度深呼吸をしてから重たいドアを開けた。  中ではすでに開店準備を始めていたレンが、「まだ準備中」と言いかけて俺に気づき苦く笑い。 「そろそろ来る頃だろうと思ってた」  と呆れたように迎え入れてくれた。

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