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第31話
「せっかくだからそこでいい男捕まえてこようと思って」
「身元バレないのかそれ」
「派遣ですし。よっぽど問い合わせたり聞き出したりしなければ大丈夫でしょ。なによりパーティーの夜は一夜の過ちが許されるもんじゃない? ちゃんと仕事の後に約束するし、船降りた場所の近くに何軒かホテルあるのも検索済み」
「どんだけヤりてーんだよ」
準備も意気込みもばっちりとVサインをしてみせると、半笑いで呆れられた。
どれだけ、と言われたらそりゃあもうものすごく、と答えるしか。
「だってムラサキさんのとこにお世話になってる身で男見つけんのもちょっと悪いかなって思って、ここんとこ誰とも寝てないから欲求不満なんだよね」
「珍しいよな、お前にしちゃ。いい首輪ついてんじゃん。そのままずっとムラサキんとこいたら? 治るかもよ、その乗っかり癖」
「その前に欲求不満で死ぬ」
平和はいいけど、平和すぎるのが問題だ。
ムラサキさんの家にいると、静かだしきちんと朝起きて夜寝るなんて真っ当な人間らしい生活を送っているせいで悟りが開けそう。
家に呼ばれた時にはもう少しなにかあるのかと思っていたけれど、口の悪さ以外は意外と紳士的というか過保護なムラサキさんは、楽だけどドキドキとはほぼ無縁。
まあもとよりバーの常連さんだから、向こうから手を出されない限り男として意識するものじゃないんだけど。
「エロいことしたーい。好みのイケメンに獣のように情熱的に攻められたーい」
「……お前って、ほんっと見た目がそれなのほんっともったいねぇよな」
「そんな力いっぱい言わなくても。だって待ってるだけじゃいい男とヤれないし」
「そりゃそうなんだけど」
「健全すぎるのも体に悪いよ、絶対」
いくら綺麗な見た目をしていたってモテ筋とは違うし、ネコだってことをアピールして積極的にいかないと楽しい思いはできない。
逆に行くとそうすれば楽しい思いができるんだから遠慮をしていたらもったいないじゃないか。
「そういえばムラサキさんどうしてんだろ。今んとこ彼女いなさそうだけど」
明らかに人が訪ねてくる家だったから、もしかしたらそういうこともあるかもと思っていたけれど、今のところ彼女が突然訪ねてきたことも連絡している素振りもない。しばらくは誰とも付き合わないと言っていたのは、てっきり誰か決まった相手がいるからかと思っていたのに。どうも本当に独り身のようだ。
「お前がヌいてやれば?」
「そんなことしたら追い出されそう」
「そんな潔癖じゃないだろ。お世話になってるお礼にーとか言ったら大抵の奴はいけんじゃねぇの? 男は快感に正直だぞ?」
「んー、でもさあ? ムラサキさんが俺にハアハア欲情すると思う?」
「表現」
段々とこの話題が面倒になってきたのか、つっこみが単語で雑だ。
それでも言わんとしていることは受け取ってくれたのか、苦く笑って肩をすくめる。
「まあ、想像はできねぇけど」
「そもそもムラサキさんとじゃそういう雰囲気になるのも無理じゃない?」
俺が男で失敗した話をするたび鋭くつっこまれ正論で正されからかわれ文句を言われ。その状態からどうやってエロい雰囲気になるというんだ。
そんな風になる予兆があるものなら、まず一緒に過ごす初めての夜で事は済んでいるはずだ。
考えるまでもないことでもすぐに頷くのはどうかと思ったのか、持っていたままのマンガをパラパラめくり、そっと閉じるレン。
「……無理だな、うん」
それからマンガをその場に置いてカウンターへと戻っていく。
「まあ、なんだ。お前が、いい恋愛ができるように祈っとくよ」
そしてそんなことを言いながら、再び中断していた下ごしらえに戻った。
……面倒になったからって雑なまとめしやがって。
とはいえ、俺だって久しぶりに喋りたかっただけの面が多いから、それ以上はつっこまずに話を終わらせた。
本人に見つかるとまずいから、ムラサキさんのマンガはレンに預かってもらおう。
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