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第32話

 そして久しぶりの店を楽しんだ後、夕飯を兼ねて合流したムラサキさんといつもよりもだいぶ早い時間に帰ることになった。  俺はもうそろそろほとぼりが冷めたんじゃないかと思っているけれど、二人はまだ用心しているらしく今度はレンの服を借りて変装をする。  帰り道も一応用心のために少し回り道をして帰ったけれど、特に変わった様子はなかった。  よく考えたら隠し撮りの写真を送られたくらいで騒ぎすぎたかもしれない。  寝起きの頭に叩き込まれた理解不能の行動は確かに恐ったけれど、向こうだって一日中家を張ってるわけじゃないだろうし、反応のなさでもう諦めたかもしれない。  もう少ししたら様子を見に行って、大丈夫そうだったら二人を説得して帰ればいい。いつまでもムラサキさんの家にお世話になっているわけにはいかないんだし。  大体、ムラサキさんが見かけによらず親切すぎるんだよな。  朝ご飯を食べる習慣のない俺に毎日なにかしら作ってくれるし、これやれあれやれと理不尽な要求をするわけでもなし。  ごろごろしているところを写真に撮られはするけれど、最初に考えていたようなヌードとかセックスシーンとかを見せるわけでもなく。  あくまで男同士の関係を描くのはマンガの中だけで、俺には興味ないんだなとわからせられて、いいような悪いような。  酔った俺って、結構色っぽいって言われるんだけどなぁ。  最初から狙われるのは困るけど、あまり相手にされないのは、それはそれで寂しいというわがまま。 「ねぇねぇムラサキさん。普段のお礼に、なんか俺手伝えることないかな? モデルとか、いくらでもするよ?」  とりあえず家に帰って早々にパソコンの前に座ったムラサキさんにそう持ち掛けてみる。  俺がモデルのマンガを描いているのなら、本人である俺はなにかしらに使えると思うんだけど。 「マンガの参考になるようなポーズとか、言ってくれれば」  お礼の気持ちがあるのは本当。  だけどある程度なんでもできて欲しいものもこだわりがあるだろうムラサキさんにお礼をするとなると、こういうことしかできない気がする。 「……じゃあ、エロい顔して」 「え?」 「モデル、してくれるんだろ?」  くるりとイスを回転させて俺を見下ろし少し考え込んだムラサキさんは、足を組んでそんな要求をしてきた。 もちろん自分が言い出したことだからそれはいいんだけど、正直いつも通り断られてそこに座ってろ大人しくしてろと怒られるかと思ってたから少々驚いてしまった。 「あ、いや、言ったけど急には……あ、じゃあ協力して」  しかもエロい顔ときた。  ただよく考えるまでもなく必要なものといったらそういうものになるのかと納得して、気持ちを切り替えた。  せっかくだから少しばかり巻き込んでからかってみようか。 「指貸して」  ムラサキさんの前に正座して、勝手に手を取る。  ムラサキさんの手はしっかりと肉厚で男らしいけど、ごつごつしているわけではなくむしろ指が長くていかにも器用そうだ。この手であの繊細な絵を描くのかと思うと、すごく特別な指に見えてくる。 「ムラサキさん、指フェラって知ってる?」  黙ったままのムラサキさんを見上げ、そのまま人差し指と中指を一緒に咥えた。  イメージでエロい顔してもいいけど、一人では寂しいし協力してもらうくらいいいだろう。  普段は口で負けてるから、違う口の使い方でマウントを取ってやる。  さすがに経験人数では勝っているだろうし、あまりにも俺に興味を持たないムラサキさんがむかつくからちょっとぐらいエロい顔くらいさせてやりたい。

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