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第33話

「んっ……んむ」  その名の通り、指を性器に見立ててしゃぶるわけだけど、指先は神経が集まっている分思った以上に感覚が敏感だ。そしてその直接的な感触と同様、音と視覚も重要だ。  わざとらしいほどに空気と唾液を混ぜ合わせて音を立たせ、濡れた指先とぬめる舌先を合わせて見せつける。  ここまでやったって厚い前髪のせいで見えてるかわからないけど、なんてダメ元で見上げた瞬間、ばちりと視線が合って一瞬口が止まった。  そのタイミングを狙ったかのように、ムラサキさんが小さく口の端を上げ、指を引いた。 「ん、あ」  その指先が上顎をかすり、思わず喉から声が漏れる。  それは偶然ではなかった。  俺の力が抜けたのを見計らって、今までされるがままだったムラサキさんの指先が器用に動き出す。  絡めとろうとする俺の舌からするりと抜けて上顎を撫で、俺が体を震わせたのを見て今度は舌をなぞり。それから舌の裏をゆっくりと撫で上げられて、思わずくぐもった声が漏れるのを楽しむように俺の舌を翻弄する。 「んぅ、んっ、ふぅ」  口の中をいじられているだけなのに腰が疼いてしょうがない。  なにが起こっているのか思考がとろけているせいで考えられず、ただただ口の中の感覚だけがすべてで。  ゆっくり引き抜かれた指を舌先で追ってそのまま咥えれば、また逃げるように抜かれて思わず両手でムラサキさんの手を掴んだ。それから手を固定させて伸ばされた指をしゃぶる。  それは無意識のうちに先をねだるような仕草で、求める先のムラサキさんを見上げた目はたぶんひどく欲に濡れていたはずだ。  その瞬間、カシャカシャとシャッター音が響いて我に返る。 「は、あ……」  口を開けて身を引けば、ムラサキさんの指はすっかりとべたべたになっていて目の毒なありさまだった。  もう片方の手にはいつも写真を撮られるスマホが構えられていて、どうやら目的のものは撮れたらしい。  そりゃあ大層エロい顔をしていただろう。完璧にその気になっていたのだから。 「満足したか?」  それは、俺がムラサキさんをからかおうと仕掛けたのを見透かしているような言い方だった。  そして俺はまんまとしてやられて、それどころじゃなくバカみたいに煽られて危うくムラサキさんに抱いてくれとねだってしまうところだった。 「じゃあさっさと風呂入って大人しく寝ろ」 「……はい」  結局言われたことはいつもと同じで、いつも通りの敗北を味わう。  誰かと遊ぶわけでもなくただ淡々と酒を飲み、家ではマンガを描き、比較的規則正しい生活をしているからてっきりこういうことに免疫がないものかと思っていたのに。  とんだ間違いだった。  すごすごと言われた通りお風呂場に引っ込みながら、今度の船上パーティーでは絶対男を捕まえようと心に決める。きっと今の俺は禁欲しているせいで力が出なかっただけだ。  そう強がりつつも、ムラサキさんに対してのイメージ修正だけは忘れない。  ムラサキさんはきっと、過去にかなりの経験人数がいるに違いない……。

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