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第44話
そうは言ったもののレンは当然まだ店で、本人の許可を得て合鍵を使って勝手に中に入ることにした。レンに拾われた時に住んでいたところだから、勝手知ったるなんとやらだ。
レンの家は年季の入ったアパートの二階で、本人曰くボロらしいけど2DKなおかげでなかなか広い。ただし物持ちだから色々なものが部屋の中にひしめいていて、そこまで広さは感じない。
「おっとごめんよ、ご主人様じゃなくて」
ドアを開けるときに注意をしたのは、たくさん飼っている猫たちが外に逃げ出さないようにってこと。
レンは可哀想に思うものをなんでも拾う癖があって、特に捨て猫を見るとすぐ拾ってしまうからあっという間に猫屋敷になる。今のところいるのは俺の知らない子を含めて六匹らしい。
俺もその拾い癖のおかげで拾われたから、まあ仲間みたいなものだ。
俺のことを覚えているのか、にゃあにゃあと懐いてくる子と距離を取って様子を見ている子、マイペースに寝ている子と猫たちの性格は様々。普段からこの子たちを相手にしているから、色んなタイプのお客さんの捌き方も上手いのかもしれない。
そんなことを考えながら甘えてくる子猫を撫でていたら少しだけ落ち着けた。
本当に、今日はいろんなことがいっぺんにありすぎた。特に船上での出来事があまりに目まぐるしく、場所が場所だけに非日常的すぎて頭が付いていけていない。
だから早くレンに話して頭の中を整理したい。
だってラグなんてオシャレなもののない床にぱったりと倒れれば、あの時の背中の感覚と目の前のムラサキさんのことを思い出してしまう。なんなら少し離れたところから俺を見ているあの黒いネコも、興味深げにこちらを見るアーモンドアイがどことなくムラサキさんに似て見える。
ああでも先輩にも似ている気がするから、やっぱり二人は似ているのかもしれない。
「わあ! おわっ! ……わあ」
そんなことを思い浮かべていたタイミングで鳴った電話の音に驚いて、声を上げてしまったらそれに驚いた猫たちが素早く逃げ出した。驚かせてしまったことに謝りつつ、目に飛び込んできた電話の相手の名に戸惑う。
噂をすれば影のムラサキさんだ。
さっきまでのことを思うととても気まずいけれど、出ないわけにはいかないだろう。
『今どこにいんの』
開口一番、ムラサキさんは俺の居場所を問う。
ぶっきらぼうな口調だけど、少しの間一緒に暮らした分それが俺を心配しての居場所確認だとわかる。
「レンの家」
だから必要なことを端的に返した。それだけで安全な場所だと伝わるだろう。
『……さっきはごめん』
そしてその確認が済んだからか、少しためらうような沈黙をした後、ムラサキさんは小さな声で謝ってきた。
当然あのことだろう。気まずいのは俺も同じだ。
「あの、俺も悪かったから、その、なかったことにしてもらえると助かる、かな」
ああいう状態になったとしても、俺が理性を保って冷静に対処したら良かっただけの話だ。それなのにあっさりと快感に流されそうになった俺も悪い。
いくら元々誰かとしようとしていた心構えがあったとしても、あれはダメだ。先輩がちょうど来てくれなかったら本当に危なかった。
『一応、兄貴には簡単に説明して帰したから』
同じタイミングで同じことを考えたのか、ムラサキさんは先輩のことを「兄貴」と呼んでその先のことを教えてくれた。どうやら俺が飛び出していった後、結局は追い返したらしい。
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