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第45話
「先輩には……お兄さんには、なんて言ったの? 俺のこと」
『たまたま飲みに行った店で知り合って、客にストーカーされててやばそうだったから泊めてたって』
大幅に省いているけれど嘘はついてない。そして省いている部分は先輩には知らせなくていいこと。むしろ先輩にはあまり知られたくない話ばかりだから、短くまとめてくれたムラサキさんにはお礼を言うべきだろう。
まあ本当に出会ったのは偶然だったのだからそれ以上の説明はしようがないだろうけど。
先輩は昔の後輩と弟が一緒にいて驚いただろうけれど、俺だって心底驚いた。当然だけどそんな可能性頭の中にこれっぽっちもなかったんだから。
「ありがとう。あの、とりあえず今日はレンに泊めてもらうから」
『ん、わかった』
なんとなく会話がぎこちないのはお互い気づいていたけれど、そればかりはどうしようもない。
先輩には二人でなにをしていたか気づかれなかった、というか思いもよらないことだから想像もしていないとは思うけど、危うかったのは確かで。タイミングによってはとんでもないシーンを見せてしまっていたかもしれないんだ。
寝る男は一夜限りの男だけにしていて本当に良かった。
……そしてなにより今ムラサキさんの家に戻ったとして、どういう態度を取ったらいいかわからない。だから戻れない。
勢いでしたことだとは思うけど、さすがに大人しく家に戻ってそれじゃあおやすみなさいといくわけにはいかないだろうし。
かといって普通にそういう雰囲気になるのも困りもので、今後どういう顔をして会うべきか、レンに相談したいことがまた増えてしまった。
とりあえずおやすみと電話を切り、スマホをテーブルの上に置く。
もっと聞くべきことがあったんじゃないかと考えたけれどあまり働いていない頭じゃ答えは出てこない。
「レン、早く帰ってきてくれないかな」
そうは言っても店のことを任せきりな手前、自分の事情で早く帰ってきてもらうわけにはいかない。そして閉店時間もまだ。
しばらく猫と遊んでいたけれど落ち着かなくて、ざっと汗を流そうと勝手にシャワーを借りることにした。海風にも当たったし、もっと早くにシャワーを浴びる予定だったんだけど色々あって忘れてた。
……そういえば、ムラサキさんにも色々されたんだった。
「ん……あ」
首筋を撫でると、唇の感覚が蘇ってぞわぞわしてしまい、吐息を洩らす口を慌てて閉じる。
そして誤魔化すようにシャツを脱ぐと、洗面台の鏡に映った胸元の違和感に気づいた。
「あ」
キスマークついてる。
小さなうっ血の跡を見つけ、それが無性に恥ずかしくなって風呂場に飛び込むと思いきりシャワーのコックを捻った。飛び出した冷たい水をギリギリで避けて、温まるのを待って頭からかぶる。
洗い流そうとしても、触れられた指や唇の感触が蘇ってしまい、どうしようもなくなってゆるりと勃ち上がり始めた自分自身に触れた。
もしもあのとき先輩が訪ねて来なかったら、俺はムラサキさんに抱かれていたんだろうか。
あのまま脱がされて……いや、たぶんあの流れだったら俺が自分で脱いで、それからムラサキさんも脱がせて、触り合いながらお互い昂らせて、それからムラサキさんの硬く勃ち上がったモノが少し窮屈に俺の中に入ってきて……。
「んっ……」
きっと勢いに任せるように強引に揺さぶられて、でも俺が眉をひそめると少しだけ気遣って動きを緩めてくれるはずだ。だから俺はその腰に足を絡めて自ら引き寄せ、奥まで深くその昂りを受け入れて。
何度も何度も突き上げられて、その音に二人して興奮して。
「う……あ……ま、ずい……っ」
中に放たれた妄想だけでイってしまって、その行為のやばさに深くため息をつく。
兄弟揃ってオカズにするとか、どれだけ最低なんだ俺ってやつは。
手の中に吐き出された白濁はすぐにお湯が洗い流してくれたけれど、湧いた罪悪感だけはそう簡単に流れてはくれなかった。
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