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第49話

「ここが部屋。あとは適当に使って」  次の日、昼過ぎに駅で待ち合わせをして、先輩の家にお邪魔することになった。  基本モノトーンで揃った家具は、たぶん色合いを考えるのが面倒という理由なんだろうけどそれがシンプルでおしゃれに見える。そのところどころに洗濯ものが引っかかっているのが先輩らしい。  適度に生活感はあるもののあまり使ってなさそうなキッチンや汚くはないけど整理整頓されきってはいない部屋の感じが、なんだかムラサキさんの家とは対になっている気がしておかしい。昔お邪魔した先輩の部屋もこんな感じだったなと懐かしい気持ちになる。  大雑把に説明を終えた先輩は、ジャケットを脱ぎつつ俺を手招きしてソファーに招いた。だから持ってきた荷物をとりあえず部屋の隅に置いて招かれる。  先輩の方は冷蔵庫に向かい、缶ビールを二つ手に戻ってきて隣に座った。 「本当、大変な目に遭ったな。つらかったろ」 「たぶん、大げさに聞いただけだと思うんですけど、一応隠し撮り写真送られただけです」 「十分だよ。田淵が無事でよかった」  よしよしと頭を撫でられて、ご褒美のように缶ビールを渡される。子ども扱いなのか大人扱いなのか判断が難しい。  でも撫でられたのもビールも嬉しかったからあざーっすと素直に受け取った。ウェルカム昼からビールは大人の特権だろう。 「俺、ストーカーとか卑怯な真似許せなくってさ」  ぷしゅっといい音を立ててプルタブを開け、先輩は自分のことのように怒りながら缶を煽る。 「あー、田淵って、堀田さんのこと知ってたっけ? 一つ上だから知らないか。生徒会にいた子」 「……知ってますよ。先輩の彼女でしょ?」  本来なら、一年上の先輩の同級生なんか知らないはずだけど、その人は知っている。だってあの時先輩の隣にいた人だから。  俺が血迷って告白なんかしようと、先輩の家の前にある公園で待っていた時に目の前に現れた現実の名前。先輩と一緒に帰ってきたのが学校の中でも有名な美人の堀田先輩で、そのお似合いの二人を見た瞬間から後のことは覚えていない。  その本人から出た名前に背筋が冷えて、返した声に温度が伴っていないことに先輩は気づいてなさそうだった。  それどころか、きょとんと音がつきそうなほど目を丸めて俺を見ている。 「彼女? 俺の? 違う違う」  そして呆気ないほど簡単に俺の認識を否定をした。照れているような顔ではない。むしろ虚を衝かれたような表情だ。 「え? え、違うってだって」 「だってあの子遠恋の彼氏いたしな。で、ストーカー被害に遭ってたのをたまたま知って、家も近かったから送ったりしてただけ。だいぶ困ってたみたいでさ、後つけてこられるから一人で帰るのが恐いって。捕まえたかったんだけど、結局そのうち諦めたらしくていなくなったんだよな」  はあ、とその頃を思い出したように深く息を吐いてからビールを煽る先輩に、こちらは缶を取り落とさんばかりに驚いた。  彼女じゃ、ないの? あんなに仲睦まじい感じに一緒に帰ってきたのに? 「……そう、なんですか?」 「どんな勘違いだよ。それに男同士で遊んでばっかで彼女なんか作る暇なかったのお前だって知ってるだろ? 彼女できてたら言ってるって」  疑う俺の背中を叩き、今度は明るく笑う先輩に顎が外れそうだ。  じゃあ、全部俺の勘違いだったっていうのか。

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