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第52話

 目覚めると、先輩の腕の中だった。  一瞬びっくりしたけれど、服は着ているし、やらかした記憶もない。というか普通にテレビを見ながら寝たんだった。  最初のうちはピザを食べビールを飲みながら、わからないところは先輩に聞きつつドラマを見ていたんだけど、途中から雰囲気を出すために暗くしていたせいか、満腹で酔っ払った状態では最後までもたなかった。  うとうとして、先輩に寄りかかってはなんとか起きてと繰り返していた結果、いつの間にか寝落ちしたらしい。  結構な深夜まで頑張ったんだけれど、すでに外は明るい。  そして一応テレビは消えていたけれど、先輩もベッドに戻る余裕はなかったようだ。というか寝ぼけて俺のことを抱き枕代わりにしたらしく、その結果が腕の中だ。  ……昔はこの腕に抱かれるのを夢見ていたのに、現実はなんとも呆気なく色気がない。  とはいえ、酔っ払ったのに先輩の上に無理やり乗っからなかった俺はとても偉い。  なんせ酔っ払ってやらかした経験は数知れず、気づいたら知らない男と寝ていたことだって幾度もある。だからその可能性もなくはなかっただけに、先輩相手に暴走しなかったのは本当に偉いとしか言いようがない。  誰かに褒めてもらいたいくらいだ。  だっていくら酔っていたとしても、そんなことしていたら取り返しがつかなかったから。それだけはすごく安堵した。  そして先輩の穏やかな寝息が聞こえることに安らぎを覚えていることに気づいた。  ……高校の時に感じていたような欲を、どうしてか今の先輩にはあまり感じない。  もちろんあの頃よりかっこいいしセクシーだし大人の魅力に溢れていて、本来ならなんとかいい雰囲気に持っていけないか、一回でいいから抱いてもらえないかと試行錯誤してもいいはずなのに、そんな思いはまるで昇華されてしまったみたいになくなっている。  今はどちらかというと憧れと喋ることのできる嬉しさが勝っていて、それはまるでアイドルに対する気持ちのようだ。  一歩引いて見られる余裕が、大人になって俺にもできたということだろうか。  そんな自分に少し満足して、気持ちよさそうに眠っている先輩の呼吸を聞いていたらまた眠くなってきた。  手は出さないから、もう少しくらいこのままいても罰は当たらないだろう。  久々の体温の心地よさと先輩の寝息につられて、俺は再び緩やかなまどろみへと体を預けた。

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