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第60話
「あいつだってただの男だし、子供じゃないんだし、お前が普段どんな生活してるかわかってて言い寄ってるなら、それだけが目的かもしれねぇだろ? それなら別にいいんじゃないのかって話」
「いや、良くないでしょ」
「ただ男とヤってみたいだけで、お前だったら後腐れないから選んでるって思わないのか?」
「だから、それが悪い影響なんだよ」
そういう考え方をすること自体、良いことでないのは明らかだ。
他人事にも程があるレンの言葉に首を振って、もう少し真剣に考えてくれと憤る。それでもレンの反応は冷たい。
「……なんか、いつの間にかずいぶんとムラサキに夢見ちゃってんじゃねぇの」
「違くて。ムラサキくんは、ちゃんと恋愛をするべきなんだよ」
「さてはつっこみ待ちか」
「俺の話はいいの。そんなんじゃなくて、ムラサキくんはなんだかんだいって先輩の弟さんですし。真っ当に、いい恋愛をしてほしい。ちゃんとするとかっこいいんですよ彼。手に職もあるし、お遊びとはいえ寄り道をするべきではないと思うんです」
いたこと自体まったく覚えていなかったけれど、それでも先輩の弟であることには変わりないんだ。しかも恩人である相手に、悪い性癖は教え込めない。
そんな俺の熱意に対し、レンはまるでタチの悪い冗談でも聞いたかのように半眼で俺を見て、適当に話を流して話題を切り替えた。
「んじゃその先輩様は。一緒に住んでて発展はないのか」
人の話に飽きるなよと一言だけつっこんで、未だにその顔を思い浮かべると心がざわつく先輩のことを考える。
発展。それはつまりエロい雰囲気。
わざと意識しないようにしているのももちろんあるけれど、それ以前にそういう雰囲気になる感じがしない。
「なんていうか先輩の家ってめちゃくちゃ居心地いいんだよね。先輩優しいし、気遣いの感じが大人だし、茶目っ気あるところが可愛いけど基本的にずっとかっこいいし、可愛い後輩はかなり得をしている」
「へぇえー、ふぅーん?」
セキュリティのしっかりしたオシャレなマンションに憧れのかっこよくて優しい先輩と二人。
本来ならとてもおいしいシチュエーションだけど、だからなのか我ながらずいぶんと大人しい。人と一緒に住むなんてもっとストレスがあるかと思っていたけれど、先輩が気遣ってくれているからか全然そんなこともなく。
素敵な先輩を持って良かったという自慢話だったんだけれど、レンは変にわざとらしい相づちを打ってきた。
興味がないという雰囲気ではない。むしろその逆だ。
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