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第67話
「ごめ、ごめん……っ」
「いいから。それより、ごめんな。もっと早く着いてたらこんな恐い思いさせなかったのに」
「ごめんね。ムラサキくんに、迷惑かけたくなくて、俺、ムラサキくんになにかあったらって思って……っ」
優しく大きな手で背中を撫でられ、堰を切ったように涙と言葉が溢れ出す。
ここまで来てやっと、自分がどれだけ恐怖で頭が動いていなかったかを教えられる。
「別に、嫌な男にヤられるくらいなんてことないはずなのに、すごく嫌で、恐くて、自分のせいなのに、ムラサキくんが来てくれたらって都合よく思って、そしたら本当に来てくれて……」
ムラサキくんの写真を送られ、息巻いて勢い込んだあげくに結局ムラサキくんだけじゃなく先輩にまで迷惑をかけて、それなのに来てくれて嬉しいだなんて勝手すぎる。矛盾してる。情けなさすぎる。
でもムラサキくんは根気強く俺の話を聞いて、大丈夫だと背中をさすってくれて、落ち着くまでずっと抱きしめていてくれた。
なんでこんなにいい人なんだろう。
さっき触られたときはあれほど気持ち悪かったというのに、ムラサキくんに触れられるととても気持ち良くなる。
「なんか、ムラサキくんの匂いすごくほっとする」
香水なんかもなにもつけていないムラサキくんの匂いは、なぜだかひどく落ち着いて、腕の中はとても居心地がいい。特に体温が高いわけでもないのに、ぽかぽかしていて、ひだまりにいる気分だ。
「好きだな、ムラサキくんの匂い。なんか懐かしくて、優しい感じがする」
俺が猫だったらこのままごろごろ可愛く甘えられたのに。
残念ながら俺は、猫は猫でも可愛くないネコですし。ああでも黙っていれば美人だって言ってもらえたし、黙っていれば少しはムラサキくんも好きになってくれるかな。
そんな益体もない考えが浮かぶくらいには気持ちは復活できていて、でもまだ離れたくなくて。
「もうちょっとこのままでいてもいい?」
「ん」
どこまでも優しいムラサキくんに甘えて、俺はいつの間にか眠りに落ちるまでその優しい腕の中を堪能した。
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