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7.雨音に紛れて秘め事
暖かな暖炉の前で、セスは濡れた服を脱がされていた。
びちゃりと、水を吸った軍服が足元に落ちて、重い音を立てる。
リンドヴルムの屋敷に連れてこられ、すぐに彼の私室へと引っ張りこまれた。
リンドヴルムの部屋は、とにかく本がたくさんあった。柔らかそうな大きなベッドに、書き物をするための小さな机。暖炉には、すでに薪がくべられていた。使用人が、濡れて帰る主人のために部屋を暖めていたのだろう。
パチパチと、火花が散っている。暖炉のある部屋で寝るのなど、何年ぶりだろうか。
「ヴィクトリノ大尉。暖炉ではなく、私を見てください」
あらわになったセスの胸板を、リンドヴルムの手のひらがするりと撫でた。
視線を移せば、リンドヴルムは暖炉の火をその金色の瞳に映し、ジッとセスを見つめていた。
煌々と燃える目が、くすぐったい。
まだ自分は濡れた服を着たままで、待ちきれないというようにリンドヴルムの手がセスのベルトへと降りていく。
「テメェも脱げ」
セスがそう言うと、やっと自分の服にも手をかけた。プチプチと釦を外し、白の神父服を脱ぎ捨てる。
こうしてセックスするつもりでリンドヴルムの肌を見ると、不思議な気持ちになった。人間とは全く違う、ウロコのある肌。いままで男に欲情したことも、もちろん寝たこともないのに。妙に艶めかしく見える。
よく見れば、リンドヴルムにはへそも乳首もなかった。胸板はただ逞しく隆起し、割れた腹筋は溝だけで穴は空いていない。
確か、竜人は卵で産まれるんだったか。そんな、どうでもいいことばかりが頭をよぎる。
はあっと、熱い呼気が牙の並んだ口から吐き出された。随分、興奮しているようだ。
こんな馬鹿げたセックスで、童貞を捨てようとしているのに。
「人間の肌は、さらさらしているのですね」
初めてだというわりに、セスの胸から脇腹へと手のひらを滑らせるらその手つきはいやらしげだ。
そこへ自分の手のひらを重ね、ベルトのバックルへと導いた。
「ほら。この中の手触りには、興味ねぇのか」
「っ、あり、ます」
リンドヴルムの首筋に鼻を擦り付けながら、そう煽ってやる。視界の端で、尻尾全体がビリビリ震えていた。
ガチャガチャと、金具を外す音がして、下腹部に外気が当たる。
「ああ。こんなところに、もじゃもじゃした毛が」
毛の生えない竜人には、陰毛は見慣れないものだったのだろう。
そこを撫でまわされ、くすぐったさに身震いする。
まだ萎えたままの性器にも、ためらいなく手を伸ばしてきた。優しく、大事そうに掬い上げられる。
「ここは、ツルツルしているのですね」
「ふ、う」
亀頭のあたりを撫でられて、セスは濡れた息を吐いた。
とろりと、先走りが溢れて硬度が増していく。
そういえば、最後に女を抱いたのはいつだろう。この街に来てからは一度もない。
もともと性欲は強い方なのだが、十年ほど前ヴァンパイアハンターになってからは、徐々にセックスから遠ざかっていった。死と向き合う仕事だからだろうか。誰かと抱き合う気には、ならなかったのだ。
久しぶりに他人に触れられたそこは、喜びいきり立つ。すっかり勃起した性器を見て、リンドヴルムは感嘆のため息をついた。
「もう、私は……貴方が欲しい。貴方の中に、入らせてください」
クスクスと、笑いが込み上げる。
ダメだと言って帰りたい気持ちも、少しあった。
土壇場で相手に逃げられたリンドヴルムが、どんな間抜けな顔をするのか。
だが、セスの好奇心は、このまま抱かれてしまう方が満たされそうだった。
我ながら性格が悪い。そう自覚しながら、セスはリンドヴルムの股間に手を伸ばして、そこを撫でた。
「好きにしろ。やるなら、さっさとヤれよ」
ゴクリと喉を鳴らしたリンドヴルムに促され、ベッドに横たわる。
こうして、下から男を見上げる日が来るとは。しかも、相手はリンドヴルムだ。
「ヴィクトリノ大尉……今から、濡らして慣らします。少し手を貸してください」
「手を?」
「私の手は、こうですから……本当ならヤスリで爪とウロコを整えてから事に及ぶのですが、もう、待てません」
内ももを掴み、ぱっくりと開かせてくるリンドヴルムの手は、たしかに硬くて爪が尖っている。
柔らかな内臓を愛撫するようには、できていないように見えた。
「テメェのちん×を突っ込ませてやるってのに、俺はケツの準備まで自分でしてやんなきゃならねぇのかよ?」
リンドヴルムのツノを指先でなぞりながら、そうからかう。リンドヴルムは首を傾げて、尻尾を垂らす。股間はズボンの前を押し上げて、くっきりと欲望を主張していた。
興奮する。
この生真面目な聖職者も、所詮は雄だ。性の誘惑には勝てないのだ。
「しかし、貴方の中を傷つけたくないのです」
ツノを掴んで、無理矢理下を向かせる。
そして、リンドヴルムの鼻先に自分の勃起を押し当てた。
「舐めろ。そうしたら、やってやる」
てっきりためらうと思って、意地悪のつもりでそうしたのだが、リンドヴルムは全く躊躇 なくそこに舌を這わせた。
ぬるりと、冷たくて大きな舌が絡む。
「う、っ」
リンドヴルムの体温は、セスより低い。特に性器には血が集まり熱を持っているので、リンドヴルムの舌がよけいに冷たく感じるようだった。
しかし、冷たい舌が竿を舐め上げる感触は、なかなか良かった。
「ハハ。うまいじゃねぇか」
頭を撫でてやると、調子に乗ったのか舌はさらに下へと伸びていった。窄まりに、濡れたものが触れる。
「っ!そ、こはっ、やめろっ」
にゅるり。穴を舐め上げられ、セスは思わず声をあげた。ちゅくちゅくと、冷たい舌が閉じた場所を突いてくる。
くすぐったさと羞恥に、セスは身をよじる。しかし、リンドヴルムががっちりと腰を掴んでいるので、逃げることもできなかった。
「中まで濡らしますから、力を抜いてください」
「くっ、ふぅ、うぅっ」
しかし、力なんて抜きようがない。そこを舐められると、つい体が強張り固くなってしまう。
「ああ、すごい……ッ、ピンク色で、きれいです。早く貴方のここに、私を招いてください」
熱に浮かされた声が鼓膜を擽る。
セスは深く息を吐いて、出来るだけ下肢から力を抜いた。そして、自分の尻へと手を伸ばす。
リンドヴルムの唾液でびちゃびちゃのそこを、指先でマッサージする。そして、窄まりに中指を押し込んだ。
「っ、ふぅっ」
普段は排泄にしか使わない部分が、自分の指とはいえ異物を飲み込んでいく。入り口はキツく指を締め付けるが、中は熱くて柔らかかった。
男の尻ってのも、具合は悪くなさそうだ。
指を二本に増やし、ゆっくり出し入れするのに合わせて、リンドヴルムも舌で愛撫してくる。唾液が湿った音を立て、中に送りこまれていった。
「もう、いいっ、さっさと挿れろ」
「大丈夫でしょうか、まだ」
「いいっつってんだろ。お前も、もう我慢の限界だろうが」
二人がかりで慣らすのが恥ずかしくて、指を抜いた。リンドヴルムは不安そうではあるが、大人しくセスに従う。仰向けになったセスは、自分で足を大きく開いて見せた。
リンドヴルムは、ベルトを外して前をくつろげた。
ばるんっ!
弾かれるように現れたのは、想像していたものとは全く違う凶悪な一物だった。
まず、その大きさだ。セス自身も決して小さい方ではないのに、セスよりふた回りは太く、倍近く長い。
色は先端が少し赤みが強い青紫色で、根元の方へ向かうほど青みが増している、妙な色をしていた。
全体的にぼこぼことした凹凸があり、亀頭は人間のそれよりくっきりと張り出している。
睾丸は見当たらず、その凶悪な鈍器のようなぺニスは下腹部の裂け目から生えていた。
「……お゛」
思わず言葉を失う。開いていた足を閉じかけるが、リンドヴルムの手がそれを遮った。
覆いかぶさってくるリンドヴルムの目は、濡れている。呼吸は浅く、早い。
グリッと、硬いものが閉じた穴に触れた。
こんなものを突っ込まれたら、穴が裂ける程度じゃすまないだろう。内臓が引き摺り出されそうだ。
「ッ……ふぅ、う」
しかし、止めろといえる状況ではなさそうだ。
リンドヴルムは必死に腰を押し付けてくる。セスも、力を抜いてリンドヴルムに身を任せた。
たくさん濡らしたからか、なんとか唾液の滑りをかりて先端が食い込む。
「あっ、ぐっ」
「ヴィクトリノ大尉、もっと、緩めてくださいっ」
「クソ、やってる、っう」
ぐぶぶっと、太い亀頭が筋肉の輪を広げていく。痛みに歯を食いしばり、呻いた。ゆっくり、ゆっくり、太いものが閉じた場所を開いていく。ズブッと、亀頭が飲み込まれた時、少し切れたのか鋭い痛みが走った。
「ぐぅ、うっ、うっ」
「ああっ、は、入る、う、ぅ」
思わず背を反らせるセスに抱きつくようにして、リンドヴルムは腰を進めてきた。あの長い一物が、じわじわと腹の中を占領していく。
「ぁ、あ、あ、っ」
それは、恐ろしい感覚だった。硬くて冷たいものが、腹の奥を目指して進んでいく。内臓が押し上げられ、肺と胃を圧迫する。自然と声が出て止まらない。
ズンッと、亀頭が最奥にぶつかって止まった。ビクンと、セスの足が跳ねる。ものすごい衝撃だった。硬い腹筋の下、へその上あたりに、はっきりとリンドヴルムの存在を感じる。
「は、はは、は。童貞、卒業だな」
そのあたりを腹の上から撫でた。結合部を見れば、うっすら血が付いている。むしろ、この程度で済んで良かった。ばっくり裂けてもおかしくなかっただろう。
せっかくねじ込まれた性器が、ゆっくりと引き抜かれる。亀頭の張り出した部分が、ごりごりと内壁を抉っていく。内臓ごと持っていかれそうだ。
「あっ、ぐっ」
「あ、あっ、た、大尉、ヴィク、トリノ、大尉っ」
リンドヴルムの腰がブルブルと震えていた。もっと激しく突きたいのを堪えて、ゆっくり動いている。そんな風に見える。
荒い息遣いを抑え込み、声まで震わせるリンドヴルムを見て、気遣われるよりも彼の思うように貪られたいと思った。
手の甲で、リンドヴルムの喉元から口にかけてを撫でる。
そして、指先で、牙の並びをなぞった。
「セックスの、最中に……階級で呼ぶなんて、野暮じゃねぇのか?」
「ッ、セス、さん、セスさん」
「そうだ、そう、次は……そのジジイの散歩みたいな動きをやめて……もっと、しっかり動けよ。なあ、マティアス」
リンドヴルム……マティアスは、堪え切れないというように、セスの腰を強く引き寄せてベッドに押しつけると、激しく腰を振りはじめた。
ズン!ズン!と、内臓が硬い肉棒に穿たれる。凶暴な鈍器が、内側からセスを痛めつけた。
律動の激しさにベッドは軋み、セスの長い髪がリンドヴルムの動きに合わせて踊る。
「がはっ、ぐっ、う゛、う゛!」
「あ、あっ、セス、セスさん、ああ、あなたは、どうしてっ」
「あ゛、あっ」
硬いウロコに守られた背中に、腕を回す。爪を立てても、傷なんかつかなそうだ。思い切りしがみついて、内臓を掻き回される痛みに耐えた。
じゅぶ、じゅぶ、と、水音が激しくなる。マティアスの先走りが溢れているのか。それとも、セスの血だろうか。
「くやしい、くやしいです、ああ、こんな、気持ち、いい、ああ、あなたに、私の前に、触れた人が、うう、耐えられない、くやしいです、セスさん、セスさんっ」
泣きそうになりながら、リンドヴルムは喘いでいた。まるで汚れを拭うように、首筋や胸を舐める。肩や首筋には、軽く歯を立てられた。
「あなたの、肌に、先に触れた人が、ああ、どうして、私より、先に、あなたに、招かれた人が」
セスの身体の形を確かめるように、何度も撫でては、舌を這わせて噛み跡を刻む。まるでマーキングだ。
くだらない嫉妬から、痕を残そうとするリンドヴルムが、何故だかとても可愛らしく思えた。
「ん、う、違、は、あ、初めて、だ、ケツはっ、ううっ、さ、させたのは、ぐっ」
そう言ってやると、マティアスは一瞬目を丸くしてから、セスを抱きしめた。
ぶるるっと、マティアスの腰が跳ねた。尻尾が勃起したようにそそり立ち、先端が激しく震える。
どぷり。
腹の一番奥で、冷たい液体が弾ける。その量と勢いは凄まじく、びゅくっびゅくっと噴き出す度にセスの肺は押し上げられ情け無い声が出てしまった。
しばらく、マティアスはセスに体を預けたままビクビクと痙攣していた。よほどの快感だったのだろう。
ようやく余韻が抜けて顔をあげると、目には涙すら浮かべてトロンと蕩けきった表情をしていた。
「……すみません、セスさん。加減できなくて……苦しくなかったですか?」
「苦しいし、イテェに決まってんだろ。だが……悪くなかった」
頭を撫でてやれば、マティアスは尻尾を震わせて喜んだ。そして、まだ半勃ちのまま射精できていないセスの性器に手を伸ばす。
やわやわと握り込まれて、セスは優しい快楽に身を委ねた。
「ふっ、はあ、もうすこし、強く」
「こうですか?」
「ああ、そうだ。いい……イけそうだ」
尻に埋まったままの剛直を締め付けて、セスもマティアスの手淫であっさり射精する。かなり気持ちが高ぶっていたのか、拙い手つきでも簡単にイけてしまった。
自分の精子がマティアスの緑色のウロコに絡むのを見ると、また勃起してしまいそうだった。
マティアスも同じなのだろう。全く萎えていなかった性器を、またゆっくりと出し入れし始める。
「はは、おかわりか?」
「ダメですか?私は、まだ……もっと、貴方を抱きしめていたいのです」
返事の代わりに、セスは両脚でマティアスの腰を引き寄せる。
窓の外からは、より激しくなる雨音が聞こえた。
雨の夜は、ハンターは自由だ。ヴァンパイアとの殺し合いから解放される。
酒に酔っても、遊び惚けても。
部下と肉欲に溺れても、自由なのだ。
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