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17.喜びを履きちがって叱言

 柔らかいソファに体を預け、こちらを見上げているセスは扇情的だ。  チラと股間に目をやれば、セスのそこは膨らんでいた。いつも、挿入する直前までは勃起している。  前を寛げてあげると、ピンと跳ねるようにして逞しいものが飛び出してきた。  セスはクスクス笑いながら、するすると下を脱いでいく。その仕草も、色っぽい。  すぐに挿れたくなる気持ちを、マティアスはぐっと我慢した。  ただセスを貪るだけだってたこれまでとは違う。知識を得たのだから。  すぐに覆いかぶさってこないマティアスに、セスは不思議そうな顔をしている。 「どうした」 「い、いえ。セスさん、慣らしますから、お尻をこちらに向けてください」 「別に、いらねぇ。さっさと挿れたらいいだろ」 「私が、そうしたいのです」  しぶしぶという様子で、セスは脚を開いた。人間の性器は、竜人のそれとは違う。体外に露出していて、無防備だ。竿の下には、ふにゃふにゃした袋がある。睾丸だ。  マティアスにとっては、不思議で仕方がない。大事な子種が入った袋が、股の間でぶらぶらしているなんて。  ここも性感帯だそうだが、握って揉む勇気はなかった。  その袋の奥に、いつもマティアスを受け入れてくれる後孔がある。本で学ぶまで知らなかったが、人間はお尻からは子どもを産まないそうだ。女性には性行為や出産のための別の穴があるらしい。  セスのここも、総排出腔ではなかった。通常のセックスには使わない、排泄のための器官だったのだ。  いままでずっと無理をさせていたに違いないと、申し訳なく思う。  唾液でよく濡らした指を、中に入れた。いつも通り、下準備はされていた。とろりとした油が塗られている。  そのすべりを借りて、ゆっくりと指を奥まで挿れた。 「くっ、……う」  もどかしそうに、腰が揺れるのが愛らしい。マティアスの性器も、早くもスリットから飛び出してしまいそうだった。しかし、必死に堪えて指での愛撫に集中する。  指の腹で腸壁を優しく撫でながら、抜き差しを繰り返すと、ある一点に触れた時にセスの脚が跳ねた。 「ッ!?」  声を噛み殺して、荒い吐息だけを溢すセスに、マティアスはここが本に載っていた前立腺かと気がついた。男性の直腸にある性感帯だ。  強く押すのは駄目らしいので、指先をそっと押しつけたままくりくりと指先で転がしてみた。 「はっ、ッ、な、ぁ、うぅ」  今まで聞いた事のない、焦りを帯びた声が漏れる。セスの陰茎は硬く張り詰め、指の動きと連動してピクピク震えていた。  ゾクゾクする。  指を二本に増やして前立腺を捏ねながら、マティアスはセスの上に覆いかぶさった。  セスは手の甲で顔を隠し、歯を食いしばって声を我慢している。初めて見る表情に、マティアスはくらくらするほど興奮した。 「セスさん、気持ちいいですか?」 「うっ、せぇ、へたくそ、早く、う、挿れちま、え」 「いいえ、まだ挿れるのは我慢します。貴方を、優しく抱きたいのです」  毒づいているが、快楽を得ているのは丸わかりだ。  調子に乗って、マティアスはセスの上着をまくり上げた。隆起した胸板と、割れた腹筋があらわになる。  胸には、薄茶色の可愛い乳首があった。哺乳類にしかない、赤ん坊に乳をやるための器官だ。これまではあまり触れてこなかったが、ここも性感帯だ。  舌を這わせてみれば、後孔がきゅっと締まり指を締め付けた。 「やめ、っ、うっ、そこは、触るなって言ったじゃ、ねぇか」 「ああ、セスさん、すごい、ここも勃起してきました。嬉しいです。私で感じてくれて」 「く、そぉ、あ、あ」  前立腺を撫でながら乳首を舌で転がすと、乳首は膨らんでツンと勃起した。もっと舐めてと言っているようだ。  だんだんと、セスの肌は真っ赤に紅潮していく。性器からは、透明な液体がたらたらと垂れていた。  明らかに、いままでとは違う。強い快感に、セスの体が震えている。  本によれば、しっかり前戯して気分を高めてから、ゆっくり挿入すると良いとのことだった。  セスの体は細かく震えていて、睾丸は張り詰め陰茎は反り返っている。十分気分は高まっているはず。  マティアス自身も限界だった。頭の血管が切れそうなくらいに、興奮している。  急いで下を脱ぐと、ずっと堪えていたせいか一気にスリットからペニスが飛び出した。 「あっ!!」  しかし。そこで大失敗をしてしまった。見下ろすと、青く怒張した性器が二本、股間から突き出している。  マティアスの半陰茎が、二本ともスリットからが出てきてしまったのだ。 「なっ!おい、それ」 「す、すみません、お恥ずかしい……二本とも出してしまうなんて、はしたない事を」 「……テメェ、に、二本もあるのか、なんで」 「竜人のは、こうなのです。普通は、一本ずつ使うのですが……」  竜人の男性器は半陰茎《ヘミペニス》といって、トカゲなどの爬虫類と同じ仕組みになっている。ペニスは二本あるが、通常は片方だけが膨らんでスリットから出てくるのだ。  しかし、マティアスは興奮のあまり両方とも出してしまった。これは、竜人にとってはかなり恥ずかしい事だった。  青くてゴツゴツした半陰茎が、二本ともガチガチに勃起し先走りを垂らしている。  はしたなくて助平な男だと思われないか心配で、マティアスは顔が熱くなった。 「クソ、そんなの、入らねぇ」  少し怯えた様子で、セスは脚を閉じた。しかし、体に力が入っていないのか、腿が震えている。 「もちろん、二本同時に挿れたりしません。お尻が裂けてしまいます。そんな、貴方を苦しめる行為はしません」  そっと脚を開かせ、腰を進めた。一本だけを、蕩けてひくつく後孔に押し当てる。  ゆっくり、ゆっくり、亀頭を押し込んだ。 「んぐ、ぅ、あっ」  古傷のある二の腕に、鳥肌が浮かびあがる。硬い太ももは、細かく震えていた。腸壁はひくつき、マティアスの性器に吸い付いてくる。まるで、待ちわびていたかのように。  こんな反応は初めてだ。たくさん慣らしておいたからだろうか。いつもより中が敏感なようだった。  前立腺があったのは、どのあたりだっただろうか。マティアスは激しく腰を振りたいのを堪えて、今度はゆっくり抜きながら前立腺を探した。 「ァ、ア!うあっ!」  半分ほど抜けたところで、セスは背中を反らして呻き声をあげた。キュッキュッと中が窄まる。気持ちいいのだろうか。亀頭が抜ける寸前まで腰を引くと、顔を覆う手とは反対の手でソファを強く掴み、何かに耐えているような顔をした。  自分がセスを翻弄していることがたまらなくて、その動きを何度も繰り返す。  そのうちに、亀頭がかすめると中が痙攣する場所を見つけた。おそらく、ここが前立腺だ。そこを亀頭や性器の突起で擦るようにしてみる。 「ッ、ア゛、ぅ、うぅ」  二人の体の間でセスの性器は腹につきそうなくらいに反り返り、ベトベトに濡れている。もう、今にも破裂しそうだ。 「セス、さん。セスさん、イけそうですか?私は、うまくできていますか?」 「ぐ、ぅ、うっ、あ」  もう返事を返す余裕はないらしい。声を殺すのに精一杯という様子だ。  マティアスは、余っている二本目の性器をセスの勃起に擦り付けた。太すぎて片手では二人の性器を同時に握り込む事は出来ない。そっと手を添えて、優しく両方を撫でる。 「ふっ、ン゛!んんッ、ぅうーー!!」  顔を隠していた手の甲を噛んだかと思うと、ビクンとセスの性器が跳ねた。  どろりとした白濁が先端から溢れて、彼自身の胸板にかかる。食いちぎられそうにマティアスのペニスが締め付けられた。  脳味噌が溶けてしまいそうだった。  ちゃんと、セックスでセスをイかせた。最中に萎えさせる事もなく、ちゃんと気持ちよくしてあげられた。  マティアスは嬉しくて、涙すら出そうだった。  だから、少し調子に乗ってしまった。 「ン゛!?ぐ、カハッ、アッ!」  ギチギチに締まる肉を掻き分け、緩やかな抽送を再開する。  やはり、突き入れる時より抜く時の方がセスの反応は大きい。射精したばかりの性器から、ビュッビュッとつゆが飛ぶ。 「や、止め!うぐっ、ウ゛、とまれ、え、うぅ、うぅぅ!」  顔を隠すのをやめて、セスはマティアスの肩を押して体を離そうとしていた。しかし全く力が入っていない。こんなセスを見るのは初めてて、マティアスは理性を失ってしまいそうだった。もう堪えきれなくて、少しずつ抽送を早めていく。ずっと痙攣している肉壁が、きつく絡みついてくる。セスのものと擦れている方の性器も気持ちいい。  マティアス自身も、これまでと違う快楽に酔っていた。 「う、あっ、セス、さんっ!出ます、もうっ、ああっ」 「ひぐっ、う、ぐっ、うっ、んううぅー!」  喘ぎながら、セスの体を強く抱きしめて最奥を突いた。視界の端で、セスの脚がソファの背もたれを蹴るのが見えた。二つの穴が空いた首を反らして、セスは声にならない声をあげる。  その首筋に口づけをしながら、マティアスも射精した。体内深くに白濁を吐き出し、セスの性器と腹にも精液をぶちまける。  くたっと、セスの体から力が抜ける。試しにまだ硬度をたもつ性器を一気に抜いてみると、セスの腰がビクンッと浮いて、開きっぱなしの後孔はパクパクしていた。  なんて淫らな姿なのだろう。こんな風に乱れさせたのは自分であり、他の誰も彼のこんな姿を知らないのだ。その事実は、マティアスの心を満たした。  父とのことや、自分の境遇などどうでもいい。セスさえいれば幸せだと、マティアスは心底そう思えた。 「勉強したかいがありました。貴方に、私と同じくらいの喜びを与えられたなら良いのですが」  ピクピクしているセスを眺めて余韻に浸っていると、突然セスがむくりと上半身を起こした。背中を支えてあげようとしたが、乱暴に腕を振り払われる。 「痛ッ!?」  そして、なぜかセスは起き上がるなりマティアスの頭を引っ叩いてきた。眉間の皺は、今まで見たことないくらいに深い。  今まで親しい身内に暴力をふるわれたことがないマティアスは、驚愕に目を丸くして瞬膜の瞬きを繰り返した。  尻尾が勝手にびたんびたんと暴れ回る。 「た、叩い」 「テメェッ……こんな真似、二度とするんじゃねぇ!」 「なぜ怒っているのですか?私には、よく分かりません。貴方を喜ばせたくて、私は」 「見当違いだバカ野朗」  不愉快そうに吐き捨てて、セスはマティアスの角を強く掴んだ。そのまま、力づくでソファに押し倒される。敏感な部分を握り締められて、マティアスは思わず悲鳴のような情け無い声を漏らしてしまった。  仰向けになったマティアスの腹の上に跨って、セスは射抜くような目で見下ろしてくる。角から手を離し、そのまま指先でくすぐられた。くすぐったさに身震いをする。 「何度も言わせんな。俺は今まで通りがいいんだ。二度とごめんだ、あんなのは」  そう言って、セスは露出したままだったマティアスの性器の、先ほどセスの中に入っていなかった方をつかむ。 「俺を喜ばせたいなら、テメェは大人しく善がってろ」  精液で濡れた後孔に、再び招かれる。同時に、余っている方の性器を手淫され、マティアスは切ない声をあげた。 「はっ、あ……セスさんっ」 「そうだ。そんな面してるテメェから、搾りとってやる方がいいんだ」  片眉を吊り上げて、嗜虐的な顔でセスは腰を揺する。淫らに揺れる逞しい体が、視覚的にもマティアスの興奮を煽った。  何がいけなかったのか分からないが、マティアスはセスの不興を買ってしまった事は理解した。  だから言われるまま、彼に嬲られ一晩中鳴いたのだった。

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