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第6話

 この頃の俺ときたら、周りのお花畑が伝染したのか、たんぽぽの綿毛が常に頭の中でポコポコと揺れているような、そんな毒気の抜けた日々を送っていた。  北村が言うには相変わらず仏頂面らしいのだが、それはお花畑な自分をカモフラージュするための仮面だったりする。 「どこ行くの」 「帰るんだよ着いてくんな」  そんな北村も、相変わらずストーカーだ。  校門を出て右に曲がり、住宅街を抜け、アーケード通りを5分程歩くと駅に着く。そこで改札を抜けずに駅ビルに入っていく俺の後ろを、北村はさも当たり前かのように着いてくる。気持ち悪すぎる。でもそれを前よりも邪険に扱えない俺は、やっぱり平和ボケしているのだろう。 「なんか買うの?」 「‥‥どこまで着いてくんだお前は」  文房具売り場に入っていく俺の横顔を眺めながら北村はどこまでも着いてくる。なんて図太い神経。羨ましくなるよ。  画材コーナーに入るとすぐに目的のものを見つけた。バラ売りから何十色もセットになったものまで売っている。値段を見てみると、どれも思っていたよりも安くて手頃な値段だった。なんだ、これなら‥‥ 「クレヨン? 買うの?」 「‥‥‥‥」  緩みかけた心の隙を突くかのような絶妙なタイミングで、北村が話し掛けてきた。 「あ、クーピーだ、懐かしい。これ食ってるやついたなぁ昔」 「‥‥クソが」 「え」  低く呟き、踵を返す。元来た道を足速に歩き出すと、慌てて北村も隣に並ぶ。 「なんだよ、買うんじゃねーの?」 「買わねーようるせーな」  何やってんだ俺。クレヨンなんか見て。買うつもりだったのか? 俺が? あぁ、ボケてんな。こんなのダメだ、バカみたいだ。  そもそも俺が買ってやる義理なんかない。あいつにクレヨンがあろうがなかろうが、どうでもいい。関係ない。言い聞かすことで波打つ心にまた静寂が戻る。それに伴い、歩く速度も次第に緩まっていった。  駅ビルを出たところでふと立ち止まり、駅構内の雑踏をぼんやりと眺める。 「昔さ、タンポポって歌あったよな」 「タンポポ? 誰の歌だっけ」 「ブリトラ」 「ブリトラ‥‥?」  少年の飛ばしたたんぽぽの綿毛。風に飛ばされ流され、辿り着く先は――‥‥  この間の唇オバケの夢のせいだろうか、その物悲しい歌になぜだか健人を重ねてしまい、無性に胸クソ悪くなって隣に立つ北村を蹴った。  どうでもいい。関係ない。

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