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この世界の人間には、二種類の性別と三種類の属性がある。
性別は男と女。
属性はαとβとΩ。
αとは、生まれながらに支配者層と呼ばれている属性だ。人口に占めるその割合は二割程度と少ないが、生まれつき、身体的にも頭脳的にもずば抜けて能力が高いため、産業におけるどの分野でもαが自然にトップへと立つ。
βは、人口に占める割合が多く、その能力はαに劣るが、社会性はαより高く、自分より上と認めたαにプライドを捨てて従属できる。結果、α主導の世界のなかで、一定の地位を築いていた。
αにしても、βがいないと世界そのものが成り立たないと分かっているから、αとβは互いを認め、秩序ある世界を作り上げている。
しかし、Ωは……。
「いや、Ωのはずがない」
頭の片隅を掠めた予感にナギは小さく首を振った。
いくら、目を瞠るほどに愛らしい容姿をしているとはいえ、ここナムールに生まれたΩは、徹底した管理下に置かれるはずだから、こんな場所にいるわけもない。
だから、彼女はβでなければならない。
「そうだ。βだ」
皇子であるナギでさえ、Ωを目にしたことはなかった。Ωは生まれたその時から、徹底的に管理される。国の認定を受けたβが施設で育てる決まりなのだ。
「左脚の足首を見せてくれないか?」
抱いてしまった疑念を解消するためにナギが尋ねると、ズボンの裾を素直に持ち上げ、細い足首を見せてくれる。
「……無い」
Ωであれば出生時に押されるはずのナンバリングの刻印が、そこに無いことを確認してから、ナギは小さく息を吐いた。と、ここでようやく未だに自分が裸のままであることに気づき、さっき貰ったローブを羽織れば、麻製のそれは丈や袖が多少短く感じるものの、問題なく着られそうだ。
「家族は? 出かけているのか?」
大きなサイズの衣類があるということは、彼女は一人でここに住んでいる訳ではないことを意味する。まあ、こんなにひ弱な存在が、森の奥で一人暮らしをしているなんてあり得ないから、当然といえば当然だろうとナギは思った。
けれど、ナギの予想に反してイオは、首をゆっくり横へと振る。
「では、このローブは誰のものだ?」
問えば、困ったような悲しいような表情をして見上げてくるから、黒い瞳が揺れる様子に少なからず動揺した。
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