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そのまま、寝室のドアを乱暴に開き、ズカズカと歩く彼の背中を手を握りしめて叩こうとしたが、ここでも進路の妨げとなるテーブルや棚を蹴散らす姿に怯えて身体が動かなくなった。
「っ!」
寝台の上へ放り投げられた衝撃にイオが咳込んでいると、ナギは数回壁を殴りつけてから、一旦動きをピタリと止める。
(こわい、あつい)
イオはといえば、寝台の上で細かく身体を震わせながらも、彼から香る甘い匂いに吸い寄せられ、無意識のうち這うようにして、立ち尽くす彼の傍へ近付いた。
「……イオ、お前も苦しいのか?」
何かを必死に押さえ込むように微かに震えた低音に、イオが必死に頷き返せば頭をガシリと掴まれる。
もどかしいような息苦しさと、得体の知れない恐怖の中、ナギの発する甘い匂いがイオの身体を熱くする。イオに性の知識は無いけれど、ナギが欲しいと本能が強く訴えていた。
「すまない」
苦しそうにナギが言い放ったその直後、イオの身体は寝台の端から反対の端へ飛ばされる。
衝撃に、一瞬呼吸が困難になるが、酸素を求めて開いた口は、覆い被さったナギの唇でやや乱暴に塞がれた。
「んっ……うぅっ」
キスという行為は知っているけれど、それは頬や額などに、そっと唇をつける行為だ。だから、これがキスだとは思いもしないでイオは必死に逃げを打つけれど、頭を片手で固定されては、微塵も動くことができない。
(くるし……息が……)
呼吸が酷く苦しくなり、意識がだんだん遠のいていく。なのに、イオの身体は悦ぶように打ち震え、口腔を貪るように蠢くナギの舌に合わせ、イオ本人も気づかないうちに拙く舌を絡ませていた。
「あっ、あぁっ」
闇へと意識を落とす寸前、ようやく離れた彼の唇が今度は喉へと近付いて……そこを強く吸われたイオは、慣れない感覚に悲鳴をあげる。
「……たい、こわい」
感情はついに声となり、部屋の空気を震わせるけれど、発しているイオ自身はそのことには気づかない。
だが、ナギにははっきりと聞こえたようで、その瞬間、驚いたように動きを止め……それからゆっくりと身体を起こした。
「騙したのか?」
僅かな怒気を纏った声音。蝋燭のぼんやりとした橙色の灯りの中、澄んだ冬空を思わせるような碧い瞳が、真っ直ぐにイオを見下ろしている。
騙したつもりはまるでないから、イオは左右に首を振るけれど、そんな反応が余計にナギを不快にさせたようだった。
「悪い子だ」
言いながら、舌で唇を舐める仕草に、ゾクリと背筋が総毛立つ。その感覚が官能だとは知りようもないイオだから、続いて衣服を破かれたときも羞恥を感じることはなかった。
けれど、気づかぬうちに勃ちあがっていた自分の性器へ、彼の指先が触れたときには、あまりの愉悦に吐息が漏れ、そこを隠したくなってしまう。
「Ωでも、男はここが勃つのか」
「――っ!」
軽く上下に擦られただけで、強い快楽の波に襲われ、イオはこの時、生まれて初めて白濁を散らし射精した。
(きもちいい)
むせかえるような蜜の匂いと、身体の奥からこみ上げてくる断続的な愉悦の中、理性はすぐにグズグズと消え去り、さらなる刺激を求めたイオは、震える指をナギへと伸ばす。
すると、低く唸りをあげたナギは、その掌を叩くようにして払いのけ、造作もなくイオの身体をうつ伏せへとひっくり返した。
「あっ……あっ」
「お前が悪い」
間髪入れずに腰を掴まれ、後孔へと、乱暴に指が突き入れられる。いつもは排泄する時にしか意識しない器官だが、中を指でかき回されれば、気持ちが悦くてたまらなくなった。
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