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それから……どれだけの時間イオを犯し続けていたかは分からない。その間何度もイオの首筋を噛もうとしては、必死に激情を抑えていたのはうっすらと覚えている。しかし、それで噛まずにいられたのかと問われれば……正直自信はまるでない。
「イオ」
途中何度か休みはしたが、それはエネルギー摂取のためで、あとの時間、常にナギの性器はイオの中にあった。
嵐のような時間が過ぎ、泥のように眠ったナギだが、夜が明ける少し前に一度は覚醒していたはずだった。けれど今、また目が覚めたということは、どうやら自分は再び眠りに落ちてしまっていたらしい。先ほど目覚めた時には隣で寝息を立てていたはずのイオへ、再び声をかけたところで、彼が居なくなっていることにナギはようやく気が付いた。
「イオ」
上半身を素早く起こし部屋の中を見渡すが、自分が壊した家具があるだけでイオの姿はそこにはない。
(どこへ?)
布団を捲れば乱れたシーツに赤い斑点がついており、理性を無くした自分の行いを、ナギはまざまざと見せつけられた。
イオにとって、きっと初めての発情だったであろうことは、彼の生活ぶりやこれまでの経緯で容易に想像することができる。
「イオ」
三度目。返事はないと分かってはいても、その名前を呼びながら……寝台から降りたナギはローブを身に纏い、足早に部屋をあとにした。
***
(あれは、なに?)
朝靄がたちこめる森の中、覚束ない足取りで歩くイオの頭の中もまた、見える風景と同じように霞がかかってしまったようだ。
一人で暮らす日々は平穏で、イオは毎日、午後のひとときを読書の時間に充てていた。それは、父が与えてくれたもので、知らない言葉もあったけれど、文字よりも絵が多いおかげで、幾分かの知識を得ることができた。
草花や木々にまつわる本、動物や魚、虫などにまつわる本。あまり覚えがよくないイオだが、薬草や、毒を持っている虫や植物についての知識は、時間をかけてひとつずつ、何度も読んで覚えたものだ。
(だけど、あれは……)
ここ数日、食事もろくに取れないような状態で、何度も何度もナギと行ったあの行為を、知識としてイオは知らない。けれど、身体は彼を強く求め、その衝動にイオは全く抗うことができなかった。
まるで悪夢のような時が過ぎ、深い眠りから醒めたイオが、こうして外へと飛び出したのは、ナギが怒っているのではないかと思ったからだ。
(怖い顔、してた)
落ち着いてから記憶を辿れば、イオが愉悦に悶え続けたこの数日、ナギはずっと怒っていたのではないだろうかと思えてくる。
イオ自身、思いもよらない彼の行動と、体の芯から湧き上がる強い衝動に、我を忘れてしまっていたが、今となっては消えたいくらいの羞恥を胸に抱いていた。
こんな気持ちになることさえ、初めてのことだから、その感情の名前なんて知りもしないイオだけど――。
「声、出したらダメだったのに」
小さな声は靄のなかへと吸い込まれ、代わりに小鳥のさえずりが、イオの鼓膜を優しく揺らす。光の量が増してきたから、早朝の霧はやがて消え、高く澄んだ青い空が見えてくることだろう。
あんなことが起こる前、ナギはイオを彼の屋敷へと連れ帰ると言っていた。
けれど今回の出来事で、きっと考えを変えたはずだ。イオ自身、あの匂いを再び嗅いでしまったら、おかしくなってしまうということが本能的に分かっていたから、『外の世界に行っては駄目だ』と、自分自身に言い聞かせるように心の中で繰り返した。
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