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そんな初対面となったわけだが、駿 にぼんやりとユキを見つめている時間はなかった。ユキの質問に答えられるまで頭が働かない。答えあぐねる駿を見て、ユキは不信感を抱いたのか、直ぐ様駿の体を押さえつけてきた。駿の体には元々力が入らず、何よりユキの人を押さえつける力が強い。地面に体がめり込むようで、駿は声も出せなかった。
「キミ、人の子じゃないね、だが妖にしては妙な匂いだ。一体何を企んでる?まさかここが何処で俺達が誰か分からないわけじゃないだろ」
ぐ、と肩を押さえつけられ、更に苦しくなる。これでは答える前に窒息だ。訴えようにも手も足も思うように動かせない。何より、駿には彼の言っている意味がよく分からなかった。
こんな事になるなら、悩んでないで早いところ転職していれば良かった。この仕事をしていなければ、真夜中の土手に来る事もなく、妙な男に出会う事もなかったのだから。
「おい、ユキ!やりすぎだ」
駿が後悔とこの先の結末に唇を噛み締めた頃、どこかで聞いた事のある声と共に誰かが駆けてくるのが分かった。
「抵抗する素振りもないし、様子が変だ」
「なら尚更だよ、こっちを油断させようとしてるのかもしれない。突然転がり落ちてきたのがただの人じゃないなら、妖が絡んでると考えるのが普通だろ?何かあってからじゃ遅いのは、リュウだって分かってるだろ。ゼンが危ない。もうあんな目に遭いたくはないでしょ!」
「そうだけどさ、春の例もあるだろ。もしまた一方的に巻き込まれただけだったらどうする。妖に術を掛けられた人の子だったとすりゃ、それこそゼンが黙ってないぞ!」
すると、ユキは暫し彼と睨み合った後、小さく息を吐いて駿の上から退いた。
「…逃げられたらリュウのせいだからね」
彼が現れてからユキの話し方が少し変わった。威圧的な、逆らえないといった印象だったが、今は人間らしさがある。
ユキの拘束から逃れ、駿は大きく呼吸を繰り返した。
良かった、生きてる。
けれどまだ体は重く、自力では動けそうにない。
「あんた、大丈夫か?」
動けない事を察して、リュウと呼ばれた彼は駿の体を抱き起こしてくれる。
「す、すみません…体、動かなく、て」
礼を述べようと顔を上げた駿だったが、その言葉の続きは瞬く間に彼方へ飛んでいった。駿を抱き起こしたのが、本物の映画スターだったからだ。
「と、土岐谷 リュウジ!?」
「はは、俺のこと知ってくれてるんだな。喋る元気があるみたいで何よりだ」
男前に笑うリュウジの一歩後ろで、ユキは難しい顔つきで駿を見ていたが、リュウジに釘付けとなっている駿が気づく筈もない。
知ってくれて、なんて彼は言うが、この国で彼を知らない者はそう居ないだろう。彼こそ、どうせ撮るなら撮ってみたいと望んでいた俳優、土岐谷リュウジだ。目の前に突然現れたスターはテレビで見るより逞しく、イケメンだ。短髪で意思の強い真っ直ぐな瞳、背も高くがたいも良い爽やかなスポーツマンといった印象だが、その包容力からだろうか男性の色気も感じられる。日本中が虜になっている人気俳優だ。
「な、なんでこんな所に!?嘘みたいだ…!お、俺、カメラやってて、仕事で、えっと、いつか土岐谷さんを撮ってみたくて…!」
思いもしない出会いに自分の状況を忘れ、更に喋れば支離滅裂で。それでもリュウジは笑って話を聞いてくれる。駿は感動しっぱなしだ。
「じゃあ、いつかあんたに撮って貰う日が来るかもしれないな。ところで、こんな時間にどうしたんだ?突然倒れたようにも見えたんだが」
「え?あ…その、自分でも何が何だか…今日は仕事でお化け桜を撮りに来たんですが、突然何か刺されて蹴落とされて、」
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