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「ごめんね、駿 君。ほら、前に話したでしょ、僕が妖に取り憑かれてゼンさんが助けてくれた話」
一人置いてきぼりの駿を気にしてくれたのだろう、春翔 は席を移動して駿に声をかける。
「あの時も大変だったけど…沢山の人や妖を巻き込んで。でも皆が助けてくれたから、今前を向いていられる。きっと今回も上手くいく。大丈夫だよ」
それに、妖は怖くないよ。春翔はそう言って笑った。
「きっとお互いを知らないだけで、言葉が足りないだけで…そうやって皆、分かり合えたらいいのにね。…綺麗事かな」
苦笑う春翔に駿は首を振り、「俺もそうならいいと思います」と笑った。もしそうなったら、こんな厄介事もなくなるのだろうかと、右手に触れたが、もしこれがなければ、ユキや皆に会わなかったんだろうな、とも思う。
悪い事ばかりではないのだ。いつか自分も、彼らのように笑いながらこの日々を振り返る日が来るのだろうか。
その時は、記憶が消されていないといいけど。
そんな事を考えていると、再び店のドアが開いた。
「あれ?浮気現場を目撃しちゃったかな」
ゼンと離れて座る春翔に、抱き合うとゼンとナオを見て、ミオは冗談めかして肩を竦めた。だが、どこか顔色が悪い。
「ミオ!僕、王子に愛されてるー!」
うわぁん、と泣きながら今度はミオに抱きついたナオ。ゼンは「王子ではない」と、すっかりいつもの表情に戻っている。
「随分熱い展開になってるみたいだね」
そう笑いながらミオはそっとナオを離し、「大事な話があるんだ」と、皆に目を向ける。
「ヤイチが居なくなった」
ミオはヤイチが残したという薬の小瓶と紙切れを差し出した。そこには“人の子へ”と書かれており、腕を治す薬だという事と謝罪、それからミオには、“責任を取ってきます”と書かれていた。それらはいつの間にかミオの上着のポケットに忍ばせてあったという。
夜になり、ミオとナオは妖の世に戻り、真斗 の家には、いつものメンバーが集っていた。
「責任を取るって、やっぱりヤイチが関わってたのかよ」
ユキは落ち着かない様子で部屋の中をウロウロしている。
「落ち着けユキ、今焦っても何にもならないだろ」
ゼンに窘められ、ユキは腑に落ちないながらも黙ってその場に座った。
「でも、責任取るってどういう事ですか…?」
ずっと気になっていた事だ、薬よりもその一言が。駿の疑問に、リュウジがその紙を持ち上げる。
「細工も何もないな…責任を取ってくるって事は、殴り込みに行くって事じゃないか?まさか命を絶つ訳じゃないだろ」
「結果そうなる可能性はないとも言えないが」
「そうなるくらいなら相手が誰か言って行けばいいのに」
ゼンに続いてユキが怒ったまま言う。
「ここまでが精一杯だったんじゃないか?あるいは本気で一人で方をつけようとしてんのかもしれないな…」
真斗は小瓶を手に取りつつ呟く。早速ユキは、「あんなへなちょこ片手でポイだよ」と怒ってる。
「ミオさんとナオ君が何か掴んでるといいです
ね」
駿の言葉に、ゼンは頷いた。
「あぁ、レイジにも、人の世の妖達に探り入れてくれるよう頼んである。シイナの部下達も聴取の最中だ」
駿は頷きながら、ヤイチが残した紙に目を向けた。
「…一体、どんな思いでいるんでしょうか」
駿の言葉に皆顔を上げた。一斉に視線を浴び、駿はたじろぎ言葉を続けた。
「いや、あの…ヤイチが何の為に人を傷つけるような薬を作ったのかなって」
「キミ同情でもしてるの?自分がどんな目に遭ってきたか分かってる!?」
「いや、そうですけど…もし気持ちが分かったら、何か解決策が見つかるのかなって…春翔さんの受け売りですけど」
「春ちゃーん…」
思わずユキは頭を抱えた。春翔の人柄が分かっているからこそ、その言葉に乗せた気持ちもよく分かるのだろう。
「…今となってはもう遅いですけど、だけど、もしヤイチが今、皆の為に動いたなら、それは助けてあげたいなって。問いただすのも、罰を受けるのも、生きていなきゃどうにも出来ないでしょうし…」
静かになってしまった居間の雰囲気に、駿は失言したかと俯いた。
「…ヤイチは臆病で研究熱心な妖だ」
その中、ゼンがぽつりと呟く。それから駿にそっと微笑む。この日二度目のゼンの微笑みに、駿はまたもや見惚れてしまった。
「きっと無事だ、助けてやろう」
「ちょっとゼン!」
「駿の言う通り、助けてから罰を受けて貰おう。この薬だって、ちゃんと確かめない内は使えないからな」
ゼンの言葉を受け、真斗は頷いた。
「成分が分からない以上、駿に投与は出来ないな、俺はまだヤイチを信じちゃいない」
ゼンは、それでいいと頷いた。
「こうなるとさ、やっぱり焦点は祭りか?」
「え?」
リュウジの言葉に駿は首を傾げる。
「だってさ、こんな好都合なタイミングで大勢の人も妖も集まる祭りが開かれるなんて、これを使わない手はないよな」
「あぁ、それから蝶の動きが気になる」
「蝶って、あの…?」
駿の問いにゼンは頷いた。
「監視を振り切って逃げている」
「関係ないとは言えないよな」
ゼン、リュウジと続く言葉に、駿は嫌な思い出が蘇ってくる。皆が、これからはもっと対策を強化しないと、と話し始めた頃、ユキは黙って俯いていた。駿はユキの膝を軽く叩く。
「大丈夫ですよ、ユキさん」
ユキははっとした様子で顔を上げた。
「皆がいれば、きっと上手くいきますよ。俺も全力を尽くします!」
役に立ちたい思いをアピールするように胸を張っていうと、ユキはふっと表情を緩めた。
「キミは本当に…」
「なんですか?」
「…いや、なんでもない。俺もやれる事をやるだけだ」
うん、と頷いたユキはいつもの表情で、駿はほっとして話の輪へ入っていった。
あっという間に時間は過ぎ、早くも祭り当日を迎えた。
鈴鳴 神社の祭りは二日にかけて行われる。一日目は前日祭として、STARSのタレント達によるステージや、盆踊り。二日目は花火大会だ。
朝も早くから町は祭りの準備にと、慌ただしく動き出していた。
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