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土手には大勢の人が詰めかけていた。ステージは簡素なものだったが、そんな事気にならないくらい、バッカス二人のパワーに、ファンの歓声に、圧倒された。 「驚いたな…」 STARSの事務所で何度も顔を合わせているが、二人が歌って踊る場面を駿は初めて見た。上手い下手は素人の駿(しゅん)には分からないが、凄いと正直に思った。パワフルな和喜(かずき)の声と繊細で涼やかな真尋(まひろ)の声。二人の声が重なり合って、見てるこちらを揺さぶってくる。踊らずに、歌わずにはいられないと思わされるのは、二人がプロのパフォーマーだからだろうか。 あまり側までは行けないが、この感動を切り取ろうと、駿は懸命にシャッターを切った。背中しか見えない集ったファンの笑顔が見えてくるようなステージに興奮して駿が振り返ると、リュウジとユキは周囲を警戒しているようだった。空を見上げれば、人には見えないであろう結界の壁が張り巡らされている。駿は自分の立場を忘れていることに気付き、慌てて気を引き締めた。 「すみません、俺」 「何謝ってんだよ、それより、あの二人を見てやってくれ。あいつらも相当頑張ってきたんだからさ」 リュウジが笑って駿の頭を小突いた。駿も笑って頷いたが、やはり気が引けてしまう。 安全も考えて、バッカスのライブの途中だったが、三人は早めに土手を後にした。こんな状況でなければ絶対に最後まで見ていたな、なんて思う。後ろ髪引かれる思いで後にしたステージは、まだまだ鳴り止まない歓声に包まれていた。 その後、駿は夜の盆踊り会場に少し顔を出し、それ以外はカフェで働いたり、神社の側で祭りの様子をカメラに収めたりと、神社から離れないよう努めて過ごした。 後から聞いた話だが、ユキが風舞(かぜまい)で結界を張った後、レイジ達が騒ぎを起こそうと暴れ回った妖の一部をしっかり取り押さえていたらしい。だが、彼らはヤイチの事も、駿が狙われているような事件も知らず、単純に、ゼン達を困らせる為だけに暴れようとしたらしい。 「…なんていうか、怖いですね。町のチンピラみたいだ」 「誰が目を光らせているのか分かっているはずなんだけどね、バカな奴は昔も今も変わんないよ、全く」 祭りが終わり、神社も静かになった頃、真斗(まこと)の家にて、駿はユキと共に縁側から月を眺めていた。 アオもムラサキも走り回って疲れたのだろう、彼女達も今日は真斗の家で、いつもより早い就寝だ。 「ユキさん、疲れてませんか?」 「キミこそ、今日は疲れたろ。どうだ?良い写真撮れたかい?」 話をさらっと逸らされてしまった。 「自分的には、ですけど」 「まだ明日もあるからな!明日は花火もあるし」 「ですね。花火、ここから見えるかな…テレビの方が良いですか、ね…」 駿は思わず体を固まらせた。何故ならユキが、駿の肩に頭を凭れてきたからだ。 「ユ、ユユ、ユキさん!?」 「はは、随分“ユ”が多いな」 「え、あの、」 「少しでいいんだ、少しだけ肩を貸してくれ」 「…は、はい」 途端に騒ぎ出した鼓動を止める術もなく、駿は硬直したまま、ユキの温もりを肩に感じていた。 「…今日は風が気持ちいいな…」 夜風に金色の髪が微かに揺れ、ユキはそっと目を閉じる。少し疲れたようなその顔に、駿は寄りかかってくれた嬉しさ反面、不安を拭えなかった。

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