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祭りは、花火大会がある二日目が本番といえる。
昨日、何かが起こるとすれば、人が多く集まるバッカスのライブ会場だろうと考えていた、次が盆踊り会場だ。だが、一部で暴動が起こりかけたが、駿が関わる事件について、彼らは何も知らない様子だった。
ならば、残りは今日しかない。そして今日は、昨日のライブや盆踊りよりも、遥かに人出が多くなる。
相手にとっては、昨日よりも花火大会のある今日の方が、都合が良いのかもしれない。
この花火大会には、例年多くの人が押し寄せ、去年は十万人の人々がこの小さな町に詰めかけた。座って見られるのは土手の一部だけで、立ち見は禁止、土手の上は常に人が流れている状態になっている。なので、駅周辺、商店街、鈴鳴神社周辺も、毎年、昼から夜にかけて多くの人で溢れていた。
相手が人を巻き込む事が目的ならこの人出は好都合だろう、逃げるにしても人が盾となりやすい。そうなれば、ゼン達は手を出しにくいと、相手は考えるだろう。
それを踏まえて、二日目の今日は、朝の早い内に大きな結界を再び張る事になっていた。見回りに出た限りでは、今の所、各所に不審な点はない。なので、相手が入り込む前に、妖の出入りを制限する仕掛けを作ってしまおうと考えていた。
昨日と違い、ギャラリーも舞台もない朝の静かな神社内で、ユキは再び舞った。金色の髪を靡かせ、しなやかで力強いステップは変わりない。踊りのように見えるが、手の動き足の動きが一つ一つ術を発動させる鍵になるという。よくファンタジーの世界を描いた物語で見掛ける、魔法使いが魔法陣を描いたり術を唱えたりといったプロセスと同じだ。大掛かりな術を繰り出すには、こうして時間が必要な場合があり、自身を守りつつ時間を稼ぐ為にも、この舞いが不可欠なのだそうだ。全ての動作に更に術を乗せていくと、舞を舞ってる最中でも、誰にも近づく事が出来ない要塞がユキの周囲に出来ているという。
今は周囲に敵は居ないので、その点は省きながら行っているのでやり易いというが、本来は、一時の気も許せない神経をすり減らす術なのだという。
「…今日のユキさん、なんかいつもと違うね」
駿 の隣で、その様子を見守っていた春翔 が心配そうに呟く。ユキの舞を見守っているのは、駿と春翔、そしてゼンだ。
「昨日凄く疲れているみたいだったんです。本人は、はぐらかしてましたけど」
「連日忙しいからな…心配だな」
二人が言葉を交わす中、言葉にこそしないが、ゼンもユキの変化を感じ取り、何か考え込んでいるようだ。
ユキが、ぱた、と扇子を閉じる。無数の光が四方八方に飛び、昨日と同じく結界が張られたようだった。
「ふぅ、さすがに歳かなー」
皆の空気を読み取ったのか、ユキはからりと笑いながら、皆の元に歩み寄った。
「お前が歳なら俺も歳だ」
「ゼンは駄目だよ、まだまだ働いてくれなくちゃ」
ぽんぽんと、ユキが笑いながらゼンの肩を叩くと、その手をゼンが掴む。
「何があった」
真っ直ぐ問いかける眼差しに、ユキは僅かに狼狽えたが、それでもすぐに笑顔を見せながら、ゼンの背中に回った。
「何もないよ、ちょっと疲れてんのかな…大丈夫、すぐに回復するから!ほら、結界の仕上げを頼むよ、ゼン」
そう言いながら、ユキはゼンと春翔の背を押し、神社の外へ誘導する。駿もユキの後についていく。
「ユキさん、本当に大丈夫なんですか」
「春ちゃん大丈夫だよ。俺が強くて丈夫なのは知ってるでしょー?ほら、今日は予定が詰まってるんだ」
ほらほら、と押し出され、ゼンと春翔は渋々といった様子で神社を後にした。駿は、そんなユキの少し後ろで、心配そうにユキを見つめつつ二人を見送った。
「さて、俺達も、」
そう言って駿を振り返ったユキだが、その場でかくんと膝を折ってしまう。
「ユキさん!?」
驚いて駿が咄嗟に体を支えると、ユキは困った顔で力なく笑った。今まで表情に出さないよう努めていたのだろうか、その顔は青ざめて見えた。
「…はは、悪いな、駿。真斗 を呼んできてくれるかい?キミは、リュウかミオ達の側に居て。それまではアオちゃんやムラサキの、」
「わ、分かりました!すぐ戻りますから!」
喋るのも辛そうな様子に、駿はユキにそう声を掛けると、真斗の居るカフェへ走り出した。
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