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「どうやら収まったみたいだな」 ほっとした表情で、リュウジが振り返る。鈴鳴(すずなり)神社にも妖はやってきたが、狙いは駿(しゅん)駿ではなく、ただ暴れに来ただけのようだった。祭りに乗じて暴れ回れば金が貰えると、名前も知らない妖に唆されたらしいが、それを教えてくれた妖は、リュウジの手によってすっかり気を失ってしまっていた。 「…本当、強いんですね」 思わず頬を引きつらせて駿が言うのも、無理はない。 たった一人で、次々とやって来る妖をやっつけてしまうのだ、まるで映画のアクションシーンを見ているみたいで、それは、たまたま居合わせた人々も同意見だったのだろう、皆、突如始まった大立回りが催し物だと思ったらしく、歓声を上げてスマホで撮影をしている人も居た。リュウジはそれに気づくと手を上げ応じ、お辞儀をした。その際に、礼儀正しく帽子やサングラスを取るものだから、リュウジだと気づかれ更に騒ぎになりかけたが、すかさず側に居たミオの部下達がバリケードとなり、人々を上手く誘導してくれたので、騒ぎにならずに済んだ。優秀な部下達だ。 彼らは今日のカフェ当番だった妖で、カフェは休みにしているが、そのままずっと見張りに徹してくれていた。妖が暴動に押し寄せたが、リュウジの活躍により手を出す隙もなく、逆にどこか困った様子だったが、リュウジがバレて騒ぎになりかけた時は、ここぞとばかりに彼らは前に出て、自分達の使命が果たせると、生き生きとしている。 その間に、リュウジとユキ、駿は、倒れた妖達共々、拝殿の脇へ移動した。 ユキも大分顔色が良くなり、今は率先して動き回っている。 妖達が押し寄せた時には調子を取り戻しており、率先して境内へ駆けて行こうとするので、駿は止めるのが大変だった。リュウジから、念の為ユキを家から出すなと言われたが、それは無理な話だった。ユキはユキで、倒れた経緯を聞き、更に結界を破ってきたとしか思えない妖を見て、責任を感じたのだろう。 たが、駿を引きずりながら境内へやって来た時には全てが片付いており、今は少し落ち込んでいた。 「……」 「ユキさん、結果安全が確保された訳ですから」 「…分かってる、君の為だ」 ムッとしながらも、君の為と言ったユキに、思わず駿はきゅんとしてしまった。 「…でも、リュウに庇われているこの感じは面白くない」 更に、ムムッとリュウジを見つめるユキには気づかず、リュウジは目を回している妖達を見て、どうしたものかと思案していた。 「それにアオ達が気がかりだな、あいつら巻き込まれてないといいけど」 ここには、駿とユキ、リュウジの三人しか居ない。朝居た他の皆は、既にそれぞれの役割を果たす為、外に出ていた。 「妖が暴れ回ってるのって、ここだけじゃないって事ですか?」 「ああ、さっきまで結界のセンサーが動いていたからな」 リュウジとそんな会話を交わしながら、皆大丈夫だろうかと、駿が境内の様子を伺っていると、人混みに紛れて、一匹の三毛猫がやって来た。同時に、空から白い鳥も飛んでくる。 「ミオ、ナオ、どういう状況だ?」 「え、」 リュウジの言葉に、駿は目を疑う。やって来たのは猫と鳥だが、よく見ると猫には二本の尻尾があり、白い鳥は足が三本あった。 「あ!」 合点がいった。白いヤタガラスのミオと、猫又のナオだ。 二人は辺りの様子を伺いつつ人の姿に戻る。見慣れた姿に、安心感を覚えた。 「俺の部下が囮に引っ掛かったようだ、すまない」 頭を下げたミオに、ユキは「俺のせいだ」と遮った。 「俺の結界に不備があったんだろ?ごめん、俺の落ち度だ」 「ユキさん、」 落ち込んでいたのは、リュウジに手柄を取られたからではない。こんな事態を引き起こしたのは、自分のせいだと思っての事だったたのだろう。だから、自分がどうにかしなくてはと、リュウジを追って飛び出そうとしたのだ。 「自分を責めないでよ、それに、実はヤイチが居たんだ」 「え、無事だったんですか!」 駿の言葉に、ミオは頷く。 「追ってたんだけど、見失ってしまった。でも生きてたよ。不思議だったんだ、いくらユキの結界に不備があったとして、それでも下級の妖が結界を破り侵入するというのは難しいだろう。なのに、少ない被害でそれをやってのけられたのは、ヤイチが居れば納得出来る」 「ヤイチの術か」 「この間ヤイチが結界に捕まってたのも、今回の術を作る為だったのかなー」 まぁ、生きてるなら良かったね、とナオは笑い、それに、と腰に手をあてた。 「ユキにばかり良いとこ持ってかれたんじゃ困るしね!僕らだって、祭りを守る為に居るんだから!」 胸を張るナオに、ユキは幾分表情を和らげた。

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