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「体調は大丈夫なのか?」 「回復した…けど、あれと同等の結界を今張るのは厳しいな」 「敵の狙いは何だろうな。ここに来た奴らだって、駿(しゅん)を狙ってはなかった」 ミオ、ユキ、リュウジと会話が続く。リュウジの言葉に、ミオとナオも皆同じだと続けた。 「町で暴れ回ってる奴らも人に危害を加えようとしなかった。建物や屋台を壊しに回ってる感じで」 「まさかこれでおしまいーって訳じゃないよね」 「あぁ、とにかく状況の確認だな」 「彼らも連れて行かないと、一旦レイジの所に、だよね」 「皆、無事か?」 そこへゼンがやってくると、皆その顔に安堵の表情を浮かべた。 ゼンも同様、皆に異常はないと判断したのだろう、ホッとした様子だ。その顔を見て、今まで俯き気味だったユキは、思わずゼンに駆け寄った。 「ごめん、ゼン!結界を失敗した」 「大丈夫だ、お前は悪くない、見抜けなかった俺も悪い。無理させて悪かったな」 「ゼンー…怒ってくれよ、俺…!」 「分かった、分かってる。大丈夫だ」 うー、としがみつき半泣きのユキを、ゼンは軽く頭を撫でて受け止めてやる。子供のようなユキと、兄のようなゼンの姿に、周囲の空気も軽くなったように思う。それを見て、皆がゼンを頼りにしているのが良く分かった、やはり彼は、いくら自分で否定しようと、王子なのだ。 ゼンは顔を上げ皆を見渡した。 「ミオ、報告を聞いた。ヤイチの足取りは?」 「ごめん、鈴鳴(すずなり)川の方に行くのが見えたんだけど、尾行に気づかれたのか煙に遮られて見失ってしまった。結界の内側には居ないよ」 「そうか、もう一つ報告がある。蝶の妖が駅周辺に居たそうだ」 「え、」 蝶にはつい反応してしまう。駿は苦い思い出に頬を引きつらせ、リュウジも同様に苦い顔を浮かべた。 「もし蝶が裏で動いてるのだとしたら、一番遺恨が残るのは、俺とユキ、リュウジ、それから駿だ。この先どう動くかわからない、駿は特に注意してくれ」 ゼンの言葉に頷きつつ、駿は自分のやるべき時は今ではないかと、思いきって一歩踏み出した。 「ゼンさん、俺を使ってくれませんか?」 駿の一言に皆が一瞬固まった。真っ先に駿に飛びついたのは、ユキだ。 「キミ、今、特に注意しろって言われたばかりじゃないか!何を考えてるんだよ!」 「前に言ったじゃないですか、俺だって力になりたいんです。俺、目をつけられてるかもしれないでしょ?前にも襲われてますし、的になるには丁度良いじゃないですか」 「丁度良いって何だよ、意味が分からない!」 「俺が囮に向いてるって事です。俺が一人出て行けば、蝶は来るんじゃないでしょうか。他に誰が今回の騒動を手引きしてるか分からないでしょ?それなら分かる事から一つずつ埋めていきましょうよ!」 「いや、待って待って!蝶といえどもさ、人の子自体を狙うなら、わざわざキミである必要はないよね?囮にならない可能性だってあるよ!」 「それなら、俺だけを狙えるようにしたら良いんです。守備を固めて固めて、打つ手ないって敵に思わせた所で俺が結界の外に出れば、」 「そんな分かりやすい罠に敵が引っ掛かるか!」 「それしか手がないと思えば相手は乗ってくるでしょ!」 「あー!もう!ゼンからも何か言ってくれよ!」 「ゼンさん!俺、覚悟決まってますから!」 ユキと駿、二人に同時に詰め寄られ、思わずたじろぐゼン。そこへ鈴のような愛らしい声が届いた。 「皆!無事だったのね!」 アオとムラサキだ。リュウジやミオは、ホッとした様子だ。彼女達が無事だったのは勿論だが、ヒートアップする駿とユキのやり取りの間に入ってくれて、といった意味もあっただろう。 「お前らも怪我は無さそうだな」 「勿論よ!暴れる妖を拘束する道具が足りなかったから、レイジの所で動けないように手足を凍らせてきたわ!」 「力の加減が絶妙で、さすがはアオ様です!」 ふふふ、とアオは嬉しそうに笑って胸を張った。 「それなら、ここの奴らも頼むよ」 そんな中、リュウジが伸びている妖達を示すと、ムラサキがお任せ下さいと妖の元へ向かい、ナオが手伝いをかって出ている。 「ユキ!もう大丈夫なの?さっき来た時は、まだ眠っていたから」 「あぁ、心配かけてごめんな。朝も側に居てくれたんだろ?ありがとう、アオ」 ユキがしゃがんで目線を合わせると、アオは照れくさそうに表情を緩めた。 アオも昼までは神社に居たが、その後は町の中を飛び回っており、何度か神社に戻ってはユキの様子を見ていたのだ。ユキの体調が戻り、アオもホッとしたのだろう、少しだけ泣きそうになったが、すぐに表情を引き締め笑顔を見せた。 「ユキが無事で良かったわ!私も強くならなくちゃ、泣いてばかりはいられないもの!私は、王女なんだから、私が守ってあげなくちゃ!」 そう言って、アオは駿を見上げた。 もしかしたらアオは、ずっと気にしていたのかもしれない。駿が襲われた時の事、ユキが倒れた時の事。 ずっと恐れられて傷ついてきた王女が、誰かの為に変わろうとしている。 もう、朝のように泣いたりしない、と言っているようで、駿は、凄いなと素直に思った。 同時に、駿はアオに勇気を貰い、再びユキと向き合った。 「俺だって、守られてるばかりじゃ辛いです。俺に行かせて下さい!」 「キミなぁ、だから駄目だってば!」 そして再び始まる駿とユキの攻防に、アオは珍しそうに二人を見上げた。

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