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「あなた達でも喧嘩するのね」
一体どうしたのとアオが尋ねれば、「駿 が」「ユキさんが」と、また言い争いになる。仕方なくミオが説明すれば、アオは「簡単な事よ」と駿の隣に立った。
「駿を全力で守れば良いだけの事よ。その時は私も一緒に行くわ」
「ちょっとアオ!」
「掛かれば良し、掛からなくてもそれはそれで良し。守りが万全ならやってみても良いと思うわ。もう空は暗いし、街灯や屋台の灯りしか灯らない。その中なら、妖の術も使えるし、それを利用して術者の体を隠せばいい。ユキみたくは出来なくても、それぞれが力を出し合えば結界も強化出来る筈よ。結界の入口も数を少なくさせて、見張りも増やして」
「…それで人の子が守れたとして、駿の囮が成功したら、妖はどれだけ駿に向かってくると思う」
「ユキは怖い?」
澄んだ瞳に、ユキは言葉を失い表情を歪めた。
「怖いに決まってるさ、俺はもう失いたくない」
「私も怖いわ。でも、皆が居ればとても心強いの。それに一番怖いのは駿の筈よ。だって駿は、妖に二度も襲われてるんだから。その駿が真っ先に飛び込もうとしてる。私達が怖いなんて言っていられないじゃない。妖が何かしようとしてる、大勢の人の子を巻き込もうとしている。それが間違いないなら、手を打たないといけない、守るしかないのよ。その為なら私はいくらでも盾になれるわ、駿の為なら何度だって。これは私達妖の使命であり、守り番であるあなた達の勤めよ」
まっすぐ言い放ったアオは、倒れたユキを前に涙を堪えていた時とは違う。いずれ、一国を背負う者の気品と力強さを持ち、覚悟が伝わってくる。まっすぐ貫かれた思いは、皆の気持ちを固めたようだ。
「そうだな、やれる事をやる。守る為に。駿、やってくれるか」
「はい!」
ゼンの言葉に、やるべき事が決まった。花火大会の会場、それ以外にも多くの人の流れがあり、その範囲はかなり広いが、それでもそこを重点的に囲う必要がある。それぞれ配置を決め、結界を強化する術に取りかかろう、そう作戦会議を進めていく中、ドン、と大きな音がした。見上げると、花火が上がっていた。
「始まったか、皆、急ぎ、」
ゼンが言葉を切る。空から何か降ってくる。花火の音に合わせて舞い落ちるそれは、キラキラと宝石のように輝いて、思わず目を奪われた。
「…なんですか、雪?宝石?」
駿の呟きに、ゼンはハッとした様子でユキの名前を呼んだ。
「舞いは出来るか、術を乗せる。風を起こすだけでいい」
「分かった!」
ユキはすぐさま頷き舞いを舞った。扇子を開き、風が巻き起こる。鈴鳴 川で見た突風とは違う、更に大きな風の輪が起こり、その風に向けてゼンが手を翳すと、風に青い炎が宿り、バチバチと光を放つ。
「結界内に飛ばしてくれ!あの粉を誰にも触れさせるな」
「了解!」
ユキはひらりと華麗に舞う。すると風は空へ昇り消えたかと思うと、一瞬にして、四方へ勢いよく流れていく。
空に降る煌めきは、風の炎により一瞬にして消えた。
「ゼン、あれって」
ユキの声にゼンは頷く。
「皆、あれに触るなよ。妖は正体を晒す事になる。下手したら人にも影響するかもしれない」
「あれか…!」
リュウジが納得する。鈴鳴川で駿と出会った時、蝶が撒いた粉のお陰で、頭に耳が生えてしまった事があった。恐らくあれと同一のものか似たものだろう。妖の正体を人前で晒させる為か、もしくは駿のように人体に影響の出るものかもしれない。どちらにせよ、大パニックになることは間違いなしだ。
「一体どこから」
「あ!皆これ!」
ナオは神社内に転がっていた、黒い球体を指し示す。花火の音と同時に小さな煙玉が上がり、それが空で破裂すると、先程のような光の粉が舞ってくる。すかさずムラサキがその球体に息を吹きかけると、球体は凍って動かなくなった。
「どうやら、これを仕掛ける為の暴動だったようですね」
先程まで球体の中央が光っていたが、今は色を失っている。
「ユキ、舞は出来るか?風を起こすだけでいい」
「風だけなら大丈夫、いける」
ゼンの言葉に、ユキはしっかり頷いた。
「よし。ユキの風に粉を消す為の術を乗せる、そうすれば粉が空に舞っても、広範囲を消す事が出来るだろう。
ミオ、レイジに伝えてくれ。ムラサキもヤタの一族や妖狐の城の者に、球体を回収しつつ声を掛けて回ってほしい。結界を強化する事も」
それぞれは頷き、ミオは白いカラスとなって羽ばたき、ムラサキも駆け出していく。側で話を聞いていた見張りの妖達も、ビシッと敬礼している。了解した合図だろう、持ち場の範囲内で、動き始めている。
「リュウジとアオは、駿の側に。粉に注意しながら、球体を探してくれ。結界を張り終えたら、駿を結界の外に出す。俺達もすぐに向かう」
「分かった!」
「あ、待って」
ユキは手の平を合わせ目を閉じる。小さな光が手から溢れ出し、それを広げれば、手の中に小さな狐が姿を現した。
「こいつを連れて行ってくれ。きっと役に立つ」
「わっ、かわいい」
狐はぴょんと駿の肩に乗ると、ちょこんとお座りした。
「くれぐれも気をつけてくれよ」
「はい、ユキさんも」
心配そうなユキの瞳に、駿は笑顔で頷いた。
再び空に光の粉が次々と降りかかる。ユキは頷き駿に背を向ける。駿達も走り出した。
「一定の間隔で粉が舞うようだ、隙をついて結界の術も舞いに乗せていく。大丈夫だ、すぐに終わる」
「うん!」
ゼンの言葉に頷き、ユキは再び地を蹴った。
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