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空に広がる煌めきが消え始め、駿 は安心したようにリュウジを振り返った。
「向こう、出なくなってきましたよ、光!」
「見つけたんだな、これで動けるか」
駿の示す方角、駅の方に目をやりながら言いつつ、リュウジは襲いかかってきた妖達を放り出した。神社を離れ、川の方へ向かいながら結界を強化する最中、どこに潜んでいたのか妖の集団に襲いかかられたのだ。
「こちらも終わったわ」
「悪いな、アオ。どうも術式を組むのは苦手でさ」
リュウジは苦笑い、アオは首を横に振った。
「私も体術は苦手だから、おあいこね」
リュウジが結界強化の術を張るのに手間取っている間に、アオが代わりに終わらせたようだ。
リュウジは、捕らえた妖達を人目のつかない物影に横たわらせ、それからアオが、彼らがまた暴れられないように、力の加減をしながら、その手足を凍らせている。アオの力は強い為、加減を間違うと、命を奪いかねないからだ。
リュウジは結界に触れ、何かを確かめている。
「ちゃんと繋がってる。向こうも終わったみたいだ」
皆がそれぞれ行った強化が、結界へと組み込まれていく。継ぎはぎ、その境目が消えたとなれば、皆の仕事が終わったという事だろう。
「分かるんですか?」
「あぁ、俺も勉強しないとなー」
困って頭を掻くリュウジだが、駿はリュウジが仕留めた妖達を見て、内心もう十分なのではと、感じずにはいられない。
そうこうしていると、空にリン、と鈴の音が響いた。
「合図だ、先に行けってことか?」
「妖の集団が押し寄せているのかしら…」
先程、駿達の元にも、カラス姿のミオの部下がやって来て、駅の方で妖達が暴れていると報告を受けていた。
「皆、バラけてんのかな。伝令を受けて、駅の方に向かったって言ってたし」
「駅に揃った頃には、敵が散っていて捕まえるのに苦労してるとか?」
「あ!伝令のカラスが嘘の情報流したとか!」
リュウジとアオのやりとりに、閃いたとばかりに声を張り上げた駿だが、二人に無言で見つめられ、間違えたと顔を俯けた。
「…ありうるな、それ」
「そうね。ミオの部下の顔は、皆よく分からないし、成りすましたとしたら…」
「え」
今度は駿が言葉を失った。
「え、じゃあ、大変な事になってるんじゃないですか!?行った方が…」
「でも、行けって合図が出たって事は、本元はこの結界の内に居ないって事じゃないか?だから、皆が来る前に先に行けって言ってるようにも思える」
「それか、駿の安全を考えてる場合はない?」
リュウジとアオは少し頭を悩ませたが、二人揃って結局駿の手を掴んだ。
「どの道やることは同じだ」
「えぇ、行きましょう」
「え、良いんですか?応援に行かなくて」
「ゼンとレイジが居れば問題ないさ。きっとすぐに追いかけてくる」
駆け出す二人を追いかけつつ、駿はふと振り返る。
ユキは大丈夫だろうか。頭に浮かぶのは、別れ際の姿より倒れた時の姿。きっと彼は無理をしている。
「気を抜かないようにな」
リュウジの声に、駿ははっとして顔を上げる。間もなく結界の外に出る。その先には土手があり、鈴鳴 川が広がっている。花火会場とは離れており、立ち止まらず花火を見る客達も、ここまでは流れてこない。手前の階段で町に下りて行くからだ。
狙いが駿にあるなら、相手はきっと駿を目で追っている。大勢の人間から目を逸らせばそれでいい、そう思っていたが、逆に集団の中から弾き出されるような感覚を駿は受けていた。
けれど、どちらにせよ今はただ信じるしかない。これが正しかったと、皆の存在を。
結界を出ると、少しだけ空気が変わった気がした。ドン、と花火が上がる音と少しの火薬の匂い。少し離れただけなのに、人の騒めきが遠くに聞こえる。人にすれ違う事は無かったし、道路も止められているので車の通りもない。建ち並ぶ家々の脇を通り、土手へと向かう途中、微かに花の香りがした。
気を取られた瞬間、駿は天地がひっくり返るような感覚を覚えた。
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