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ヤイチに関してだが、監視付きという条件で投獄は免れた。蝶に操られて犯した罪という点が多く、また、駿の腕を治す役目もある、そして、本人の反省がしっかりと伝わった事もあるのだろう。監視役としては、ミオの家が再びヤイチを引き取る事となった。一度ミオの元から抜け出したとはいえ、ミオの家は妖の世では、それでも信頼のおける家柄だ。さらに、アオの働きかけもある。細かい条件は他にもあるが、この二人、二つの国が動くのならば、という点もあり、許されたのだろう。
妖の世にとって、ヤイチは危険ではないと判断されたのだ。
今回、大きな騒動ではあったが、人に妖の正体を明かす事はなく、人の被害も妖の理解を得ている駿のみ。大きな被害は妖だけで、以前から危険分子とされていたシイナの一味も全て捕らえられた訳だから、妖の世にとっては結果的に良かったといえるのかもしれない。
駿 の腕だが、ヤイチが置き手紙と共に残していった薬は、本当に効果のある物だった。ただし、一気に元通りとはいかない。徐々に元に戻っていくというものらしく、経過を見て薬を調合していくらしい。それは、駿の体に副作用が出ないように考えての事だ。何事も壊すより治す方が難しい。
あの時、少量の薬を残したのもそれが理由のようだ、ヤイチは蝶の企みを止めて、再び駿の腕を治す薬を作ろうとしていたらしい。
彼は、蝶に惑わされながらも、懸命にその術の掛かった自分と、戦っていたのだろう。
二週間に一度、ヤイチはミオと共にゼンの家を訪ねている。駿の腕を診る為だ。ヤイチはまだ監視が解けないので、決められた場所での行動しか許されない。人の世でのヤイチのお目付け役は、ミオだ。ミオはやはり人ではないからか、蝶によって付けられた傷は、すっかり癒えていた。
ゼンの家の客間にて、真斗 と共に、ヤイチは駿の腕の状態を念入りに確かめている。これを機に、医学も学び始めたらしい。
駿の右腕はまだ透明なままだが、爛れた傷は少しずつ良くなってきている。
ミオは邪魔にならないようにと、居間でナオとお茶をしている。
「すみません、僕にもっと力があればすぐに治せたんですが…」
「謝らないでよ。治るって分かっただけでも十分だし、俺、皆と出会わせてくれたこの腕には感謝してるんだ」
駿が笑って言うと、ヤイチはほっとしたように表情を緩めた。
「…ありがとうございます」
「ん?」
「駿様には、」
「ま、待って!様はやめようって言ったよね」
「あ…駿、さんには、僕の心の内を見せてしまったようで…夢を見たっておっしゃってましたよね、蝶の繭の中で」
暗い空間に漂う夢の話だ。
「あの時は勝手なこと言って、ごめんな…」
「いえ、良いんです!その通りなんです…多分、妖の力を体に取り込んだ事で、薬の作り手である僕の感情ごと受け取ってしまったんだと思います。妖の世の草花は妖力をもっているので、その力の作用で引き起こされたのではないかと。多分、一時的な事なのでもう起きないと思います」
申し訳なさそうにヤイチは言い、それから、と続けた。
「あの時言われて思ったんです。僕は思って願ってるだけで、何も伝えていないって…もう、ばれてしまいましたが、今度は自分からアオ様に気持ちを伝えようって。ダメだとしても。駿様…駿さんには勇気を貰いました。…こんな僕を許して下さりありがとうございました」
そう言ってヤイチが頭を下げるので、駿は慌てて顔を上げさせる。
「もう、そういうの良いから!俺も治して貰ってるし、ありがとうだよ」
「そんな!元々は僕が、」
「俺だって、あの日、土手に行かなきゃ、」
「お前ら、それ言い始めたら終わんねぇぞ」
互いに下がり合う二人に、真斗はどこか呆れ顔だ。
「これから長い付き合いだ、そこは、これからよろしくお願いしますで、握手して終われば良いんじゃないの」
そう言うと、真斗は二人の手を取り強引に握手をさせる。なんだか擽ったくて、笑ってしまった。
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