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第29話

 求められるままに桜色の乳首を噛み、慎ましい後孔に指を入れ、志津真は欲情に溺れる威軍を弄んだ。 「あぁ…ん」  甘く切ない声を上げ、威軍は全身を震わせていた。  欲望が高まった互いの性器が触れ合い、刺激し合う。 「触って…、触って下さい、志津真…」  いやらしく腰を動かしながら、威軍は前と後ろへの刺激を欲しがる。そんな本能に素直な威軍が、志津真は堪らなく愛おしく、可愛い。 「もう、俺の、入るか?」  志津真の囁きに、もうコクコクと頷くことしかできない忘我の威軍だった。 「欲しい物をやろう」  この上ないほど、甘く、優しく囁くと、声とは裏腹な乱暴な動きで、志津真は威軍の中へと分け入った。 「っひぃ!」  強引な挿入に、威軍は息を呑んだ。それも最初だけで、ズブズブと奥へと迫るうちに、この熱いモノが与える強い快感を思い出し、恍惚感だけが威軍を包み込む。 「ぁあん、志津真…志津真ぁ…」  夢中になって、威軍は志津真の上で激しく腰を上下に振った。溢れ出て止まらない官能を追い求めるように、威軍は行為に没頭した。その熱意が伝わったのか、志津真もまたしっかりと威軍の快楽を受け止めようとしていた。 「ウェイ…」  協力的に志津真は威軍を下から突き上げ、前を握って慰めた。 「あ…も、もう…」  堪え切れずに、志津真に縋りついた威軍は、切ない声を上げ、髪を振り乱して終焉を迎えようとしていた。 「イってエエよ、ウェイ」 「ぁう…ん!」  恋人からの刺激と、優しい許しを得て、威軍は欲望をその手の中に放った。  ガクンと脱力した威軍の身体だったが、その自身の重みで体内の志津真をより奥へと招いてしまった。 「はっ…ん!」「うっ…」  思わぬタイミングで愛しい相手の最奥に迎え入れられ、瞬間的に威軍が力を込めたせいで締め付けを感じ、志津真もまた満たされた。  放出感に、ぼんやりとしながらも、2人はしっかりと抱き合っていた。 「続きは、ベッドで…」  甘えるように威軍がねだると、志津真は微笑んで、威軍の髪や頬や肩に触れ、親密な愛情を示した。 「お前が望むなら、喜んで」  2人はもう一度口づけると、幸せそうに笑顔を交わし、並んで座り直し、思い出したように缶ビールに手を伸ばした。 「夜は長い。時間を掛けて、楽しまな損やろ」  そう言って志津真は、喉を潤した。  そんなリラックスした志津真の表情は、威軍の心も解きほぐす。志津真といれば、何の気負いもいらない。無理をしたり、自分を偽るようなことをする必要がないのだ。自然体で生きる、そのためには志津真の存在が不可欠だと、威軍は噛み締めていた。 「どうして…」  ふと思いついて威軍は口にした。 「ん?」 「どうして、急にここへ?」  金曜まで東京で仕事をして、待つ人が居る実家にさえも寄らずに、土曜の午後には恋人の許へ戻って来た。そのまま恋人の求めに応じ、仕事も片付けて、明日も休みだからと慌ただしく飛び出して来たのだ。  緻密といえるほどに計画を立て、時間を守って行動したい郎威軍と違い、基本的には感情のまま、本能のまま、行き当たりばったりに動く加瀬志津真らしいといえば、らしい行動なのだが、なぜ今、蘇州なのか威軍には腑に落ちない。 「ま、お前の誕生日が近いし…。それに、せっかくの休みやし…。蘇州にしたんは、このスイートルームがキャンペーンで安かったし、な」  照れくさそうに、志津真は言った。とは言え、部屋が安いからというだけで、わざわざ蘇州まで来る必要は無い。 「私を、大切に思ってくださるんですね」  意外なことに、威軍が核心を突くようなことを言った。  このロマンティックな部屋で、恋人を楽しませようという志津真の思いやりを、聡明な威軍は間違いなく受け止めることが出来るのだった。 「そうやで。俺にとっては、お前が一番大切な人間や、ウェイ」  今さら威軍の明晰さに驚くことも無く、志津真は素直に恋人の指摘を認めた。 「なら…」  艶然とした美貌で、威軍は手を伸ばし、志津真の頬に触れた。 「私も、お返しをします。…ベッドで…」  そのままキスでもするのかと期待をした志津真だったが、フッと微笑むと威軍は志津真から離れて、バスローブを脱ぎ捨てた床へ立ち上がると均整の取れた美しい背中を見せつけるように振り返った。 「来て…下さい」  声優部長も真っ青な、濃艶で甘い声で誘うと、スッと音もなくベッドルームへと姿を消す威軍だった。 「うわ…、反則やろ…」  それを呆然と見送った志津真は、我に返ると思わずそう呟いて、飛ぶようにキングサイズのベッドに向かった。  志津真は、ベッドの上で一糸まとわずに自分を待つ、典雅な美神を見た。  それは実際には、誘惑的な恋人だったのだが、火照ったカラダを(さら)し、物欲しげな眼差しを送る彼は、これまで見たことも無いほど淫猥で、なおかつ荘厳な存在に志津真には思えた。  手を出すのが怖い…そんな風に思えるほど威軍は神聖な美しさがあった。  ベッドの上に片膝を立てて横臥していた威軍が、すらりと足を伸ばし、上半身を起こした。 「私は…、貴方を魅了していますか?」  そう言って、天才芸術家の作品のように完璧な長い腕を志津真に差し伸べた。 「当たり前やろ」  逸る気持ちを押さえつつ、そう言って志津真がベッドに上がった。 「こんなに煽って、後は知らんで」  じりじりと恋人に近寄ると、志津真は威軍に覆いかぶさった。  ぬちゅぬちゅと唾液を混ぜ合わせるような口づけを交わす。舌を絡め、吸い上げ、唇を甘噛みする。それだけで、2人は夢中になった。 「ウェイ…」  息を継ぐ時に、志津真が悩ましい声で囁いた。 「乗って」  恋人からのお願いに、威軍は素直に従った。  枕で背を支え、腹を見せるように横たわると、その太腿の上に威軍は座った。 「いいですか?」  頬から首筋までが桃色に染まっている威軍が、志津真に確認をした。 「何や?」 「今夜は、私の思うようにしても、いいですか?」  そう言うと、答えを待たずに威軍は志津真に積極的なキスをした。 「ん…ぅ…ふ…」「あ…ふ…、ぅ…ん、ん」  甘く、深く、熱のこもった交歓だった。 「好きにさせて下さいね」  念を押すと、郎威軍は少し上から志津真の反応を見て、抵抗する様子が無いと判断すると、コケティッシュな微笑みを浮かべて威軍は体をずらした。

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