11 / 17

第11話:生徒会合宿 中編

「おっはよぉ~~!」  次の日の朝、元気いっぱいな平良先輩が、勢いよく扉を開けて入って来た。 「おはようございます」  そんな平良先輩に目線を向けながら、俺は挨拶を返す。 「おりょ? 明ちゃん普通?」  生徒会室の会議室の方で、パイプ椅子に座り、俺と治弥は朝食にパンを食べていた。パンを頬張っている俺の後ろへと歩きながら見下ろし、平良先輩は観察しているように呟いてくる。 「??? ……普通ってなんですか?」 「次の日って、怠そうにしたりするのに」  平良先輩の言ってる意味が判らずに、俺は首を傾げながら問いかけると、さらに意味の判らない言葉が返ってくる。怠そうにって……なに? 「平良先輩の思惑には、ハマりませんでしたよ?」  隣に居る治弥は、苦笑いを浮かべ、平良先輩に向かってそう告げていた。 「………男ならエッチしとけよ!?」 「~~~っ!?」  そ、そういう事ーーー!?!??  「治弥くんを尊敬する」 「俺だったら、そんな絶好のチャンス逃さないのに……」  続いて生徒会室に入って来た、牧先輩と咲先輩は次々と言葉を述べて行く。話ながらも、それぞれへの席にと座っていた。 「今夜は咲先輩に、生徒会室譲りますよ?」  治弥は咲先輩が座るのを目線で追いながら、咲先輩に向かって冗談交じりにそう言っていた。 「そうしてくれると嬉しいかもね?」  にやついた笑みを浮かべると、咲先輩は牧先輩に目線を向け、治弥の言葉に対しそう告げていた。 「今夜は肝だめしだから、無理だね?」 「なら肝だめしで?」 「お前の脳みそ見てみたい」  双子の先輩の会話は、双子らしくない会話だった。ただ、最後に牧先輩は言った後、盛大に溜息を漏らしているのが目に入った。 -1-  まぁねぇ……。昨日は、チャンスっちゃぁチャンスだけど………。あんな可愛い明を見れたし、いいかな? って思ったわけだよ。 「夜ご飯は? 布団は? え? どうしよう!?」  明都くん、心配するのそこなんだ……。事の事態を明に説明すると、ソファーから立ち上がり、そわそわと談話室を歩きまわりながら明は慌てた様に言っていた。 「あっちの部屋に全部置いていったみたいだよ?」 「そっか、………!?」  平良先輩は生徒会室を出る時に、親切にそう伝えてから出て行ったから、それを説明してやると、明は安堵の表情を浮かべて、再びソファーの俺の隣に座ったが、今の状況に気付いたのか目を見開いた。 「明?」 「なななな何?」 「はぁ……」  動揺しすぎだから、明都くん。本当……、先輩達は余計な事しかしない。人で楽しむの好きだよな……。俺は思わず、小さく溜息を漏らしてしまった。 「……ごめん」 「ん? 何が?」  小さく漏らした溜息が明に聞こえてしまったのか、明は俺へと目線を向けると、小さい声でそう言ってきた。俺は明に目線を合わせ問い掛ける。 「俺……治弥が好き」  目線を合わせると、明は恥ずかしそうに目線を泳がせながら、でもはっきりと俺にそう伝えてくる。か、可愛いんですけど……。 「でも、治弥と一緒に居ると緊張するんだ」  俺の袖を力いっぱいに握りしめてくれば、明は震えた声で言い告げていた。 「昨日も言ったけど、俺は明が側に居てくれるだけで嬉しいんだよ?」 「……でも、治弥は俺を望む?」 「無理強いをしようとは思ってない」  明の頭をゆっくりと撫でつけては、右で分けられている前髪を掻き分けて顔を覗き込む。明は目線を上げて、ジッと俺を見てきたかと思えば、俺の頬を片手で体温を確かめるように撫でてきた。 「明?」 「治弥……、大好き」  明は小さい声で微かに聞こえるようにそう言うと、瞼をゆっくりと閉じたかと思えば、俺の唇に自身の唇を添えてきた。うわっ……ちょっと、いや……かなり、とてつもなく可愛い。 「……なんか、恥ずかしい」  唇を離し瞼を開けた明は、頬を赤らめながらも、目線を泳がせ呟いていた。 「明、もう一回して?」  って言って、毎回怒られてるけど、駄目もとで言ってみる。 「ん?……」  赤い顔を更に赤くさせてたけど、明は頷いてまた、俺にキスをした。俺……幸せすぎて、後が怖いんですけど? -2-  昨日のうちに決まるものは決まったらしい。俺……寝てただけ? 今日はクラスに配るプリントとか、ミスコンのアンケート用紙とかのプリント作り。尭江先輩が、桃ちゃんから借りたノートパソコンを打ち込んでいた。 「尭江先輩って、眼鏡かけるんですね?」  俺はパソコンを持ってないから物珍しくて、その隣に座り尭江先輩が操作する様子を見ていたが、尭江先輩はメガネを掛けてるから、それもなんだか珍しかった。 「授業中とかだけな? 普段かけてると邪魔だし」  俺の方にチラッと視線を移して、尭江先輩は答えてくれた。 「尭江、出来た?」 「とりあえず、クラスに配る分は」  印刷したプリントを、尭江先輩は牧先輩に見せていた。 「二学期始まったらこのプリントを、各クラスに配るように桃ちゃんに言っといて?」 「はいはい」  クラスの発表を書くプリント。使う場所からやる項目まで、簡潔に書ける様になっている。それを書いてもらい、また生徒会はそれが被らない様に配分する。だから、第三希望まで書ける様になってるんだ? 「桃ちゃんのって、ネットも繋げるのか?」  咲先輩は、俺と尭江先輩が座っている間の後ろに立つと、両方の肩に手を添えて、突然そんな事を問い掛けてきた。 「ん? ……カード挿せば出来るよ?」 「カードは?」 「さっきまで使ってたみたいだから、そのまんま」  尭江先輩がそう答えると、咲先輩はにやついた笑いをした。 「……お前、何考えてる?」 「桃ちゃんってエロサイト見ると思う?」 「……見ねーよ!」  咲先輩……。貴方って人は。 -3-  桃ちゃんのノートパソコンに、尭江先輩の写真メモリーがいっぱい入っていたのを、二年の先輩方は面白がって見ている。 「おめぇーら!? いい加減にしろよ!」  尭江先輩……、可哀想の一言だな……。 「……ぜってー、後で消させる!」  咲先輩に捕まえられて、抵抗の出来なくなってる尭江先輩は、そう漏らしていた。 「尭江、いいじゃぁーん? 愛されてて」 「本当……愛されてんな? 幼稚園の頃とかまであるぞ?」  平良先輩と牧先輩はパソコンの画像ファイルを堪能しながら、尭江先輩に言っていた。 「桃ちゃんはいつから尭江を狙ってたんだ……、桃ちゃんショタコン?」 「ちっげーし、ボケ咲!」  とりあえず、仕事再開させましょうよ? 先輩方。 「ねぇー治弥? うちのクラスって何するのか聞いてる?」  そんな先輩達をよそに明は突然、俺に問い掛けてくる。クラス? 何? 「朋成知ってるか?」 「ん? 案は出てるけど、まだ決まってないよ?」  うちのクラスも余裕綽々ですね? 「俺、出店とかでいいや」 「確か……喫茶店、お化け屋敷、軽食屋とかだったかも?」  明は、中学の文化祭でも、嫌という程、女装をさせられてる。ほら……、喫茶店って聞いただけで、嫌そうな顔をしてる。 「普通の喫茶店ならいいけど……」  この学園じゃ……、普通で終わんないかな? -4-  俺は今、スッゴクわくわくしてます! 生徒会の仕事も今日は早々に終わらせて、夕食を食べた後、皆で校門に集まった。だって! 楽しみにしてた肝だめし大会! 「明……嬉しいのいいけど、周り見ようね?」  治弥に言われて、俺は周りを見渡した。うっ……皆、俺を見てる。 「明都君って、イメージ的に゛怖いのやだぁ~゛って騒ぐ方だと思ってた」 「うん」  朋成君……それ、俺の真似? 昭二も隣で頷かないでよ。 「はいはい、君達、早くくじ引いて。組み合わせ決めるから」  平良先輩が番号が書いてある紙が入った箱を持って、俺たちの元にやってきた。 「明ちゃん昔から、怖いのとか平気だもんね?」  差し出された箱から紙を一枚俺は引いた。 「平気というより……好きだよな?」  治弥は俺の隣で、差し出された箱の、上部に開いてある穴の中に手を差し込み、くじを引きながら言っていた。 「……ドキドキして楽しいじゃん?」 「ジェットコースターなんて、五個とか平気ではしごするぞ?」  昭二はくじを引きに俺の隣に来たが、治弥の言った言葉を聞くと、驚いた顔で見てきた。いいじゃん……好きなんだから。 「あっ……俺、五番」  くじを開くと5と大きく書かれていた。その紙を見てから、治弥に視線を移すと苦笑いされて、紙を見せられた。その紙には11と書いてあった。なんだ、治弥と一緒じゃないんだ。 「あっ俺、11」  一緒に治弥の番号を確認していた昭二は、今引いたばかりの紙を開いて確認すると、それを見せながら言った。 「昭二ずるいっ!」 「ずるいって……、明都」  治弥と一緒! いいなぁ…。 「ええーーー、……五十嵐とかよ」 -5-  明と回るとか期待してた訳じゃない。明と回っても、肝だめしだけは、色気もなんもあったもんじゃないし。ほらっ…今だって目をキラキラ輝かせてる。 「俺、3番だ」 「朋成君、俺とだよ?」  くじをひいた朋成が番号を確認して言い告げると、平良先輩はその紙を覗き込みながら言った。お前、先に引いてたのかよ!? 引かせに回ってる人間は、最後に引くの常識じゃないんですか!? 「5番って誰だろ?」  未だ見つからないペアの相手を、明は辺りを見渡しながら探していた。俺も探してやろうと思い、辺りを見渡すが、大体ペアが決まっているようで、誰かと一緒に居る者が多い。 「泉? 5番?」  そんな明に近づいて来た尭江先輩は、そう問い掛けてきた。 「はい……、尭江先輩は?」  明の問いに尭江先輩は紙をちらつかせながら、反対の手を開いて、5番だという事を知らせてくれていた。 「誰もいないのかと思ったーー」  尭江先輩の手を見ると、明は安堵の表情を浮かべていた。 「お前……番号違った筈だよな?」 「え? なんの事かなぁー、牧?」  スタートの順番になった咲先輩と牧先輩の声が耳に届いてきて、俺らはそちらへと目線を向けていた。  「彼奴……、誰かと番号代えたな?」 「間違いないですね」 「え!?」  その様子を見ていた尭江先輩は、呆れたように言葉を零していた。咲先輩らしいな……。明には理解出来ないのか、驚きの声を出していたが。 「あぁーあ……あれ、戻って来るの遅いから、明ちゃん達もう出ていいよ?」 「泉は分からなくていいよ……」  平良先輩が言った事の意味が、また分からないのか、明は首を軽く傾けていたが、尭江先輩に頭を二度軽く叩かれると、言い聞かせるように告げられていた。 「じゃ……行くか? 泉?」 「あっ、はい!」  明は尭江先輩に返事をしてから、俺に目線を向けてくるから、俺は明に軽く手を振って見送った。 -6-  校門から昇降口へと入り、電気も付いていない第一校舎の廊下を、懐中電灯一つで、俺と尭江先輩はゆっくりと歩みを進める。尭江先輩は、俺の腕を掴んで離れないでいた。 「尭江先輩?」 「校門からだと、化学室って遠いのな?」  化学室に置いておいたカラーボールを持って帰ってくる、これが指令。  夜の校舎は、静けさのせいか、やっぱり不気味さを感じる。化学室は第三校舎にあるから、校門からだと一番奥。第一校舎が、教室や職員室、保健室。第二校舎は、第一校舎の二階から渡り廊下を通って行く。部室や各教師の教官室がある。生徒会室も第二校舎にあるんだ。そして、第三校舎には化学室や音楽室なんかの、特別教室。第二校舎から、一回外に出て、二つに別れる道がある。一つが体育館。もう一つが第三校舎に向かう様になっている。 「……何が楽しくてこんな事……」 「???」  第一校舎の廊下を歩いて、渡り廊下の方へと向かっている。尭江先輩はぶつぶつと言葉を漏らしているが、あまりにも小さい声で呟くもんだから、俺にはどうも聞き取れなかった。でも、俺の腕を掴んで離れない尭江先輩は、微かに震えている事は、腕を通して伝わって来ていた。もしかして……、尭江先輩……。 「怖いんですか?」 「~~~っ!? ……怖くねぇーよ!!」  俺がそう問い掛けると、尭江先輩に思いっきりと睨まれながら答えられた。睨みながらも、俺の腕は絶対離さない尭江先輩。睨んできたその瞳は……、微かに潤っている、涙目。さっさと終わらせてしまいたいのだろう、歩む速度は一直線に渡り廊下へと進んでいく。  本気で……、苦手なんですね、尭江先輩。俺はなんだか、震えながら俺の腕を掴んでいる尭江先輩の手の甲を、安心させるように撫でてしまっていた。 -7- 「あれで、明ちゃんが怖がりだったら、あの組合せは先に進まなかったなぁ」  明と尭江先輩が出発し、進んでいく背中に目線を向け、校舎に入ったのを確認すると、平良先輩は一言洩らしていた。 「尭江先輩……、震えてましたしね?」  平良先輩の隣で、朋成が呟いた。尭江先輩……、怖がりなんだ……。怖いの大好きな明のテンションに付いていけるのか?  「あっ! 和おかえりぃ!」  校舎から戻ってきた和と組合せだった生徒が目線に入ると、平良先輩は大きく片腕を振りながら声を掛けている。 「平良……、二年の教室の廊下は通らない方がいいぞ?」  戻って来た和は、平良先輩の元へ行くと、頭を撫でながら言っていた。 「もしかして、出るとか?」 「………別のものに出会す」  別のもの? なんだ? 「咲先輩と牧先輩?」  朋成は和にそう尋ねると、和は頷いていた。 「やっちゃったかぁ……」  というより、咲先輩の校舎に向かった顔はやる気満々だった。番号を交換したのも、その為の策略。そうなるのは、誰もが予想はしていた。咲先輩は、本当、所構わずなんだな……。 「さっ! 次は治弥達だよ?」  俺と五十嵐の順番が来ると、平良先輩は俺達の方に向かって声を掛けてくる。 「………」 「……花沢、どっちが先に化学室に着くか、競争しないか?」 「それ、面白そうだな」  ただ、五十嵐と校舎回っても、なんの面白みもないな……と、考えていると同じ考えだったのか、五十嵐が一つの提案をしてくる。その提案は、普通に回るより面白いと思い、俺は同意を示す。俺と五十嵐は顔を見合わせてから、一気にその場から走り出した。 「お前ら!? 組み合わせで回れって!!」  平良先輩の怒鳴り声が聞こえたけど、聞こえない振りをして俺は走り続けた。 -8- 「尭江先輩?」  尭江先輩は俺の腕を引いて、無言で歩き続けていた。 向かってる先が化学室じゃないのは、鈍い俺にも解る。だってここ第二校舎。 渡り廊下を通って第二校舎に入ると、尭江先輩は一階に降りずに、二階の廊下を歩き続けてる。第三校舎に行くには一階に降りて、外に出ないと行けないのに。きっと向かってる先は、数学教官室。数学教師であり、担任のクラスを持っていない桃ちゃんは、きっと数学教官室に居るのであろう。生徒会の顧問だから、桃ちゃんも合宿中は学園で寝泊まりしてるんだ。  桃ちゃんに逢いに行くのかな? 「……尭江先輩、可愛い」 「なっ!?」  尭江先輩は真っ赤な顔をして、立ち止まり俺の方へと目線を向けた。 「……平良達には、内緒にしてな?」 「はい」   小さい声で呟いて、尭江先輩はまた、歩き出した。この先輩……可愛い。数学教官室に着くと、何も言わずに、ドアを勢いよく開けた。静かな廊下に開けた音が鳴り響く。 「うわっ!? ……なんだ……尭江?」 桃ちゃんは自分の机に座り、作業をしていた。 尭江先輩の姿を視界に捕えると、俺達の方に向かって来た。 「尭江? ……どうした?」  桃ちゃんはうつ向いている尭江先輩の髪を掻き上げてあげると、顔を覗き込んでいた。 「肝試しなんて! 許すなよ!?」  尭江先輩……、桃ちゃんに八つ当たり?  俺はドアを閉めて、廊下で待つ事にした。 -9-  俺は校舎の中を走り続けていた。五十嵐とは、勿論別ルート。同じルートを通たって、何も面白くない。第二校舎の二階を走っていると、廊下に人影が見えてきた。 「? ………明?」 「治弥!?」  その人影は、明である事は、近寄った事で判り、俺は声を掛ける。明は廊下でつまらなそうに、足で床を蹴りつけながら一人で壁に寄りかかっていた。 「尭江先輩は?」 「中にいるよ」  明はドアを指差して、笑いながら言っていた。あぁ……、ここは数学教官室。 「桃ちゃんに、逢いに来ちゃったんだ?」 「うん」  俺がそう言うと明は、また笑顔を作り頷いて答えていた。 「治弥、昭二は?」 「別ルートで化学室向かってる」  明の問い掛けに答えると、明は意味が判らないといった様子で、頭の上にハテナマークが飛び交っているように見えた。それがなんだか、可愛かった。 「尭江先輩をずっと待ってるのか?」 「ん? ……尭江先輩一人じゃ、多分回れないよ?」  まぁ、尭江先輩は怖がりみたいだから、一人では確かに無理だろう。俺は一緒に待つつもりで明の隣に、壁へと寄りかかる。そんな俺を見ていた明は、俺の肩に頭を寄りかけてきた。 「明? どうした?」 「尭江先輩と桃ちゃん見てたら、治弥に逢いたくなってた」  なんですか? この可愛い生物は!? -10- 「泉、わりぃ……って、なんで花沢がいる!?」  ドアを開けて尭江先輩が、漸く数学教官室から出て来たと思ったら、治弥の姿を視界に映ったのか、驚きの表情を見せていた。 「たまたま、通りかかっただけですよ?」 「……花沢……言うなよ? あいつらだけには」  尭江先輩は治弥を睨みながら、そう言ってくる。 「言いませんよ、そんなこと」  俺の頭を撫でて、治弥は尭江先輩に言った。それを聞いた尭江先輩は、安堵の表情を浮かべて笑っていた。やっぱり、この先輩可愛い。 「さぁ~! 化学室に行きますかぁ!」  尭江先輩……、さっきまでの脅えようは何処に? 桃ちゃんに会って、元気になった尭江先輩を見ては、なんだかおかしくて、俺と治弥は顔を見合わせて笑い合った。 「花沢……泉貸しててな?」 「は?」  尭江先輩はまた、治弥の隣に居た俺の腕を引いて廊下を歩き出した。治弥を振り向くと苦笑いを見せて、俺と尭江先輩の後をついてきていた。 「……なんで、明都まで一緒に居るんだよ」  第二校舎を出て通路を渡り、第三校舎に入り階段を登ると、化学室のある通りの廊下を歩く。先に化学室に着いていた昭二が俺らの姿を捉えると、俺達に向かって昭二は叫んでくる。懐中電灯を昭二に向けると、眩しそうに光を片腕で塞いでいた。 「まさか、待ち合わせしてたのか!!」 「……何言ってるの昭二? たまたま会っただけだよ?」  なんでそんなに怒っているのか判らない俺は、昭二にそう返して化学室に入って行く。尭江先輩の腕を引いたままで、化学室の中に入り、ボールがある位置を探す。それは黒板の前の教師の檀上に箱が置かれ、それの中に入っていた。プラスチック製のゴムボール。それを二つ手に取り、一つ尭江先輩へと渡す。 「はい、尭江先輩の分」 「あ、りがと………ほらっさっさと戻ろうぜ!」  俺たちがボールを取ったのを見ると、治弥と昭二もボールを取りに来た。化学室を出て廊下を歩きながら、校門へと戻る。 「牧達まだ、戻ってないと思うか?」  俺と尭江先輩が歩く後ろを、付いてくるように歩いている治弥と昭二。尭江先輩が二人に問い掛けるから、後ろへと目線を向けると、治弥と昭二は、手に持っているボールを短い距離でキャッチボールしながら歩いていた。 「まだ……、ですかね?」  尭江先輩の問い掛けに、治弥は苦笑いを浮かべ答えていた。  そんなこんなで、合宿の三日目の夜は終わりを告げた。 -11-  合宿も四日目を向かえた日の朝。いつもの様に朝食を済ませ、生徒会室に向かう。ドアを開けて目に映ったのは平良先輩の姿。 「明ちゃんおはよう!!」 「平良先輩……いちいち、明に抱きつくのやめてください!」  平良先輩は飛びつくように明に抱き付き、挨拶をしてくる。もちろん、俺はその平良先輩を、明から引きはがしたけど……。 「しかもなんで、朝っぱらからメイド服着てんだよ!?」  しかもその姿は、黒を基調としたメイド服。どっから出てきたそのメイド服……。 「文化祭の為の試着らしいよ?」 「……生徒会主催は、宝探しだったんじゃないのか?」  先に生徒会室に来ていた朋成が、状態の説明をするが、文化祭の為ってどういう事だ。生徒会でのイベントは宝探しに合宿の二日目に決定していたじゃないか。 「うん! 見付けたから、試着してみただけ!」  本当、なんでもありだな、この先輩は。 「明ちゃんのもあるよ? 着てみよう!」 「え!? ……遠慮します!」  平良先輩は自身の着ているメイド服のスカートの裾を両手で掴んで、そのままその場をくるくると回転させながら、その姿を驚きの表情で見ていた明に問い掛けていた。明は驚いたまま、生徒会室の入り口付近に立ったままだったが、平良先輩のお誘いには全否定の言葉を述べている。 「あぁ~きっちゃん? 治弥も見たいってよ?」 「……俺が着たら、治弥嬉しい?」  明は平良先輩に言われた言葉を真に受け、俺の元に来ると真面目な表情で問い掛けてくる。 「~~っ、……困る質問しないで頂きたい、明」  明のメイド服姿とか、可愛いに決まっている。見たいに決まっている。でもここで見たいって言ったら、明が困るのも予想はつく。俺は明から向けられている目線を逸らして、答えてしまうと、明は首を傾げて不思議そうに見て来ていた。 「明ちゃん、絶対、治弥喜ぶから、着てみよう? 尭江も着るからさ?」 「な!? なんでだよ!?」  突発的な平良先輩の言葉に反応したのは、もちろん突発的に話題に出されてしまった尭江先輩。つうか、そんなにメイド服あんの? この生徒会室には……。 -12-  俺と平良先輩は、生徒会室の奥にある部屋、談話室の方へと移動していた。 「平良先輩……、本当に着るの?」 「治弥をメロメロにしちゃえ!」  メロメロは別にいいけど……、新入生歓迎会の時の衣装より、ヒラヒラがいっぱいついてるよ……。俺は平良先輩に渡されたメイド服の衣装を、両手に持って広げ目の前に掲げていた。 「平良先輩……、これどうやって着けるの?」  その衣装の中にあった、長方形の白い物体(もちろん、ヒラヒラ付き)を頭より高く片手で持って、平良先輩に聞いた。 「それは、ここに付けるんだよ?」  平良先輩は俺からそれを受け取ると、それを俺の頭に着けてくれる。これはヘッドドレスと言うらしく、なんだかカチューシャみたいな感じだった。その後も手際よく、次々と俺に衣装を着せて行った。 「……こんな格好して、本当に嬉しがる?」  治弥が俺に手を出さないのは、きっと俺を気にしてくれての事だと思う。……実際にそういう雰囲気になると、緊張して固まってしまう俺を気遣っての事で……。俺だって、一応、男だから解るんだ。治弥がどれだけ我慢してるのか……。だから、大好きな治弥が喜んでくれれば……良いなぁって、思ったんだ。 「和はいつも喜ぶよ?」  和くん、……いつもなの? 俺にメイド服の衣装を着せ終えると、平良先輩はソファーに座り、俺の姿を確認するように見上げてくる。 「和、妹いるからいろんな服持ってるんだぁー!」  ……和くん!? 平良先輩はソファの背もたれに腰をかけて話していた。俺の中の和くんのイメージが……、変わる……。そう言いながら平良先輩は自身のスマホを俺に向けてくるので、俺はそのスマホのカメラレンズ部分を、人差し指で押さえていた。  恥ずかしいから、撮らないでよ……。 -13-  明が珍しく、自ら隣のソファのある部屋に、メイド服へと着替えに行った。女装とかすっごい嫌がるのに、とてもこれは珍しい出来事だった。 「何がしたいんだ? 平良先輩は……」  仕方なく、俺はおとなしく席に座りながら呟いた。 「平良のはただの暇潰し」  暇潰し……、平良先輩の突拍子もない行動は、楽しければなんでもあり! な平良先輩精神の元で成り立っている。牧先輩は、資料に目を通しながら、教えてくれる。 「平良のクラスが、メイド喫茶にするからだろ?」 「有無を言わさず、平良の案でね?」  平良先輩ってクラスでも、あんなんなんだな? 牧先輩と咲先輩の会話を、聞きながら俺は密かに思った。クラスの奴ら可哀想に……。 「平良のクラスは、平良信者が多いからな?」  信者? メイド服を免れた尭江先輩が、牧先輩の隣に座り、一緒に資料を確認しながら、話していた。俺を含め一年が皆、和に視線を集めた。 「……平良は自分であしらえるから、気にならない」  あぁ……まぁ、平良先輩なら出来るだろうな? 俺は和の言い分を妙に納得しながら、聞いていた。 「手出した奴は、片っ端からやっつける」  普段がおとなしい和なら、やりかねない……。 「おっまたっせ! 致しましたぁ!」  元気が有り余った平良先輩が、漸く隣の部屋から出てきた。 「…………って、平良先輩の格好、グレードアップしてるし」  平良先輩の姿はメイド服のままだったけど、頭に猫耳のカチューシャを着飾っていて、さらに恰好はグレードを上げているように見えた。 「耳は和の趣味だよ?」  和!? 「平良、可愛いから何着ても似合う」 「うん! 似合うから!」  この人! 自覚済み!? 皆が平良先輩に注目してる中、俺は平良先輩の後ろに隠れている人影に気付いた。 「!?」 「治弥?」  俺が、席を勢いよく立ち上がると、隣に座る朋成が俺を見上げた。 「……先輩方、すみません、ちょっと時間下さい!」  牧先輩達に俺は頭を下げて、平良先輩の後ろに隠れている、明の腕を掴んでソファの部屋へと連れていった。……ただ、明を皆に、見せたくなかっただけなんだけどな? 「声筒抜けになるから、盛んないでねぇ!」  そんな俺の様子を見た平良先輩は、にやつきながら、手を振って言っていた。 「盛りません!」 -14-  え!? 何!? 「どうしたの? 治弥?」  俺の腕を引いて、治弥はソファの部屋に入った。部屋に入っても無言のままで、俺に背を向けて入り口に立ったままだった。 「治弥?」  俺は治弥の顔を後ろから覗き込んだ。 「!?」  え? ……なんで、治弥の顔、真っ赤なの!? チラッと横目で俺の顔を見ると、治弥は自分の口に手を当てて、再び目をそらされた。 「治弥? ……嫌だった?」  俺がこんな格好するの、嫌いだったのかな? そう聞いても治弥は目線を外したままだった。 「………ごめん、俺、着替える!」  俺はただ治弥に喜んで欲しかったんだけど、嫌なら早く着替えなきゃ……。俺はシャツのボタンに手をかけて、一つ目を外すと、治弥にその手を握られ、ボタンを外すのを止められた。 「明……違うから、直視出来ないだけだから」  直視? なんで? 俺は首を傾げ、治弥を見上げると、目があった。 「可愛い過ぎだよ、明」  治弥はそういうと俺を抱き締めた。俺も治弥の背中に腕を回していた。 「……嫌なんじゃないの?」 「可愛い過ぎて誰にも見せたくない」  抱き締めていた手を俺の頬に沿えて、治弥は額同士を触れさせてきた。 「治弥、嬉しい?」 「うん、嬉しすぎ」  治弥は、笑って言うと、俺に唇を重ねてきた。 俺の事を愛しそうに笑ってくれたから、恥ずかしいけど、着てみて良かったと思う。治弥の喜ぶ顔が見れて、俺も嬉しかった。単純だけど、治弥とキスをしながら、俺はそう思った。 「合宿終わったら、実家に帰ろうか?」 「……帰れるかな?」  唇を離した治弥は、俺の顔を覗き込みながら、そう問い掛けてきた。 「一週間ぐらいなら大丈夫じゃないか?」 「生徒会は?」 「校舎も開いてないし、お盆くらいは活動しないだろ」  俺は実家に置いてきている、飼い猫のニケに会いたい。だから、帰れるなら帰りたい。治弥は大丈夫だって言うから、大丈夫な気がした。 「うん、一緒に帰ろ?」 「あぁ、一緒に、な?」  笑い合って俺達は、約束をした。   -15-  あぁ~明都君。可愛いよ? 君。生徒会室のソファのある部屋で、可愛い過ぎる明を抱きしめて俺は離れられずにいた。 「……もう俺、着替えていいかな?」  俺を見上げながら、明は真っ赤な顔で尋ねてきた。このままで居て欲しいけど、誰かに見せるのは勿体ない。そんな思考が交差する中、俺は明の頬をゆっくりと撫でていたが、視界に明の胸元が映る。 「は、治弥!?」  明の第一ボタンが開いてる事に気付き、俺は唇を寄せて吸い付けた。 「ちょっ! ……治弥!?」  明に頭を叩かれて、我に返った。ごめんなさい。無意識です。 「着替え……、手伝う?」 「~~っ!? バカ!」  鎖骨辺りに付いた俺の印を指で触りながら、明に言うと、明は力いっぱい俺を押して拒んだ。あっ、可愛い。 「明、遠慮しなくていいんだよ?」 「治弥!!? ちょっと、本当にいいって!」  抵抗する明を、ソファに押し倒しては、俺は明の上に跨がった。 「うぅ~~。変態治弥ぃー」 「真っ赤になる明が可愛い」  明は俺を見上げ、睨みながら言うが、顔を真っ赤にさせているので、可愛いしか言葉は出てこない。複雑に着飾ってるメイド服に手をかけながら、俺は明の体にキスを降らした。 「この衣装……、どうなってんだ?」 「俺も解んない」  脱がせようとしたが、メイド服なんて実際に見るのも初めてだが、その服を触るのも初めてだから、構造がどうなっているのか判らない。お互いに四苦八苦しながら、明のメイド服を脱がしていく。 「靴下、はこっか?」  なんとかメイド服を脱がしては、傍に置いてあった明の私服を着せていく。冗談交じりに明の靴下を、手に持ちながら明に告げる。 「治弥……、頭可笑しくなった?」  明は照れながらも、足を差し出しながらそう言った。このまま、抱きたい衝動を必死で堪えてる俺に対して、酷くない? 明都くん? 本当に着替えを手伝ってるだけの俺に安心したのか、今の明はされるがままだった。二回目は明がその気になるまで、待つって決めたから……。いいんですよ? 俺は。 -16-  無事に私服に着替え終わり、皆の居る部屋に俺と治弥は戻った。俺、顔赤くないかなぁ……。だって、治弥ってば、変態だよ……。本当に最後まで着替え手伝うんだもん。俺は自身の頬を両手で摩り、肌の温度を確かめていた。 「えぇぇ~!? 明ちゃん着替えちゃったの?」  着替えた俺を見て、平良先輩が最初に告げた言葉はそれである。 「治弥くん、激し過ぎて汚した?」 「??」  俺は咲先輩の問いに、頭の中で疑問付が浮ぶ。 「……してないし」  治弥は、ぼそっと俺の隣で呟いていた。してないし? 「なにが?」  俺は考えてもわからないから、治弥の袖を掴んで見上げながら聞いてみたんだ。 「明は気にしない方がいいよ」  すると、治弥は苦笑いを浮かべながら、俺の頭を撫でて言った。なんだろ? 「いい加減、さっさとエッチしたら?」 「~~っ!?」  尭江先輩がニヤついた笑みを浮かべ、俺達に向かって言う。そ、そういう意味だったんだ!? 「本当、閉じ込めてもしないし、女装させてもしないし……お前らは、どうなったら、するんだ?」  牧先輩は頬杖を付きながら、ペンで俺達を指差し聞いてくる。この状態は……、始まる先輩達のいつものパターン。 「……、そんなの自然の流れですよ?」  それでも、治弥は笑顔で先輩達に対応していた。 「俺、二日目だったのにぃーー!」 「平良、強行突破に出ても駄目だったもんな?」 「そういう尭江は何日目?」 「俺? 四日目の今日」  いやいやいやいやいや? なんの会話ですか? なんかよく判らない会話が、先輩達の中で成り立っている。内容が判らない。 「………、先輩方、俺らをネタに賭けするの止めて下さい」  治弥は顔を引き攣らせながらも、無理矢理にと笑みを作り言っていた。 「二人というより、治弥が何日まで我慢出来るか? だよ」 「…………阿保だ」  治弥はぼそっと呟いていた。それにしても平良先輩……、本当、賭け事するの好きだね。 -17-

ともだちにシェアしよう!